第4話

 グデオンとレザス、そして私が冒険者パーティーを組んでから、もう4年ぐらいになるかな。元々冒険者志望だった2人が、【ザ・ラッシュ】っていうパーティーを組んでいて、のちに私が加入した。


 父親が亡くなって、一気に財政の危機に瀕したので、私が働かざるおえなくなった。


 それまでは、親の跡を継いで自分が冒険者になるなんて思ってもみなかった。


 最初は、3人ともまだレベルも低くて若かったから、低難易度のクエストばっかり倒していた。

 それでも、それなりにまとまった額を報酬金としてもらっていた。


 冒険者が行うクエストのほとんどは、モンスター退治だ。村の周辺に生息する、獰猛な生物だ。

 そのため、常に命の危険と隣り合わせだ。

 だから、その手当もクエストの報酬金に含まれているらしい。


 私の父親は、実際にクエスト中に亡くなった。詳しくは知らないけど、腕のいい冒険者だったらしい。

 ワイルドタイガーっていう虎のモンスターとの戦闘中に、命を落としたんだ。

 でも、父と同じパーティーを組んでいた仲間がいうには、そのワイルドタイガーは、集団だったらしい。

 成熟すると単独行動をするモンスターらしいけど、繁殖期だけは群れで生活するらしい。


 何体か倒したけど、最終的に群れのリーダーと相打ちだったみたい。


 その群れは、村に近づいていて放置していれば、私たちが危なかった。


 だから、父は村の英雄扱いだ。


 けど私は、父を尊敬なんてしていない。


 だって、私たちを置いていなくなったことに変わりはないんだから。


「またゴブリン退治か~」


 私は森の中を散策しながら、そうぼやく。

 ゴブリンは、小鬼って言葉がピッタリの、小さくてギラッとした目つきのモンスターだ。あんまり見た目が好きじゃない。

 中には女を積極的に狙う個体もいるらしいから、私の本能が拒絶しているのかも。


 私たち【ザ・ラッシュ】の3人は、村から少し歩いたところにある魔鬼の森へとやってきていた。

 その名の通り、ゴブリンばっかり繁殖している嫌な場所だ。


 そして、今回のクエストも当然、ゴブリン退治だ。

 その内容が、こんな感じ。


【恒例のゴブリン退治】


 毎度毎度、目を離すとすぐにあいつらは繁殖するな。

 少しは俺が対処しておいたけど、あれはすぐに増殖する。

 放っておくと、あいつらは村に降りてくるからな。

 手が空いているやつがいれば、早急に頼む


      依頼主・ワマス村の偵察者


 クエストは、1枚の茶紙に依頼書としてその内容が記されていることがほとんどだ。私は出したことないけど、内容は依頼主本人が書くらしい。

 私の村は人が少ないから、名前を書かなくても誰なのかがすぐに検討がつく。なんだかそれが、妙におかしく思えてしまう。


「おれは好きだぜ。殴り放題だからな」


 レザスは両手につけたガントレッドをかちつけて音を鳴らす。こいつは相手をぶちのめすことしか頭にないのかな。

 と感じる一方、その気持ちは私も理解はできる。

 見た目は苦手だけど、だからこそ殴りがいがある。

 あれ、私ってかなり危ない思考してるな。


「数が多ければ、それだけ報酬金が上乗せされる。生活費の足しになるだろう?」


 グデオンはたぶん私に気づかってそんなことを言ったんだと思う。

 彼は私の家庭事情を知っている。

 だから、私のモチベーションが上がるようにしてくれたのだろう。

 この男はそういのをノータイムでナチュラルに行う。


「そうだね。いっちょ、頑張りますか」


 実際、さっきよりは意欲が湧いてきた。冒険者の仕事や戦闘自体は嫌いじゃないし、どっちかっていうと私向きだ。


 ただ、ゴブリンよりは虫退治とかの方が、気持ち悪く感じない。


 でも、男2人がああみえて虫が苦手なんだよね。この森にも当然いるけど、かなり小さい。それぐらいなら平気みたい。

 でもクエスト対象の昆虫型モンスターは、バカでかいやつばかり。

 結構手強いのが多いし、確かに見た目的にはかなり気持ちが悪い。


 だから、あまりそういうクエストは受けない。


 リーダーのグデオンに決定権があるので、仕方がない。あいつ、優しそうにみえて、ちゃっかり自分の意見は押し通すタイプなんだよね。


