7話

 俺は彼女をトラックから守っているところだった。きっと、ちょうど三分前が、このタイミングだったんだろう。

 

 情けない話だ。あれだけ、意気込んでいたくせに、結局三分しか彼女を守れず、挙句の果てに彼女が犠牲になり俺を助けるなんて。


 きっと、無理なのだ。運命に争うなど。


 俺はただひたすら彼女を抱きしめていた。


「ねえ、どうしたの?ずっと抱いてるけど?」


 彼女がそう言ってきた。


 仕方ないだろ。それ以外、俺には何もできないんだ。


「ごめん。ごめん。ごめん。」


 俺は泣きながら彼女に謝り続けた。

 

「本当にどうしたの?だいじょうぶ?」


 彼女は逆に俺を優しく抱きしめてくれた。彼女の暖かさが服を通して伝わってきた。


 それからずっと俺はそうしていた。そうしていたかった。

 だけど、もちろん長くは続かなかった。


 サクッ


 彼女の方からそんな不気味な音が聞こえてきた。


 服を通して濡れたものが伝わってきた。


 視界の隅で、何者かが逃げていった


 通り魔だった。


 なんでもありなんだな。


 いや違う。


 きっとどれもあの通り魔がやったことなのかもしれない。


 あの通り魔が誰かなんてどうでもよかった。


「だから、どうして俺は毎回殺されないんだよ!」


 彼女の息は次第に荒くなり、その場に崩れ込んだ。


 俺は彼女を抱えて、傷口を押さえた。勿論意味はない。

 俺は、堪えきれなくなり、今ここで聞いてはいけないことを口にした。


「なぁ、もし君が必ず死ぬ運命だったら俺はどうすればいいんだ?」


 言った後で後悔した。何を馬鹿なことを聞いているんだろう。


 しかし、そんな後悔も忘れさせてくれるような、笑顔で答えてくれた。


「幸せな気持ちで、君に殺してもらいたいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る