第5話

「さっすが、グデオンだな。いつ見ても、速すぎるぜ」


「お前のおかげさ」


 男子たちはお互いに褒めあい始める。仲いいな、おい。


「私には、なんかないの?」


 別に嫉妬したわけじゃない。けど、最初に仕掛けたのは私だし、労いの言葉ぐらい欲しかった。


「もちろん、おまえがいたからスムーズにいけたに決まってんだろ。まぁ、俺の殴りっぷりには敵わないけどな」


 レザスはわりと思ったことをそのまま口にするタイプだ。だから、意外と私や他の人のことを褒めたりする。だけど、一言余計だ。

 それに、それは悪く感じたとことも、それがそのまま発言に変わるってことでもある。

 んー、それは私にも言えるけど。


「まだ終わっていないぞ」


 フランクに会話をしていたが、グデオンはまだ気を抜いていない。

 彼の言う通り、全てのゴブリンを薙ぎ払えたわけじゃない。

 木の棒は剣と比べてかなり長い。

 だけど、攻撃範囲に限界がある。

 あーあ、この棒が伸びてくれれば、二度手間にならないのに。


 私は絵空事を頭に思い描きながら、残りの化け物退治へと向かっていく。


 ゴブリンと遭遇してから、10分ほど経った頃だ。


 森の草生い茂る地面には、大量の死体が散らばっている。青々とした雑草の中に、血みどろの深緑をしたゴブリンの死体が紛れている状態だ。

 ほとんど、グデオンが止めを刺したので、だいたい四肢がバラバラになっている。


 最初はこういった光景を見て、「かわいそう」「むごい」「吐きそう」なんて、感想を抱いていた。

 グデオンが言うのには、それは当たり前だって。そういう感情がなきゃ、人ではなく獣に成り下がってしまうって。


 だから、今も少しはそう感じながらも、グッと堪えている。

 同情して棒立ちになれば、今度は私が襲われる側になる。

 ゴブリンに犯されるなんて、絶対に嫌だ。


「少し、数が少ないような」


 グデオンは周囲を見渡す。繁殖期なので、ゴブリンの数はこんなものじゃない可能性がある。

 数10体でも多いけど、酷い時は100匹以上に増殖している時もあった。

 頻繁に子作りに勤しんでいるのだろう。想像はしたくないけど。


「あぁ、まだ殴り足りねぇ」


 闘志のつきないレザスを見て、こいつは獣に近いな、と感じていた。暴走したりはしないから、彼の中でもちゃんと生と向き合っているとは思うけど。

 私が一歩引いた目線でいられるのは、レザスが前にいるからかもしれない。


「私はもう満足かな」


 もうこれ以上、ゴブリンの顔を見なくていいなら、それで良い。早く村に帰れれば、この後の家事が随分と楽だ。


 だけど、こういう時に限って敵はやってくるものだ。


「あれは、まさか……」


 グデオンは森の奥に、モンスターの影を発見したみたい。けど、様子が少し変だ。ただのゴブリンなら、言葉を詰まらせたりなんかしない。


「まじか、ハイゴブかよ」


 森を堂々と歩いてきたのは、ハイゴブリンというモンスターだった。ゴブリンと名前はついているけど、見た目はかなり違う。


 まず、大きさが全く違う。


 元は私なんかよりもうんと小さいはずなのに、ハイのほうはたぶん2mぐらいある。体もがっしりとしていて、顔つきもかなり厳つい。

 さらに、片手に木で出来たこん棒のようなものを持っていた。元々はそこら辺の大木だから、かなり出来栄えは不格好だけど。

 武器を扱えるぐらいの知性はあるみたい。


「これはまずいな。クエストにはないが、討伐しなければならないだろう」


 彼がそういった理由はすぐに分かった。


 ハイオークの足元に、小さなゴブリンたちが軍隊のように群がっているのだ。ハイはいわば、リーダーのようなものだ。

 それに率いられて、ゴブリンたちの数が増えているのだ。


 ハイを狩らなければ勢力をドンドンと拡大していくかもしれない。はぁー、面倒くさいけど、やらないとまずいね。

 これは、村を守るために必要なことなんだ。

 それはつまり、私の家族を守るという事でもある。


「んじゃあ、どうするよ、リーダー」


 やる気十分のレザスが、グデオンに指示を煽る。基本的に作戦を練るのは、彼の仕事だ。


「まずはゴブリンが邪魔だな。けど、それに気を取られていては、ハイゴブリンに背後をとられる。

 よし、まずはゼマがゴブリンたちを左右に振り払ってくれ。そして、俺とレザスでハイゴブリンを叩く」


 即座に的確の指示をしてくれる。昔からグデオンは、咄嗟に案を編み出せる奴だった。


「また私がゴブリンか。あーもう気にしない!」


 いちいち鬼たちを気色がるのが、面倒くさいというか疲れてきた。あいつらは私に太刀打ちできない雑魚なんだ。

 怯える必要なんてない。


 私は指示通り、ゴブリンの群れに向かってダッシュをしていく。


 数10体いるし、一気に振り払うのには、スキルしかない。


 私はさっきと同じように、棒を振りかぶる。

 違うのは、棒に私の魔力が流れ始めているってこと。


「【スイングインパクト】!」


 動作はシンプルだけど、その威力は折り紙付きだ。

 まず初めに私は、左側のゴブリンたちに向かって棒を振り払った。


 すると、ドミノ倒しみたいに次々と隣のゴブリンに当たっては、後ろへとぶっ飛んでいく。


 そして今度は逆方向。振り払った勢いを乗せたまま、私はそれを反対側に戻していく。


 右側のゴブリンたちに棒がぶつかると、同じように倒れては森の奥へと消えていく。


 【スイングインパクト】は、打撃の威力や武器の耐久値、あとはぶっ飛ばし力も底上げしてくれるスキルだ。


 これによって、ただの木の棒はまだまだ使えそうだ。割れ目などは特に入っていない。


 本来なら、それらを追っかけにグデオンたちが走っていく。


 しかし、2人は私を通り過ぎて、前方にいるハイゴブリンに突撃していく。

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