8話

「酷な実験ですね」


 若い研究員は小さな地球で起こっている映像を見ながらそう呟いた。


 隣にいた少し歳上ぐらいの研究員は、平気そうに言った。

 

「そうだけど、最愛の人と会えるなら別にいんじゃあねえか?」


「そうですけど、あの男がどれだけ頑張ろうと、必ず同じ未来にさせ、過去に戻す実験を強制的に行わさせるなんて・・・」


「まあ、それに加えて同じ未来にするために、後藤が直々に修正しに行くとはちょっと恐ろしいものがあるな」


 若い研究員は、最後のループが始まったのを見て息を呑んだ。


「あの男は何やってるんですか!?」


「これがあいつの下した判断なんだろう。最後の勇姿を見届けようじゃないか」



 


「あぶなかったねー。けど、そろそろ離してくれな。ちょっと恥ずかしいだけど」


 寒空の下、俺は彼女の暖かさを感じていた。ずっと感じていたかった。


 俺は自分のポケットの中を確認した。


 そして、彼女との日々に思いを巡らせていた。初めて会った日のこと。ショッピングモールに遊びに行った日のこと。散歩したこと。どれもが本当に楽しいと思える日々だった。


 だからこそ、言わなければならない。


「今までちゃんと口にしてなかったけど」


「なに?」


「俺は君のことが好きだ」


 彼女は今まで見たことないぐらい驚いていた。


「急にどうしたの?」


 いつかした、約束を叶えるのはここしかなかった。


 俺は初めて彼女にキスをした。


 彼女は驚いた表情で俺と目を合わせていたが、やがて目を瞑った。


『ありがとう』


 一瞬そんな声が聞こえた気がした。


 そして、彼女は死んだ。


 毒薬を口移ししたからだ。もちろん、自分の口にも入っていたから、俺も意識が朦朧としてきた。


 たが、まだ一つやらなければならないことがある。


 俺は足元をふらつかせある場所に向かった。


 ポケットに入っているもう一つの薬を手に取った。


 そこにはまだ何も知らない俺が立っていた。


 今からは地獄のループが待っている。


 だが、いつか必ずこのループから抜け出して、彼女を救ってくれ。


 必ず諦めるな。彼女がそう言ったように。


 そう、思いを託し俺は言った。



「この薬を肌身離さず持っていろ」

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彼女が笑って死んだ理由 @tomorokoshi

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