第5話 キミの声が離れないのだろう
こんばんは。
イヤホンの音は大丈夫? 聞こえてたらメッセージがほしいな。
……良かった。聞こえてるみたいだね。
プリンセスは寝つきがいいらしいから、先に本題から入るよ。
まず、キミに謝りたかったことがあるんだ。お昼のこととか、おば様とか弟と妹の計画とか、ずっと隠しててごめんね。ボクもなんだかその気になっちゃってて、プリンセスの気持ちとか、ちゃんと考えてなかった。
本当は少し前から、ボクの気持ちは一方通行なんじゃないかって思ってたんだけど、それをキミに聞く勇気もなかった。だから、もしも今まで一緒にいてキミが辛かったり嫌な思いをしていたなら本当にごめんなさい。
え? 『僕も楽しかった』? ありがとう。そう言ってくれるとうれしい。眠いのにメッセージを送らせちゃってごめんよ。
それともう一つ、キミに謝りたかったことがあるんだ。キミが引っ越すとき、ボクは見送りに行けなかった。ボク、前日の夜は眠れなくて体調を崩して……『知ってた』? ボクの母さんに聞いてたの? そうなんだ。でも、ボクはずっと気にしてた。キミは覚えてないかもしれないから、今更言っても困惑させるだけかもって考えて黙ってたけど、いつかは言おうと思ってたんだ。
ふふ、話したらなんだかすっきりしてきたよ。ホントに、今晩はなんでも言えそうな気がする。
話題を変えるよ。
プリンセスって昔は少し女の子っぽくて可愛いなって思ってたんだけど、今でもボクは可愛いと思ってるよ。そりゃ子どものときと比べれば、キミは少し逞しくなったけどね。キミってば、結構嫉妬とかがわかりやすいんだ。自分ではバレてないって思ってたでしょ? 今日の放課後とかもそうだけど、子猫ちゃんがボクのところに来ると態度に出るんだ。露骨なわけじゃないけど、ボクには丸わかりだね。それを自分で良くないってわかってて必死に隠そうとしてるのもバレバレさ。
そんなところをボクは可愛いなって思っちゃうんだけど、キミ自身が良くないことだってわかってるなら、もうキミが子猫ちゃんや子犬くんに嫉妬なんかしないくらい一緒にいてあげる。皆はボクを「王子」って呼ぶけど「プリンス」って呼んでいいのはプリンセスであるキミだけなんだって、たっぷり教えてあげるから。
…………メッセージが来ないけど、もしかして寝ちゃったのかな? でも通話は切れてないよね。寝落ち?
……キミが引っ越してからしばらくの間、ボクはキミのことばかり考えてた。見送りに行けなかったことが心残りだったし、なにより寂しかったんだ。
時間が経つにつれてボクにも新しい友人とかができて、プリンセスのことを忘れたりはしなかったけど、もしかしたらキミにも新しい友人ができて、成長していくうちに全くの別人に変わっていたり、ボクのことを忘れちゃってるんじゃないかって考えたりもしたよ。
けれど、去年会ったときのキミはやっぱりボクの知ってるプリンセスで、おば様も変わらず優しく接してくれてる。
ボクはそれに応えたいんだ。心に決めてたけど、声に出すまでに一年かかった。
……ボクはもう一度、キミだけの王子様になる。プリンセスを幸せにするって誓う。
ずっとそう思ってきたのはほんとだよ。
また二人で冒険しよう。色んなものを見つけて、遠い所にも行こう。夜になったら二人で舞踏会を開くの。これからどんな人に出会っても、何が起こっても、ボクはいつだってキミの手を取るよ。
…………寝てるときに言うなんてズルだよね。今はこれが精一杯だけど近いうちにちゃんと向かい合って伝えるよ。そのときは、起きてるキミの答えを聞かせて。ボクにプリンセスの心の内を教えてほしい。
……んえ? 『朝になったら僕を連れ出して』ってもしかして、ずっと起きて聞いてたの? ず、ずるいよ~。
ふふふ、なんだか恰好がつかないね。さっきの耳掃除のときもさ、脚が痺れた~って言って片耳しかしなかったけど、実は無防備なプリンセスを意識したら恥ずかしくなっちゃって切り上げようとしたのもあるんだよ。キミの王子様としてはまだ半人前かも。だけど今度は両耳ともしてあげるから楽しみにしててね。
それじゃあ、今度こそおやすみ、ボクのプリンセス。明日の朝、キミを迎えに行くからね。
お姫様になれなくてごめんね じゅき @chiaki-no-juki
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