第1話 蛟龍〜水の拳〜 第二十八節

 新しい本の匂いが漂う書店コーナーの中を照真に付いて歩いてみると、新刊本の充実ぶりが目に付くのが那美にも解った。


 だが照真の表情を見ると何だかあまり満足して無さそうな感じだ。

「照真、欲しい本は見当たらない?」

 那美が照真に聞いてみる。


「……う〜ん、売れ筋の新刊や雑誌は並んでるけどそれだけだね〜…」

 難しそうな顔で照真が答える。


 そして売り場を一通り周ってみてから、

「那美ちゃんは何か買うような本はあった?」

 と照真は那美に尋ねる。

 それを聞いた那美は、

「いや……私は特に無いな、ここは一通り見たし、ナディアと小菰の様子でも見に行ってみようか」

 と言ってエスカレーターへ向かった。照真もその後に付いて行く。


 途中で料理雑誌のコーナーで雑誌を立ち読みしている静江を見掛けたが、本に目を移していて照真と那美の事は気付いて無い様子だった。


 エスカレーターを上がると、まず目に付いたのがTVゲーム売り場で、国道側の方にゲームセンター、店の奥側の方はCDやビデオソフトを販売してる売り場のようだった。


 そしてまず、ナディアと小菰が向かったゲームセンターを見に行く事にする。


 店内を見回すと、以前行った遊SPOTペガサスとは違った明るい照明に照らされて、何台ものゲーム筐体とクレーンゲームやエレメカ等が設置されており、筐体の背と背を合わせて向かい合わせに設置されているいわゆる対戦台に、人だかりが出来ていた。


 那美と照真が近付いてみると、先日お城通りのゲームセンターで見た物と同じ対戦格闘ゲームに、小菰が座って対戦しており、どうやら連勝をしているようだった。

 小菰が操作しているキャラクターは、遊SPOTペガサスで那美が亜美と対戦していた時に使ったテコンドーの道着を着た男性で、対戦相手の少年が使っているのは小柄の白髪の老人だった。


