4-1:最強

 俺の妹、無為美むいみは天才だった。

 天才、と言っても姉さんのような努力型の天才ではなく本当に生まれ持った才能。

 本当に無為美はなんでも出来た。スポーツ、勉強、芸術、なんでも一回目で自分たちを凌駕する才能を持っていて、そのせいで僕と姉さんは壊れた。

 年が上の兄妹なのに何も出来ない。

 そうか、別に姉さんも努力型の天才なんてものじゃなかったんだ。

 ただずっと努力して足掻いてきて、それでも無為美に届かなかった。それはどんなに辛いことだったろうかは俺が知れるはずがない。

 姉さんは親からの愛を俺が産まれるまでは一身に受けていた。それが俺へと少し流れて嫉妬するなんてことは子供の可愛げのある心境だと思うが、無為美が生まれ、姉さんは親からの愛を全く受けなくなってしまった。俺と無為美の歳はあまり離れていなかったので親から愛された記憶なんて微塵も残っていないから悲しさなんて起きなかったが、姉さんは違う。姉さんは愛されたことを記憶している。そしてまた愛されたくて努力して足掻いてきたのに意味無く終わる。

 だから鬱陶しくて姉さんは親を殺したんだ。

 式宮機関のトップが毒殺なんてありえない。毒を盛ったとしても回復できるほどの技術力を持っているのにしなかった、それは監禁できて尚且つ毒が盛れる側近でしか殺害不可能だということ。

 家族という側近。

 でもそれで残るのはただの欠陥製品。愛されたいが故に姉さんは無為美を超えるということに囚われた。

 でも、それは無為美がいなければ始まらない。

 俺が殺した無為美を生き返らせようとしている。

 俺が殺した。

 俺が殺してあげた無為美を。

 

 ◇


 俺、メイ、クロネは獣人国ビスタイオンに向かった。アラスタル家が交通費を出してくれるということだったので馬車と船を乗り継いで3日で到着した。 

 ───はずだった。

 ビスタイオンという国は緑豊かな街並み。それは獣の面と人である面の両方を持つ種族だからという理由なのだが、そんな緑はひとつとしてない。


 あるのはただの焼け野原だった。


「うそ・・・・・・そんなわけ」

「何があったのでしょう」

 俺達は動揺を隠せない。だが、今はどうするべきかを考えよう。

「プリンは無事なのか?」

「それは・・・・・・わからない。昨日まではビスタイオンの宿主と連絡がついたんだけど」

「つまり一晩で、ということですか」

「でも一晩で国が滅ぶって。そんなことあるのか?」

 国ひとつ丸々一晩で滅ぶことなんてないだろう。戦争などの争い事でもじわじわと滅んでいくはずだ。それに焼け野原。

 戦争をするメリットとして植民地にしたり奴隷を確保したりなどがあるが、焼け野原になっている。つまりそれはただ滅ぼしたいがための戦争だ。

「あれって!」と言いながらメイが指を指した方向には人影が見えた。

 何があったのかを聞き出すためということもあるが、俺達もいつ狙われてもおかしくはない。集団で行動するのが得策だろう。

 黒いフードを被って顔は見えなく、身長は180センチ後半と言ったほどの高身長。威圧感がすごい。

「あの、ビスタイオンで何が起こったのか知っていますか?」

「すまないが俺もしらん」

 低い声を響かせながら男はそう答えた。

「そうですか、でも一緒に行動しません?この際いつ狙われるかわからないわけですし」

「ううん、そうだな、ん?お前よくみせてみろ」

 そう言って男は顔を近づけてくる。

「これは無礼を働いて済まなかった」

 ・・・・・・ん?何か俺失礼なことされたっけ。


「話しかける前に殺すべきだよな、すまない」


「下がって!!───光の盾ライトシールド───」

 メイが俺を後ろに引っ張り、光の盾を展開する。だが、その光の盾は一秒も経たずに謎の男の繰り出す炎魔法に割れてしまった。

「詠唱なしで───あがッ!!」

「クロネ!!」

 クロネが蹴り飛ばされ、俺の意識がクロネへ向く。その隙を逃さず謎の男は風魔法を自分の背中に発生させ、とんでもないスピードで近づいてくる。

「───催眠ヒプノーシス───ッ!!」

「お前は飛び抜けて弱いな」

 謎の男が回し蹴りを繰り出すのを何とか体を後退させて躱す。

「はァッ!!!」メイが剣を振りかぶるが、その剣をがっしり捕まれ、ついには握りつぶされる。

 そしてメイは殴られ倒れてしまった。

 もう使うしかない。

「───停止ストップ───」

 これで隙ができ

「時間停止魔法か、興味深い」

「───ッ!!」

 今度こそ回し蹴りが俺に炸裂し、吹っ飛ぶ。

 くそ。左腕の感覚がない。骨折とかそんなレベルじゃなく単純な話で腕がもげたのだろう。

「《転生者》もこんなものか」

 謎の男はフードをとった。そこには髪が長く、冷たい目をした3、40くらいの顔色の悪い顔立ちがあった。

 特徴的なのは───角。

 龍の、角。

「《十龍人》───どおりで一晩で国が滅ぶわけだ」と、メイが嘆息する。

「・・・・・・、コイツがあの人が探していた人か。期待はずれだったがまあいい」

「なんの事、だ」

 答えを聞く前に俺の意識は無くなった。

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モブおじ転生 longisgod @longisgod

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