第6話

「乱舞はやめろよ」


「わかってるよ、そんぐらい」


 全速力で走りながら、グデオンとレザスは会話する余裕があった。

 彼が乱舞を禁止にしたのは、単純な理由だ。

 あれを使用している間は、避けることが出来ない。


 つまり、逆に乱舞を回避されれば、こっちが無防備になってしまうのだ。

 レザスは勢い任せがたまに傷なので、改めて忠告したんだと思う。


「いくぜ。【パワーナックル】!」


 このスキルは、私の放った【スイングインパクト】の拳限定といったところかな。拳の威力と破壊力を上乗せしてくれる。


 頭部にヒットさせるのが効果的なんだろうけど、レザスとは身長差がある。けど逆に、ハイゴブリンの剥き出しの腹部が、レザスの殴りやすい位置にあった。


 無駄に割れているその腹筋に殴り掛かった。


 ガントレッドがハイゴブリンの肉体にめり込み始める。

 効いている。


 3人ともそう思ったはずだ。


 けど、見上げるとそこには、不敵な笑みを浮かべた鬼の顔があった。


「グォォォ!」


 雄たけびを上げながら、ハイゴブリンはこん棒をレザスの横腹に叩きつけた。


「っぐはぁ!」


 吐血をしたレザスの体は、さっきのゴブリンのように吹き飛んでいった。

 一瞬で、私とレザスの距離が離れた。


 けど、私とグデオンはその安否を心配したりしない。


 冒険者になれば、こういうことは日常茶飯事だ。


 それに、こういう時のために私がいるんだ。


「【ヒーリング】」


 私はレザスのいる方角に向かって、手のひらをかざす。

 すると、彼の体が半透明な緑色の魔力に包み込まれる。


 レザスはこん棒攻撃を受けて、主に腹を負傷している、それ以外にも、殴られた衝撃などで所々軽傷を負っている。


 だけど、それは徐々にだが癒えていく。傷が元々なかったかのように、消えていく。


 私は、回復スキルを使えるヒーラーっていう存在だ。


 だから多少の無茶は大丈夫だ。


「サンキュー、ゼマ。おら、近づくんじゃねぇ!」


 すっかり元気になったレザスは、すぐに立ちあがる。そして、彼を追撃しようと集まっていたゴブリンたちを、その拳で殴り倒していく。

 綺麗な返り討ちだ。


「グォォオッォォ」


 問題はハイゴブリンのほうだ。雄たけびをあげながら、こん棒を振り回している。スピードの速いグデオンが翻弄はしているけど、彼の持つ剣はまだ届いていない。


「どうんすんの~!」


 私は足元のゴブリンを蹴散らしながら、前方にいるグデオンに指示を仰ぐ。ハイゴブリンの相手で忙しそうだけど、作戦を立てて貰わないと困る。


「このまま攻撃を続ける。ゼマ、お前も参戦してくれ」


 視野が広いようで、周辺にいる通常ゴブリンの数がかなり減っていることに気がついていたようだ。でも、私の攻撃じゃ良くて気絶だから、すぐに復活して戻ってくる可能性は高い。

 いや、だからこそ、今が攻め時か。


「おい、グデオン! 情けないが、おれの攻撃全然ダメージは行ってないぞ!? それでもいいのかよ!」


 ハイゴブリンに駆け寄りながら、至極まっとうな質問をする。レザスの拳は、ゴブリンなら一撃で殺せるぐらいの威力はあるはず。

 けど、それがヒットしたのに、ハイは全く動じてなかった。

 そうなると、私の攻撃も有効かどうか怪しいな。


 と思ってたけど、グデオンが私たちが納得する答えを出してくれた。


「っふ。っは。……よく見てくれ。奴の腹を」


 こんぼう攻撃を軽やかに避けながら、グデオンは頭と口を動かしていた。


 私とレザスは。言われた通りハイゴブリンの筋肉質な腹部に目をやる。


 すると、すぐに気がついた。


 うわ、めっちゃ跡がある。


 そこには、ガントレッドの形をした跡がくっきりと残っていた。そういえば、レザスの攻撃は、腹にめり込んでた気がする。


 つまりは……。


「おれの攻撃は効いてたのか!!」


 戦闘中だというのに、レザスは大はしゃぎする。ほんと、思ったことがそのまま口に出るなぁ。


「こいつはタフなだけで、防御力が高いわけじゃない。俺たち、3人ならやれる!」


 グデオンは微かに私たちに笑みを向ける。彼がこれをやる時は、自信があるってことだ。

 そうだよね。

 ハイって言っても、たかだかゴブリンなわけだし。

 私たち。ザ・ラッシュならやれる!


 私は自分自身で、戦闘士気をあげていく。別に恐怖はそれほど感じていないし、やる気もある。けど、熱がこもってた方が、不思議と体の動きが良くなる気がする。


「りょうかい! おれはこのまま、腹狙いだ!」


 レザスはハイゴブリンに飛び掛かると、同じ場所へとガントレッドを突きつける。

 敵はグデオンに夢中だったので、隙だらけだった。

 だから、さらにくっきりと、拳の跡が新たにつくこととなった。


「グウゥゥゥ!」


 声から察するに、さっきよりは痛みを感じていそうだ。だけど、体力お化けには変わらないようで、まだピンピンとしている。


 なら、今度は私の番だね。


 レザスが腹なら、私は……


「頭狙いね!」


 棒の有利な所は、そのリーチだ。拳で戦うレザスは、高い位置が苦手だ。高く跳躍すれば別だけど、それだけ空中にいる時が無防備になる。


 地上から高位置まで届くのが、私の強みだ。


「おりゃあ!」


 私も2人と連携するべく、ハイへとダッシュして近寄っていく。

 そして、縦に高く振り上げると、木の棒を真っすぐハイゴブリンに叩きつける。

 私の攻撃に奴は気がついていた。

 だからといって、避けれるとは限らない。


 敵からすると、相手をしているのは3人の人間だ。1人に集中すれば、他がおざなりになる。

 今は直近で殴られたレザスに怒っている。


 だから簡単に、頭部へと攻撃はヒットした。


「グウォォォォ」


 頭部はさらに柔らかいのか、手ごたえを凄く感じた。きっと脳が揺れたに違いない。

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