 私たちが話しながら森を歩いていると、僅かに殺気のようなものを感じる。私はあいつらのことが生理的に嫌いだ。

 だからこそ、すぐにその気配に気がつく。


「グギャギャギャ」


 気色の悪い笑みを浮かべながら、色あせた緑色のゴブリンたちが草影から姿を現す。1体は子供サイズの大したことのないモンスターだ。

 けど、基本的に群れで行動するので、それが厄介だ。


 今回も、軽く20体ぐらいは越している。


「よし、いつも通りいくぞ。ゼマ、先陣は任せたぞ」


 リーダーのグデオンが戦闘開始の指示を出す。


「りょーかーい」


 自分でも気の抜けた返事だなぁ、と思いながら、私は背中にしょってあった木の棒を手に取る。


 このパーティーでの役割は、なんとなく決まっている。

 まずは私がモンスターに特攻して場を荒らすのが定番だ。


 見たくもない顔に突撃しながら、私は棒を横向きで振り上げる。

 そしてゴブリンたちの間合いまでやってくると、それを力強く、奴らに向かって振り払った。


「グゲェェェ!」


 まずは一番端のゴブリンの胴体にクリンヒットする。そしてそのまま、そいつを引きづるようにさらに横へと動かす。

 そこにはまだまだゴブリンがいるので、そいつらも巻き込んでいく。


 何体かは避難しちゃったけど、それでも10体ぐらいはまとめて吹っ飛ばせた。


 腕にかなりの重量が乗っていた。

 それと同時に、生物の肉体を殴る残虐で爽快な感覚が押し寄せた。

 それが憎い奴ならなおさらスカッとする。


 私はこの感覚に、少しジャンキーになっているのかもしれない。


 そして、私と同じく、何かを殴ることに取りつかれた男が駆け寄ってくるのが分かった。


「おっしゃあ、行くぜ!」


 私が吹っ飛ばしたことにより、ゴブリンたちは宙を舞っている。それに止めを刺そうと、格闘家のレザスが前に出てきた。


 彼の体は、金色のような半透明なオーラに包まれている。それは霧のような不安定な物で、生物の中に眠っている魔力というエネルギーの流れらしい。

 体内にある魔力を消費することで、私たちは強力なスキルを発動できる。


「【強拳乱舞】!」


 地面を強く蹴って跳び上がったレザスは、すでにファイティングポーズをとっていた。そして、そのままの体勢で何度もゴブリンたちに向かって拳を叩き込む。


 スキルといっても、ぱっと見はただがむしゃらに殴っているようにしか見えない。

 けど確か、魔力によって体が半ば自動的に動いてくれて、そのスピードや威力が格段に上がっているらしい。

 私もスキルは使うけど、確かに魔力を消費しているのとしていないのじゃ、随分と威力が違う。


 レザスは、ゴブリンたちが地面に落下する前に、拳を全ての個体の顔面にヒットさせていく。ガントレッドを装着しているレザスの拳を、あんなに小っちゃい体で受ければ即死もありうる。

 ゴブリンの中には、頭に角があるものもいて、それがぽっきり折れていたり、額から血が流れていた。

 殴られたゴブリンたちは、さらに後方へと飛ばされていく。


 あれでもう立ちあがるのは難しそうだけど、まだ息がある奴もいると思う。


「はぁぁぁぁ!」


 それを持ち前の俊足で追いかけるのが、鞘に入った剣の柄を握ったグデオンだ。私たちは皆、身体能力が高い。

 特にグデオンは、村一番の疾風っ子だ。


 圧倒いう間に、分けも分からず森の中を飛んでいるゴブリンたちに追いつく。


 そして彼も、体内の魔力と己の体を利用して、スキルを放つ。


「【強斬乱舞】!」


 彼は剣が鞘に納められたままスキルを発動する。抜刀術っていうんだっけ。このスキル自体は、抜いたままの状態でも発動できると思う。

 けど、この状態の方がスピードが出る。らしい。


 グデオンが剣を抜いた瞬間、すでにゴブリンの体が切り刻まれていた。私はギリギリ目で捉えられたけど、食らった小鬼たちは悲鳴すらあげられていなかった。


 さっきのレザスが放ったのも、似たような乱舞系統のスキルだ。けど、確か剣のほうが速度が出るんじゃなかったけな。

 それに、セミオートで発動するけど、使用者の肉体や技術によって、その性能が変化するみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る