第3話

 1時間後。


「いってらっしゃーい」


『いってきまーす』


 学生鞄をそれぞれ持った兄弟たちが、玄関に集まっていた。そこまで広くないから、ぎゅうぎゅうずめだ。


 皆、この村にある学校に行っている。そこまで大きくはない村だけど、私の家みたいに兄弟がいっぱいいる家族が多い。だから、意外と同級生はいるみたい。

 兄弟仲良くも大事だけど、他の子たちとも遊ばせたいから、私的には嬉しいことだ。

 私にも同級生はいる。けど、今は忙しくて、最近はあっていない子も多いけど。


 子供たちが一同に家を出ると、一気に静かになる。

 玄関に散らばっていた子供靴がなくなり、玄関がかなりスッキリとしている。

 なにか寂しくもあり、ほっとする気分もある。


 これで、今家にいるのは私と母さんだけ。

 母さんは病弱と行っても、介護が必要なほどではない。

 もちろん色々とサポートすることは多いけど、最低限のことは自分で出来る。


 だからといって、この後私が休みになるわけではない。


 母さんと私は、家計を支えるために仕事をしているからだ。


「じゃあ、私は編み物をするからね」


「りょうかーい。私もそろそろかな」


 母さんは寝室にある、ぼろいけど何故か座り心地のいいソファに腰かける。そして小さな台を前に置いて、その上に毛糸や作成途中のマフラーを乗せている。


 昔から母さんは子供たちの服を自分で作ってたみたい。

 当時はそれだけだったけど、今は違う。

 裁縫の腕がかなり良いみたいで、村では評判だった。だから、近くの服屋に下していたりする。

 子供たちがいつも着ている服が丈夫なのは、彼らが遊びまわっていることで宣伝できる。

 だから、思いのほか売れていた。

 でも、母さん1人で作っているから、生産が追い付いていない状況だった。


 私も手伝えばいいんだろうけど、まぁあんまり得意ではないかな。

 教えられたらそれなりには出来るんだろうけど。


 幸い、私には違う才能があった。

 どっちかっていうと、父親譲りなのかな。


 朝の9時を回らないぐらいの頃、彼らはやってきた。

 平日はいつも、これぐらいの時間に仕事仲間が訪ねてくる。


「ちょっと待って~」


 私は寝室に戻って、着替えをそそくさと済ませる。

 母さんが作ってくれた布服をベースに、ローブ風に加工してもらったものだ。色は白と灰色だから、結構汚れが目立つ。

 洗いがいはあるけど。


 動きやすいようにと改良していたら、気がつけばへそ出しだったし、腕と足の丈が短くなっていた。

 冬場は寒くてしかたがないけど、動いていればすぐに温かくなるから問題ない。


「んじゃあ、行ってきまーす」


 私は母親に挨拶をする。


「行ってらしゃい、ゼマ」


 優しい表情で、母さんは私を見送ってくれた。

 この時だけ、子供に戻った気がする。


 母さんには「何かあったら近所に頼るように」と言ってあるので、とりあえずは心配がない。近所のおばさま方も心配してくれるのか、たまに様子を見に来て長話をしてるみたい。


 私は再び玄関に戻ると、靴箱に立てかけられてある丈夫な木の棒を掴む。木の棒っていっても、そこらへんに落ちているようなものじゃない。

 1m以上はあるし、尖りがないように奇麗に加工されている。だから、持ちやすい。

 それでも、手がすれたりまめが出来るけど、すぐ治るから特に気にしない。


「おまた~」


 私は玄関の扉を開けると、朝の光と共に2人の影が目の前にあった。

 日差しが強くてまぶしかったけど、すぐにその顔が見えた。

 この時間に尋ねてくるのは、こいつらしかいないのは分かってるけど。


「おはよう、ゼマ。大丈夫か?」


 少し家から出るのに時間がかかったので、心配されてしまった。

 グデオンという長身のこのイケメンは、そういうとこに気が回る。


「気にしないで、いつものことだから」


 やっぱり朝は時間がいくらあっても足りないな、と改めて思った。けど、これ以上睡眠時間を削ると、頭が回らなくなりそうなんだよね。


「よっしゃ。それじゃあ、行くぞ!」


 朝からがなり声をあげるレザス。金髪で顔も濃いから、そのうざさが際立っている気がする。

 2人とは同級生で腐れ縁みたいなものだけど、いら立つことは結構ある。特にレザスには。


 お前はちょっとぐらい、私を心配しろっていうの。


「あんたは、ちょっとぐらい気を遣ってもいいと思うけど」


 私は思ったことを、わりとそのまま伝えた。レザスはデリカシーというものがあまりなく、ガキのまま大人になった男だ。だから、顔は悪くないくせに全くモテない。


「ん? なんのことだ? なんでもいいからさ、ギルド行こうぜ」


 仕事を探すために、彼はすぐにでもギルドに行きたいようだ。こいつの場合は、金を稼ぎたいというよりは、仕事そのものが好きなタイプだ。


 私はお金のためにやっている。けど、かなりストレス発散になるから、特に辞める気はない。


「まぁ、そう焦るな。クエストならまだ色々とあるはずだ」


 レザスをなだめるようにグデオンが冷静に話す。レザスとグデオンは男同士ということもあって、親友といっていいだろう。性格は正反対だけど、なんだかんだずっと一緒にいるよね。


「じゃあ、いっちょ稼ぎに行きますか」


 私は背伸びをして、仕事に向かう。

 レザスほどではないけど、私もすぐに仕事に向かいたかった。仕事が早く終われば、それだけ家に帰る時間が早くなるからだ。


 グデオンとレザスは、私を迎えおえると、村のはずれにあるギルドに向かって歩き始める。ギルドには、村の人たちの悩みとか依頼を仕事にしたクエストがいっぱいある。


 その仕事をこなすには、武器が必要だ。


 グデオンの腰には、ロングソードが収まった鞘が取り付けてある。

 レザスの馬鹿は、すでに両腕にデカめのガントレッドを装着してある。


 2人とも昔はあんなに小っちゃかったっていうのに、今は立派な男だな~。

 なんて、背中を見ながら感傷に浸ってしまった。


 まさか、私が2人と一緒に冒険者になるとは思わなかったけど。


 でも、冒険っていっても、近所の森や山にクエストに行くだけだけどね。


 そんな私の武器は、この木の棒だ。


 ちょっと2人に比べると、頼りないかな。


 でも、問題はない。


 だって私は、戦闘においても優秀だからね。

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