レモンの匂いがするきみと

穂(スイ)

第1話

「このまま死んだら、きっと俺って迷惑なやつになるんだろうな。」

蒸し暑い部屋の中で、黄ばんだ天井を見つめながらそう思った。


アパートの管理人さんはこのアパートを事故物件にしたぼくを恨むだろうし、今このアパートに住んでいる人は気味が悪くて引っ越しをせざるを得なくなる。会社の後輩はぼくの仕事を急に引き継ぐことになり残業を強いられるだろうし、親は夏の暑さの中で体力を奪われながら葬式をすることになる。


ミーン、ミーンと蝉の鳴き声が網戸を挟んで聞こえてくる。

蝉はいいよな。なんにも考えなくて良い。こんな風に死について考えることもないだろうし、自分の生き方を考えることもない。ただひたすらに命が尽きるまで、自分だけの人生を自分だけのために全うすれば良い。

生きてることは一緒のはずなのに、どうしてこうも違うんだろうか。


膝裏の汗がふくらはぎをつたって床に落ち、小さな水溜まりを作っていく。暑さのせいか頭がぼーっとする。


「生きるってしんどい。」


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レモンの匂いがするきみと 穂(スイ) @sui_2022

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