5話

 あの日と同じ気温、同じ天気、同じ風景。作られたとはいえ全く同じ世界であると実感した。


 とりあえずあの日、彼女が死んでいた場所にて彼女を待つことにした。すると


「あれ?おはよー。何でここにいるの?」


 その声は紛うことなき彼女だった。


 俺は思わず泣きそうになった。しかし、気を緩めてはいけない。今から数分後に彼女は死ぬのだ。


「早く会いたくてね」


「ふーん。変なの。それじゃっ、いこっか!」


 いつも通り、俺をからかい彼女は楽しそうだ。前は感じなかったが、とてつもなく幸せだった。


 これが一生続けばいいのに。俺がそう思った時。


 俺の目の前から彼女が消えた。いや、彼女がいた場所をトラックが通過していた。


 鈍い音が響き渡った。


 ・・・え?・・・どうして?


 飛ばされた彼女の方を俺は見ることができなかった。


 俺のいた世界で彼女は、トラックに轢かれて死んでないはずだ。


 俺は指を震わせて、時計に手を伸ばした。そして、この世界を三分前に戻した。



「あれ?おはよー。何でここにいるの?」


 俺はその言葉で我に帰った。


「えっと、あっ、早く会いたくてね」


 思考がこいつかないがなんとか言葉を絞り出した。


「ふーん。変なの。それじゃっ行こっか!」


 その言葉を聞いた瞬間。俺は彼女の手を引っ張り、俺の方へ引き寄せた。


 直後、トラックが猛スピードで通り抜けていった。


「・・・あ、危なかった。怪我ない?」


「う、うん。大丈夫」


 俺たちは道端で抱き合っていてお互い照れくさくなった。


「あ、ごめん!」


 離れると、彼女は頬を赤らめていた。


「いや、大丈夫。助けてくれてありがとう!」


「君が無事で何よりだよ。じゃあ、早く行こっか」


 俺はとにかく足早にここから去りたかった。


 階段を降りながら、さっきのことを話していた。


「ていうか、さっきは危なかったね。よくあのトラックに気づいたよ」


「あ、あれはまぁ、たまたまだよ」


 俺は濁しながら答えた。


「なんか、久々にかっこいいって思ったよ」


 なんたが、懐かしいやりとりだ。こうやって彼女が俺をよくからかってたんだ。


「なんだよ、久々って」


 そう言って彼女の方を向いた時。


 重たい物が階段を転がり落ちていくような音が聞こえた。


「あれ?」


 気づくと、彼女は階段を転がり落ちていた。


 悪寒が走った。


 すぐに彼女のところに駆け寄った。その、彼女の姿に俺は目を逸らした。


「いやだ、いやだ!、いやだ!!」


 俺は叫びながら時間を三分前にに戻した。

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