第3話 初遭遇

「オモロそうやなぁ。どないしたろかその本。」


「破壊はダメだぞ。実験が済んでからだ。俺はメカニズムが知りたいんだ。」


「細かいやっちゃなぁ。そんなもん知ってどうすんねん。腹立つから全部壊すんや。」


アルバイトの娘がクスクス笑う。


「面白いですね、お兄さんたち。私はサキエと言います。お名前をお伺いしてもいいですか?」


「名乗り遅れましたね。俺がユウヒ。この脳筋が友人のタイキです。」


軽く自己紹介を済ませ、早速サキエに連れられて奥の倉庫へ案内される事になった。


貸し出しカウンターの裏にドアがある。その奥が倉庫らしい。だがサキエがそのドアを開けようとしない。


「なんや。もったいぶらずに早よ行こや。」


「怖いんです!!!先に行ってもらえませんか!!道案内は後ろからしますから!!」


正直普通の女の子の反応だった。ホラー好きの俺たちを見て嬉しそうにしてたからてっきり彼女も好きなのかと。


「じゃあ俺が先に行きますから。その後ろから付いて来てください。」


俺、サキエ、タイキの順でRPGみたいに進むことにした。繰り返すがまだ図書館の倉庫へ行くだけの話だ。


ドアを開ける。すこしホコリっぽくて「いかにも」という感じの道が続いている。窓は無く、廊下も大人2人が横並びになって埋まるくらいの狭さ。照明は付いておらず、非常口の緑色の光が行く先をポツポツと照らしているだけ。


見たところ長さは30メートルくらい。途中にはドアが四つ。資料室とかそんなところか。


正直言って手入れはされて無さそう。例の本によって何かしらの事があって他のスタッフも踏み入る事を辞めたのだろう。


後ろのドアを閉めるとほとんど何も見えない。非常口の明かりだけを頼りに進む。

後ろでサキエが震えているのが分かる。


「めっちゃ怖がりやん。自分。」


「怖いですぅう…」


正直普通の人ならこんな通路怖すぎると思う。雰囲気だけでいけば心霊現象が起きる要素しかない。真っ暗な廊下に非常口の明かりと中が見えないドア。こんなの普通にズンズン進んでいける俺たちの方がおかしいのだ。


「きゃああああああああああああ」


昨今のくだらないホラー系特番でしか聞かないお手本のような悲鳴をあげるサキエ。

普通こういうのは間近で聞くと、こちら側もビックリするのが通例だが、そこは俺たち。

至って冷静に聞き返す。


「どうかされましたか?」


「あ、足首を掴まれたんです!!!」


「なんですって!!よく見せてください!」


普通こういうのは怖がったり、恐る恐る見たりするのだが、俺たちはキラキラした目で彼女の足首を見た。なんたって憧れの怪奇現象が目の前で起きたのだ。


「確かに掴まれた跡がありますね。かなり強く掴まれた様です。少し内出血を起こしていますね。痛くないですか?」


「痛くはないですね…っていうか冷静過ぎません?もはや嬉しそうにも見えますけど。」


「痛ないんか。おかしいやんけ。内出血っちゅう事はかなり強く握られとんぞ。おいサッチー。他に恐怖以外で感じる事はないか?」


「さ、サッチー?恐怖以外でって。そこが1番重要だと思うんですけど…掴まれた瞬間は冷たい感触でしたね。まるで水の様な…」


「冷たい、ですか。幽霊の常套句ですね。ですがあえてその言葉を使わないとすれば、無機物である可能性が高そうですね。普通生き物であれば多少の熱があるはずです。掴まれたのだとすれば何らかの生命体である可能性は高いのですが…面白いですね。」


「何に掴まれたか、やな。次掴まれたら教えてな。八つ裂きにしたらぁ。」


「…なんなのこの人たち…」


大興奮している俺たちをよそ目にサキエはちょっと引いていた。





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