第1話 蛟龍〜水の拳〜 第三節
ブゥン!!
重々しい音を発して
照真だったら持ち上げるのも難しそうな重くて頑丈そうな鉄の鎖だ、小さな身体の那美が受ければ大怪我をしてしまう、と照真は震え上がった。
だが、激しく空気を裂いて身体を打つように見えた鎖を那美は素早く左腕で受けた。
「ぬうっ!?」
ジャララッ、と那美の腕に巻き取られた鎖を見て斗升が
どうやら鎖の勢いを上手く殺したのか、那美には怪我などはなかったように見える。
しかしいくら鎖を受け止めたとしても、大人と子供程の体格差のある斗升に那美が敵うようには照真にはとても見えなかった。
「舐めんなごらぁ!!」
鎖を軽々受け止められて驚きを見せていた斗升が
だが、那美の身体はビクとも動かず、体勢すら崩す事は出来なかった。
そして次の瞬間、
ジャキィィィン――――!!
鉄の鎖が甲高い金属音を立てて断ち切られた。
「ぬがっ!?」
全力で鎖を引っ張っていた斗升は、急に支えを失い後ろにつんのめって尻餅を付きそうになる。
「
倒れかけた斗升の
それを見た不良たちの間に動揺が走る。
『え、えぇーっ!?』
恐怖に身が
(でも……今のが見間違いじゃ無いとしたら、御槌さんが鎖を"叩き切った"…?)
あの鎖がチャチな作りだったり、既に切れそうになっていたとしても、あんな風にはならないんじゃないだろうか。
あの大男が那美の左腕に巻き付いた鎖を引っ張った瞬間、那美の右腕が素早く翻ったのは照真にも見えた……そして、その一瞬那美の右腕に青白い光が見え、鉄の鎖が切断されたような気がしたのだ。
そうして照真が怯えていた事も忘れ、衝撃の光景に驚きを見せている間に、那美は驚き立ちすくんでいる不良たちに向かっていく。
そして鉄パイプを持っている赤毛の少年の手から鉄パイプを奪い取り放り投げ捨てると、その頬に痛烈なビンタを見舞った。
パァン!!と大きな破裂音のようなビンタの音が響き、赤毛の少年はヘナヘナとその場に腰を抜かしてしまう。
それを見た他の不良たちは、金縛りから解けたように雄叫びを上げて一斉に那美に襲い掛かった。
「うらあぁぁぁぁぁ!!」
那美の背後に回った不良がバットを振り下ろす。
バシッ!!
乾いた音が響き、振り返らず那美が放った裏拳がバットをへし折る。
そして折れたバットを持った不良の懐に那美は潜り込むと、
「ちょっ、コイツいったい何なんだよぉ!!」
木刀を持った不良が叫びながら振りかぶった木刀を那美の頭部に振り下ろす。
カンッ!!
那美が振り向きざまに手刀を放ち、丈夫な赤樫の木刀は半ばから綺麗に切断されていた。
「うわ」
木刀を持った不良がうわっ、と声を上げる間も与えずに、その顎に那美の回し蹴りが叩き込まれ、気を失った不良はその場に崩れ落ちた。
そこからはもはや喧嘩では無く一方的な蹂躙であった。
「ぐわっ!」「げひっ!」「痛ぇ!!」
相手に戦う意思があろうと無かろうと那美が動く度に不良たちは打ちのめされ、吹っ飛ばされ、あるいは投げ飛ばされていく。
(御槌さんがケンカが強いとは聞いてたけど、ここまで凄かったなんて……)
照真はまるで映画のアクションシーンの撮影を見たかのような爽快感と、現実の荒事を目の当たりにした衝撃で頭が麻痺したようになっていた。
那美は不良たちをあらかた叩きのめすと、道の向こうで電柱に隠れて震えている照真に歩み寄ると、
「大丈夫?あいつらに酷い事されなかった?」
と気遣いの声を掛けた。
「あっ、えっと、大丈夫、です……」
先程の激しい乱闘の最中に見せていた無表情で冷徹な姿とは違い、本気で心配し相手を思いやる表情を見せる那美に照真は、この子はこんな顔もするんだ……と何だか虚を突かれたかのように呆気にとられてしまっていた。
「!!」
そうして那美と話していた照真は、那美の背後に特殊警棒を持った不良が忍び足で近付いて来るのに気付いて、後ろ!と叫ぼうとした。
だが那美は照真より先に気付いていたのか、クルッと振り返ると、警棒を振り上げようとしていた不良の右腕を抑え、がら空きの腹部に拳を打ち込……まずに、腹に拳をトン、と軽く当てた。
不意を突いて殴るつもりが逆に不意を突かれ、腹に一撃を覚悟していた不良は、警棒を手放して何故か両手で腹を押さえてうずくまった。よく見ると泣いている。そして、その不良は最初に照真に絡んで来たあの不良だった。
「皆歩いて帰れるように手加減した筈だ。これ以上まだやる気なら行き先が病院になるぞ」
照真に話し掛けていた時とは違う冷酷な表情で那美が言い放つ。
「い、いや、もうやらねぇ、勘弁してくれ」
声を殺して泣いていた宇宙怪獣顔の不良は尻餅をついて後ずさりながら、自分が呼んできた仲間たちの方へ振り返った。
那美に散々叩きのめされ投げ飛ばされた不良たちは、仲間に肩を貸したりそれぞれもう立ち上がれるようで、一番痛い目に遭っただろう大男の斗升も、憮然とした表情であぐらをかいていた。
そして不良たちは『覚えてろ!!』なんて捨て台詞も無く、皆一様に力無くうなだれながらよたよたと
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