後篇 招致して委員会
国家機密機関では、激論が続いた。
民間の知恵も借りようと、様々な分野から人材が集められた。その中にはオカルト雑誌「
ロン毛にずり落ちどうな黒縁メガネ、常に美少女フィギュアを握りしめている御宅田に、政府関係者はドン引きした。
「すべてのゴミを吸い込んでくれるものがあります」
それがブラックホールだ、と御宅田は力説する。
地上のゴミだけでなく、日々、増え続ける宇宙デブリも簡単に処理できる。
衛星の破壊実験などで宇宙をゴミだらけにし、後片付けをしない×国や×シアのせいで、宇宙は危険がいっぱいだ。同盟国のロケットや民間宇宙船、人工衛星にデブリが当たったら重大事故につながりかねない。デブリを集めたのちの処理も課題だが、ブラックホールに放り込めたら最高だ。
確かにその通りだ、と一同は感心する。
「ブラックホールが吸い込んだものは全て、点になります」
つまり、何をどれだけ捨てても無尽蔵に吸い続けられるのだ。
一人が不安げな声で、
「何でも吸い込むなんて、近ついたら危ない」
「大体、どうやってブラックホールに近づくんだ。めちゃくちゃ遠いんだろう」
「あまりにも現実離れしている」
批判と冷笑の中、御宅田は会議から外された。
その後、天文学者が呼ばれてブラックホールの可能性について議論されたが、
「理想的なのは、離島にミニミニサイズのブラックホールを設置し、あらゆるゴミを吸わせることです」
ふむふむ、と皆がうなづく。
「このままではゴミの焼却灰が増え続け、二十年後には灰捨て場さえなくなるんですよ」
エコにうるさい委員からもゴミ処理について報告があった。一般ゴミに限っても危機的な状況なのだ。だが、
「地球上に設置するのは危険が大きすぎる」
と却下。周辺の物すべてが吸い込まれてしまう、というのだ。その結果、どのような参事が起こるか、皆は恐ろしさのあまり、想像することを拒否した。
「宇宙ステーションがある辺りにブラックホールが来てくれれば」
と、他の一人が口を開いた。
「それこそミニミニサイズでいいんですよ。寿命の尽きた人工衛星も、大気圏突入で燃えきれず、有害物質が残る危険もありますから」
「そっちの処理まで。それは素晴らしい」
副議場は目をキラキラさせて言った。
一方、議長は、ダメだこりゃ、と思っていた。
ブラックホールを呼ぶとか設置とか、みんなどうかしている。
「動かざること山のごとし」と言うじゃないか、山でさえ動かないのに、ブラックホールなんて訳の分からないものを、どうやって呼ぶんだよ。
御宅田は、諦めていなかった。
彼の提唱で、「ブラックホール招致委員会」が結成された。
「UFOを招致しようとしているグループがあるんです。ブラックホールだって呼べば来てくれます」
取材に来た記者が、御宅田にマイクを向けた。
「どうやって呼ぶんですか」
「祈るしかないですよ。信じる者は救われる」
恐山のイタコ、ブードゥー教の神官、スプーン曲げのマジシャンなど、力のありそうな人々が、続々参加した。
枯れ木も山の賑わいというから、一般市民も、やる気があれば参加してほしい、と、御宅田は日本のみならず世界中にメッセージを送った。
地球上の至るところで、独自に祈祷などが始まった。
SDGsに取り組む学生から、ゴミの分別など一切せず、そのことで近所のおばさんに叱責されたオヤジまで、あらゆる層が参加した。分別拒否オヤジは、俺にいちゃもんをつけたババアもブラックホールに吸い込まれてしまえ、と本気で思っていた。
無限に広がる宇宙には、暇を持て余しているブラックホールが多数、存在する。それらのうち三つほどが、地球からの発信をキャッチ、超高速で移動していた。
♪ 呼んでるぜ呼んでるぜ どっかの星が
早く来いよと 呼んでるぜ
陽気に歌いながら、ぐんぐん我らの太陽系に接近する。
三つは途中でドカンドカンとぶつかりあい、さらに膨れ上がった。
準惑星に格下げされた冥王星を手始めに、太陽系の星々は次々に呑み込まれ、点になっていく。ついには地球、そして太陽も同じ運命をたどり、みんなそろって
辺境太陽系の一つや二つ消えたところで、宇宙全体には全く支障がない。
何事もなかったかのように、今日も宇宙は膨張を続けている。
(了)
2022,11,5
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
またもや、くだらないモノを書いてしまいました、どうもすいません。
紹介文にも書きましたが、本作は、NHKラジオ「子ども科学電話相談」に寄せられた「ブラックホールを掃除機のように使えないか」的な質問からヒントを得ました。お名前失念しましたが、質問者の小学生に感謝。
ブラックホールは、まだまだ謎だらけ。良い子の皆さんがいろいろ解明してくれることを願ってやみません。
ブラックホール活用法 チェシャ猫亭 @bianco3
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