6話

「あれ?おはよー。何でここにいるの?」


 俺はその言葉で我に帰った。


「えっと、あっ、早く会いたくてね」


 思考がこいつかないがなんとか言葉を絞り出した。


「ふーん。変なの。それじゃっ行こっか!」


 そしてまた、同じように彼女を自分のに引き寄せ、トラックから守った。


 俺は彼女を抱きしめた状態で、最悪な状態のことを考えていた。

 もしかすると、彼女は死ぬ運命かもしれない。前にそんな短編小説を読んだことがある。


 彼女はあの時何と言っていたか。


『もしあたしがその友達だったら絶対諦めないけどな』



 そうだ、彼女は絶対助けようとするはずだ。


 俺が何もできなくてどうする。


 何としてでもあと三回以内に彼女をこの死のループから救うんだ!


「あぶなかったねー。けど、そろそろ離してくれな。ちょっと恥ずかしいだけど」


「あぁ、ごめん!」


「じゃあ、気を取り直していきますか!」


 そう言って彼女は階段の方向へ向かった。


「ちょっとまって!」


「え?!」


 俺は咄嗟に彼女をお姫様抱っこした。


「わあ!どうしたの?急に大胆だねえー!」


「いいから黙ってしがみついてて」


 そして、全速力で走った。


 周りから変な目で見られてもいい。彼女にどう思われてもいい。ただ、彼女が生きていればそれでいい。


 俺はその一心で駆け抜けた。肺が潰れようと、足に力が入らなくても、気合と根性で運命をかえなければならないんだ。


 だんだん苦しくなってきた。とにかくまずは俺の家に彼女を運んでいこう。


 そして、そのあと何か対策をじっくり考えるんだ。


 きっとなんとかなるはずだ。


 そんな訳はなかった。


「あれ?」



 俺は上を向いていた。


「おい!建設資材が落ちてきたぞ!」


「人が潰されてるぞ!救急車を呼べ!」


 そんな声が聞こえてきた。


 現実はなんて残酷なんだろうか。


 俺の目の前には俺を庇った形で血だらけになっている彼女がいた。


 皮肉なことに、彼女は俺を守って死んでいた。


「・・・やめてくれ」


 俺はまた、指を震わせて時間を三分前に戻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る