第2話

 彼との時間は幸せだった。

 部活終わりに学校の駐輪場に残って話したり、たまに近くの公園に行ってゆっくりしたり。

 私の初めての彼氏で、彼にとっても私は初めての彼女で。

 お互いに初めてばかりで緊張した。ドキドキ胸は高鳴って、それでいて近くにいると安心できる存在で。

 夏祭り、文化祭、体育祭、修学旅行、イルミネーション、お花見――彼との大切な思い出で、どれも私にとってかけがえのないもの。

 別れてしまった今、彼は何を考えているのだろう。

 小さなことでの喧嘩別れ、というわけでもないが、別れた原因についてはまた機会があれば語ることにしよう。


「ねぇ――別れよう」


 シンプルに一言。私からだった。

 そうなることは彼も予測していたはずで。


「うん。うん……ごめんね」


 それから彼は何も言わなくなってしまった。

 彼がまだ私を好きでいるだろうことは容易に想像できたし、実際そうだった。

 私もまた、彼が好き――だったのだろうな。そうでなければ、こんなに悲しむことはないのだから。


 ■ ■ ■


「なにもやることがない……」


 毎日していた電話もLINEもしなくなった。

 当たり前か。別れたのだから。

 心に大きな穴が空いているのを感じながらも、無心で晴天を眺めた。

 これがアニメや漫画の世界で私が主人公ならば、主人公の心情にあわせて土砂降りでも降らせるべきだろうに。

 そんなことをどこか遠くで考えながら、心の穴を埋めるかのように涙を流す。

 大粒の雨は、しかし穴を埋めるには至らず、ただ虚しく枕を濡らすだけだった。


 彼は今何をしてる?何を考えてる?

 ……いや、私は彼のことを思ってるんじゃない。ただ……興味があるだけだ。そう。興味があるだけ。

 最愛の彼女にフラレて、それで今何を思っているのか気になるだけ。

 別に彼が何考えてたっていいじゃないか。私は1人の時間が増えて、1日を満喫してる。それで、十分じゃないか。


 自分に苦しい言い訳をしながらも、「彼のことなんて考えていない」と思い込むようにした。


 いや、でも考えてる。じゃなきゃ頭の中がグルグルまわって泣いて、なんてことないのだから……


 あぁ分からない。私自身が何を考えているのかも分からなくなってしまった。

 私の小さな両手では抱えきれない、零れそうな程の彼からもらった大きな愛情は、どこに捨てたらいい?いや、捨てたくない。隠したい。隠し場所なんて、どこにもない。

 それでもいつかは消えてしまうものだろうから。

 それなら――

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