第4話 傾向と対策
俺たちのまるでセオリー無視の対応にサキエも段々と落ち着きを取り戻した。
ここで一つ逆説を立証したのかも知れない。
ホラー映画やその類の作品等では基本視聴者にも恐怖の感情を植え付けるため、怪奇現象等が起こるとその周りの登場人物達は冷静さを欠いている事が基本である。喚き散らしたり、叫んだり、腰が抜けたりそのリアクションのバリエーションは様々だが、基本誰一人として無反応なやつ等いないのだ。
そのうち画面の中の人間達はパニックに陥り、怪奇現象の黒幕の掌で踊らされるのがオチなのだ。
ところが今の俺たちはどうだ。恐らくだがこの掴まれるという現象も倉庫にあるという例の呪われた本によるものだろう。きっとその本は俺たちをパニック状態に陥れ、冷静さを失わせる事で恐怖という感情を通して何かを伝えたいのだろう。そうはいかなかった。
「恐らくだけど、これから本に近づくに連れて変な現象が連続すると思います。タイキは大丈夫だろう、サキエさんはとにかく声をあげないで、俺に付いて来てください。これから早速実験を始めます。」
「実験…ですか。私あの本をどうにかして欲しいだけなんですけど…っていうか声あげないでってハードル高過ぎませんか…」
「冷静ですね。これなら大丈夫です。とにかく怖がらない事が重要です。」
「女子にそれはちょっと酷やろお前…見かけの割に黒いよなホンマ」
「目的の為には手段は選ばないよ。こんな経験そうそうないんだ。サキエさんには悪いけどね。じゃあ進もうか。」
俺たちは更に奥へと進む。3メートル程進んだあたりで俺の耳元で誰かが囁く。
「出てゆけ。」
そらきた!!これぞ怪奇現象だ!この3人の誰でもない低い声で確かにそう聞こえた。しかも真後ろにいるサキエやタイキには聞こえていないようだ。
興奮する感情を抑えて俺はその声に返答した。
「うるせぇぞハゲ。黙ってろカス。」
ビクッとしてサキエが言う。
「急になんですか…別の意味で怖いです。」
当然の反応だ。2人からすれば急に俺が罵詈雑言を吐いただけに聞こえるだろう。だがタイキは俺がなにをしたいのか心得ているのだろ
う。
俺は今少しずつ実証をしていた。映画やマンガでは通例とされている事の逆を実行している。怯えたり虚勢を張って大声をあげるのは普通、その逆、静かにキレる。
呪いの本側からすれば今混乱しかけている事だろう。最初の女は見事怯えさせることに成功したが2人目の男はどうやら冷静さを保ちながら半ばキレているのだ。
すると突然タイキが
「ハッ、しょーもな。ホンマ。お笑いって知ってるか?」
「今度は何ですか。タイキさんまで。」
「なにか見えたのか。タイキ。」
「ドアの向こうにうっすら顔見えたわ。ベタに青白い女のな。くそつまらんわ。」
やはりの反応だ。流石タイキ。俺がやっている実験に協力してくれているのだろう。いや彼の場合本心かもしれないが。サキエも俺たちのあまりの態度に緩和されたのか少し楽そうだ。
タイキは今、ベタの逆、今度は鼻で笑って軽く罵倒したのだ。
本は更に混乱している事だろう。
内心ワクワクしながらついに倉庫にたどり着いた。ドアノブを握る。とてつもない寒気が全身を包んだが、こんな脅しの為に返す言葉もない。
ドアを開ける。サキエが電気をつけようとスイッチに手を伸ばす。しかしここはお約束。全く明かりがつかない。
だが俺にはそんな事分かりきっていた。
「ご安心を。」
俺はおもむろにカバンから夜間作業用の野外照明を取り出した。明るさは驚異の6000K。
バッテリー内蔵式で外部電源は使わない。文明の利器である。一般的な学校の教室の半分程度しか無さそうなこの空間であればコレ一つで日中のオフィスくらいの明るさにできるだろう。多分例の本は暗い空間でおびえながら自分を探させたかったのだろう。途中途中で先ほどの嫌がらせを挟みながら。
そうはさせない。俺はまるでニコニコしながら電源をつけた。
ホラー好きなオレがホラーについて考える 鯖人 サバト @sabato-bayashi
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