 老人が煎餅を投げ付けて来たのを画面奥側に飛んでかわすテコンドー使い。

 オブジェクトの屏風が砕け散る。

 そして間髪入れずに飛び蹴りを返す。

 すると白髪の老人はテコンドー使いの蹴りをガードして掴むと共に飛び上がり、畳に叩き付ける。


 老人の必殺投げを喰らわされたテコンドー使いの画面上部の体力バーが点滅し、ピンチを示す。

 すると小菰はニヤリと笑い、テコンドー使いは飛び蹴りを出す。


 対戦している少年は明らかに焦った様子で、その焦りを表すかのように老人は後方へ飛び退すさる。


 その頭上をテコンドー使いが飛び越し、飛び蹴りが空振った瞬間、飛びかかるような姿勢から、嵐のような連続技を決めて最後に宙返りしながらの蹴りを決めた。


 老人は体力バーを一気に減らされて

『参ったー!!』と叫びながら派手に吹っ飛ばされた。

 テコンドー使いの男性が勝ちポーズを決め、小菰の隣に居るナディアが小菰を讃える。

「凄いナ、ココモ、コレで6連勝ダ、Surpreendente!!」

 その言葉にニコッと微笑み返す小菰。


「ヤバ過ぎだろコイツ……」

 と対戦相手の少年が呟きながら次の対戦者の青年と交代する。

 その青年もアッサリと敗退する。


 それからも数人が代わる代わる小菰に挑戦したが、誰も敵わないまま、ついには挑戦する相手が居なくなり、コンピュータ相手に対戦をしていった。


 そうして大袈裟な音楽と共に現れた大柄なボスキャラクターとの最終決戦が始まった。


必殺技や奥側のラインも巧みに使い順調に相手の体力ゲージを減らしていく。


 しかし、間合いが離れた時に大ボスがピンク色の大型の気合い弾を発射し、ジャンプしていたテコンドー使いはモロにそれを喰らってしまった。


 巨大な気合弾で吹っ飛ばされたテコンドー使いは、それでもまだ立ち上がった。


 体力バーがまだ残っていたのだ。


 そして小ジャンプからの急降下攻撃を空かして大ボスのハイキックを誘い、その隙を突いて飛びかかると、怒濤の連続攻撃を決めて大ボスを倒した。


 最後の宙返り蹴りが大ボスに決まった瞬間、ギャラリーたちから歓声が上がった。


「アイツが倒されるの初めて見た!」「凄ぇ!!強すぎだろあの子!!」


 ギャラリーの少年たちが口々に言う中、エンディング画面を見終えてハイスコア達成者のネームエントリーに"KKM"と打ち終えた小菰は立ち上がり、那美に、

「どうもお待たせしてしまって申し訳無いッス、那美師匠、それじゃ行きましょうかッス」

 と言いながら歩き出す。


「小菰、お前凄いな、前からずっとプレイしていたのか?」

 那美が小菰に訊く。


「格闘ゲームはガキンチョの頃からやってたッスからね、那美師匠もやってるんスか?」

 その言葉に聞き返して来た小菰に、

「いや、私は先日初めて触ってみた位で……しかし、あのテコンドー使いは使いこなしてみたいな」

 と那美は答えた。


「練習するんでしたら家庭用を買うのも手ッスけど……」

考え込むようなポーズをしつつ小菰が言う。


 それを聞いた那美は、

「家庭用ゲーム機か、クラスメイトたちは持ってる子もいるようだから誰か持ってるかな……?」

 と考え込む。


「う〜ん、でも家庭用ゲーム機の中ではかなり高額っぽいスから、持ってる人は少ないかもしれないッスね〜」

 と小菰が言う。

「ここのゲーム機コーナーに無いかな?見に行ってみようよ」

 照真がそう言ってゲーム機コーナーに向かって歩き出す。


 那美たちもその後に付いて歩いていくと、小菰が、

「あ、アレっす!!」

 小菰が指差した先には、ガラスケースに入っている他のゲーム機より一回り大きな黒い箱があった。


「どれどれ、値段は……58000円!?」

 照真が驚いて目を丸くする。

「なかなか高いな…買えなくは無いが」

 那美がそう言いながらそのゲーム機を見上げる。


「ソフトはアレッスね、しかしソフトも30800円もするッス、ソフトだけでも他のゲーム機より高いんスね……」

 小菰が額に汗を浮かべながら言う。


「よし、買おう」

 那美があっさりと言った。


「ええーっ!?那美ちゃん、本当に!?」

 照真がびっくりして言うと、

「現金なら持っている、喧嘩相手を病院送りにしてしまっても治療を受けさせられるように」

 と那美は答える。

「さすが那美師匠ッス!!心構えからして他所の喧嘩自慢なんかとは大違いッスね!!」

 小菰が感激したように言う。


「デモ、良いノカ?そんな大切ナお金をゲーム機ニ使ッテしまっテ」

 ナディアが心配そうに那美に言う。

「構わないよ、お小遣いやお年玉もあまり使うあても無くて貯めてるし、以前から小さな"歪み"を処分してきた報酬もあるから」

 と答える那美。


「それで那美師匠、コレを買われるのは良いんスけど、対戦するにはもう一つのコントローラーも買わないといけないみたいッス」

 ゲーム機の箱を眺めていた小菰が言う。


「じゃあそれも買おう。店員さんに話して来る」

 そう言ってカウンターへと向かう那美。

「ひえ〜、全部合わせて10万円位って、私はそんな買い物した事無いよ……」

 照真がそう言いながら付いて行く。


 そうしてゲーム機一式を買った那美は、1階に居た静江の元へ行き、ゲーム機を買った事を告げて篠山町に帰る事にした。

 と言っても値段までは言っていなかったので、後日値段を話して驚かれる事になったのだが……。








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