第1話 蛟龍〜水の拳〜 第二十七節

 市民病院の駐車場を出て、車を駅前に向けた静江は那美に、

「そのパオパオってお店はお城通り沿いにあるのよね?」

 と聞いた。


「うん、ここから駅前に出てお城通りをちょっと行った所」

 那美が答える。

 それを聞いた小菰が、

「パオパオって淳明ビルの所ッスよね、あそこの料理は大盛りで激ウマッス」

 と、うっとりしたような表情になる。


「ソンナに美味シイのか……それハ楽しみダ」

 ナディアも興味津々なようだ。


「餃子が本当にでっかくて美味しかったね〜」

 ニコニコしながら照真が言う。


 そうして車はお城通りを進み、淳明ビルを少し過ぎて、切り返して中国料理パオパオの前に着いた、着いたのだが……。


「あれ?なんだか今日は休みみたいだね」

 と、店の入口に掛けられた『本日休業』の札を見た照真が言った。


「あちゃ〜、ここ美味しい店なんスけど、不定休なんスよね……参ったッスね」

 小菰が頭を押さえて言う。

「休ミなら仕方無イナ……残念ダガ」

 しょんぼりするナディア、可哀想である。


「他の店にしようか、どこに行こう」

 那美がそう言うと、

「ハイハイハーイ!小菰、ちょっと行ってみたいラーメン屋さんがあるんスけど、良いッスか!?」

 と小菰が手を上げながら元気に言う。

「ラーメン屋さんもいいわね……行ってみようかしら?」

 静江がそう言うと、那美とナディア、照真も頷いた。


「それで小菰、何ていう店なんだ?」

 那美が小菰に聞く。


「9号線沿いの『福知庵』ってお店ッス、自衛隊さんのある丘の手前ッスね」

 小菰が答える。


 それを聞いた静江は、

「こっちからだと坂を下りた辺りになるのかしら、じゃあ、そのお店に向かうわね」

 そう言って車を発進させた。


 淳明ビルの横の脇道を通り、JR山陰線の踏切を渡る。

 ここからは中央線の無い街中の細い道だ。

 しばらく街中を走り、福知山信用金庫がある交差点を越えると国道9号線の交差点に出た。


 そこを右折して少し走ると、下り坂があり、

「あそこッス、新しい店だから繁盛してるみたいッスね」

 小菰が指差す先、坂を下りた右側に『らーめん』『福知庵』という看板を掲げたラーメン店が見えて来た。

 静江は店のある交差点を右折して、駐車場へ入り車を停めた。


「こんな店があったんだね〜」

 車から降りながら照真が言う。

「照真はこちらの方に廻って来たのは初めてなのかな、この先にはABIXという店があって、本やCDやゲーム機なんかを売ってるよ」

 そう那美が言うと、本という言葉に反応した照真が瞳をキラキラさせて顔が見る間にニコニコ顔になり、

「静江さん、後でそこに寄ってもらって良いですかっっ!?」

 と勢いよく静江に迫った。


「え、えぇ、分かったわ、帰りに寄りましょうね……」

 笑顔ながらも頭上からズズズイッ、と迫り来る照真の妙な迫力にされつつ答える静江。


 そうして5人は店の前の行列に並んだ。

 回転は割と速く、列はスムーズに店内へと入っていく。

 やがて店員の案内でテーブル席へと通され、静江、ナディア、小菰の3人と、那美、照真の2人との席に分かれた。


 そうして皆でメニューを見て、

「私は、福知庵ラーメンにするわ。みんなは?」

 静江が言うと、

「私もそれで」「私モ同ジ物デ」「じゃ私も」「小菰もソレにするッス」

 と、5人共同じ物を頼む事になった。


 店員が伝票にオーダーを書き込み、注文を伝えに厨房へ行った。


 注文を終え、那美は店内を改めて見回した。

 席はカウンターまで全て埋まっており、店の外には更に行列が出来ていた。

「お待たせ致しました、福知庵ラーメンです」

 程無くラーメンが運ばれて来た。店員が一杯づつテーブルに置いていく。


 最初の3杯は、ナディアと小菰の前に置き、静江の前に置かれたものは照真へと渡した。

 続けて間もなく来た2杯を那美と静江が取り、


「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


と言う店員の言葉に頷き返した。


「ごゆっくりどうぞ」

 店員がそう言って伝票をテーブルに置いて、5人揃っていただきます、の挨拶をして、ラーメンを食べる。


「美味いッス!!」

 一口食べた小菰が言う。その言葉ににっこり微笑む静江。

「本当だね、スープが濃厚で味わい深い良い味してるね〜……」

 照真も幸せそうな表情で朗らかに言う。


 那美とナディアは黙々と食べるが、食べるのに集中してるだけで美味しいとは思ってるようだ。


 そうして小菰、那美、ナディア、照真と完食し、静江が食べ終わるのを待つ間に、小菰がメニューを眺めていると静江が、

「何か他に食べたい物があったら注文していいのよ」

 と微笑みながら言った。それを聞いた小菰は、

「いえっ!ただ見てただけッス!お気遣いありがとうございますッス!!」

 と姿勢を正した。

 それを見た静江は、ニコニコと微笑みつつラーメンを食べ終えて、

「ふぅ……ご馳走様でした。美味しかったわ」

 と言い、伝票を手に取ると、

「それじゃ、行きましょうか……その、ABIXへ」

 と言ってレジへ向かった。


「ご馳走様でしたッス!メチャメチャ美味しかったッス!!」

 店を出ると、小菰が静江にお辞儀をしながら言った。そんな実直な小菰を見た静江は、

「良いのよそんなお礼なんて……私も知らなかった良いお店が知れたんだから」

 と笑いながら言う。


「ありがとうございます静江さん、美味しいラーメンでした。」

 照真も静江に礼を言う。


「本当に美味しいラーメンだったな、ナディア」

 那美がナディアに言う。ナディアも、

「ラーメンと言ウ料理ハ『マリチャン』しか知ラなかっタガ、こんなニDenso……いっぱい美味シイラーメンは初メテだったヨ、シズエサン、Obrigada!」

 と言い深くお辞儀をした。

思わずルーマニア語では無くポルトガル語が出てしまっているのだが、ナディアも静江も気付いて無いのは幸いと言えるだろうか。


「みんな喜んでくれて良かったわ、父さんが退院する時にまた来てみようかしらね」

 静江は笑顔でそう言って車のドアを開けた。


 そうして皆乗り込むと、静江は駐車場から車を出し、交差点へと向かった。

 その途中に『福知庵』の方を見てみると、店の外には長い行列が出来ていた。かなりの繁盛っぷりである。


『福知庵』の交差点を右折し、国道9号線を道なりに進むと、左手に大型総合メディア店である『ABIX』が見えて来た。


 静江は車を左折させて駐車場へ向かう。

 日曜日という事もあり、駐車場はかなり混雑している。

 そんな中で、丁度駐車スペースから出る車があったので、空いたスペースへ駐車する。


「それじゃ、しばらく中を見て回りましょうか、私は書店で雑誌を見てるから、用が済んだら来てね」

 静江がそう言いながら車を下りる。

 はーい、と答えて那美たちも車から下りて店内へと向かった。

 ちなみに一番早かったのは長身を活かしたストライドの差で照真だった。もっとも放っておいても書籍コーナーにまっしぐらだったが。


「那美師匠と照真さんは本屋を見て回るんスね、小菰は上のゲームコーナーに行って来るッス!!」

 照真に寄り添う那美を見た小菰は、そう言うとエスカレーターへ向かおうとしたが、


「ナディアっちはどうするんスか?」

 とナディアに言った。

「ナ、ナディアッチ!?」

 言われたナディアは驚いて思わず聞き返す。

 今朝まではナディアねえさんだったのにえらい気安さである。


「15歳の小菰の方が"お姉ちゃぁん"だと判ったからには、君の事はナディアっちって呼ぶッスよ」

 腰に両手を当てて、やや前傾姿勢でお姉ちゃん、の所をやけにネチッこく言う小菰。


「解ッタ、じゃあナディアッチはオネェチャーンにツイテ行ク」

 なんだか嬉しそうに答えたナディアは、ニコニコしながら小菰の後を付いて2階に上がって行った。


 その姿を見送った照真は、先日見た夢の中の謎の店舗の中での光景と二人の姿が一瞬重なって見えたが、気のせいだ、と頭を振ってその考えを振り払った。









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