第59話 (最終話)ミチトの2か月。
アクィはミチトの思ったとおりの場所に居た。
ミチトはアクィに駆け寄りながら「アクィ!」と名を呼ぶ。
アクィは真っ赤な目でミチトを見て「…ミチト?なんで?」と言う。
アクィは泣いていた。
ミチトはその涙を見たときに申し訳ない事をしたと思ってすぐに頭を下げて「ごめん!酷い事をした!」と謝る。
「酷いって…何よ」
不貞腐れるアクィにミチトはタシアの絵を見せる。
「それ、宝物のタシアが描いた絵じゃない」
「うん。これに今のタシアが手を加えたら嫌だって思ったらアクィの気持ちがわかったから謝りに来たんだ!」
「…リナさんに教わったの?」
「うん。俺、本当に絵の話をされるまで何でアクィが怒っているかわからなかったんだ。アクィには綺麗なレイピアを持って欲しかったから直してしまって…」
困り顔のミチトの言葉にアクィは「わかってる」と言って不貞腐れるように俯いた。
「怒って飛び出したけどミチトの気持ちを思えばそうした理由はわかるわよ」
「アクィ…」
「でもなんでここだってわかったのよ?私、認識阻害術も全力で仕掛けたのよ?マスターで真式だとわかるの?」
「いや、アクィならここだと思ったから探さずに一心不乱に飛んできたんだ。アクィならシキョウの公園にいる。そう思ったんだ」
アクィはミチトと自身の運命の分岐点。
シキョウの公園に居た。
「なんで?サルバンは?」
「サルバンに行けばスカロさん達が心配して、俺を庇えば面白くないし、逆に俺に怒ればアクィはそれも嫌だろ?」
「わかってたの?」
「それくらいならわかるよ」
「それなのに「愛の証」の事はわからなかったの?」
「それは直した方のが喜ばれると思ってたから…」
ミチトがバツの悪い顔をしているとアクィは優しい顔になってため息をついた後で「許してあげるわ」と言った。
ミチトは安堵の表情で「ありがとうアクィ」と言ったがアクィから「所で一つあるんだけどどうする?」と言われてしまう。
「え?」
「「愛の証」を元に戻して私に許されるのと、元に戻さないで私のワガママを聞くの。どっちがいい?」
許してくれたが戻したいと思っているとは思わずに「…え?元に戻したいの?」とミチトが聞いてしまうと「戻したいけど戻すとミチトは気にするだろうから選ばせてあげるの」とアクィが言った。
「…ええぇぇぇ。ワガママって何?」
「2ヶ月間メロとの日とミチトの日を私に頂戴。それで夜毎に私に謝るのよ」
言われながら状況をイメージしたミチトは「マジか…」と言う。
それをするという事は、イブ、ライブ、リナ、メロ、アクィ、リナ、ミチトの順番がイブ、ライブ、リナ、アクィ、アクィ、リナ、アクィになる。
正直週に3回もアクィと寝る日が来てその3回全てを謝るなんて気が遠くなる。その横でアクィはミチトの困る顔を見て嬉しそうに笑っている。
「…今晩は元々アクィとの日だから夜までに決めればいい?」
「まあ待つわ」
ミチトはアクィを連れて大鍋亭に帰るとメロがとても怖い顔でミチトを待っていて「パパ、お店が始まるまでにお話をするよ?」と言って着席を促す。
遠くからライブの「うわ、メロ怖」という声が聞こえてくる。
大人しく着席をしたミチトの前に座ったメロが「パパ、お母さんから何でママが怒ったかは聞いたよね?」と聞き、ミチトは「はい」と言う。
「ママはパパが迎えに来てくれたからニコニコしてるけどまだ怒ってるんだよ?わかる?」
「はい。わかります」
「ママはパパを許したの?」
「まだよ。今は選ばせてるの」
「選ばせる?まあそれは後でいいや。パパ、ママが怒るとトウテが消えてなくなるの。皆を危険に晒したい?」
「俺がやらせないよ」
このティナがいたら殴られてしまう返答にメロが諭すように「そうじゃないの。それくらい悲しい事をしちゃダメって話だよ」と説明をしてミチトは「はい。わかってます」と言う。
反省を感じたメロは「もう」と言うと「じゃあママ、選ばせるってどうしたの?」と聞き、アクィの出した条件を聞いたメロは「パパ、選んで」と言う。
ミチトは「まだ考え…」とまだ考えていると言いかけたのだが言う前にメロは「パパは完璧に直せるの?」と追及する。
「直せないと思う」
「じゃあ答えは決まったよね」
これに不満を訴えるのはイブとライブで「ズルいです!」「本当だよ!ミチトのバカ!アクィばっかになってんじゃん!」と言って怒る。
アクィはこれだけで気分がよくてニコニコとしてしまう。
これでまた怒るイブとライブにミチトが小さくなる中、リナが前に出て「バカだねぇ、だからバレるよって言ったのに。それにライブがヤキモチ妬いたらイブだって黙ってないでしょ?」と声をかけてから優しく抱きしめて「それに失敗したら嫌われるなんて思わないでいいの。私達はミチトが大好きなんだよ。皆指輪を貰って嬉しかったんだよ」と言う。
ミチトは救いを得た顔で「リナさん」と言うのだが、リナも「まあでもヤキモチはわかるから覚悟しなさいね」と言ってミチトを突き放した。
ここで黙っていれば良いものをミチトは「俺、やっぱりリナとだけが良かった。リナとこうしてくっついて居たい」と言ってしまう。
リナを母に持つタシア達は喜ぶがラミィ達は面白くない。
ミチトの周りに群がって「ママは素敵ですわ!」「パパ、ママとも仲良くしてよ」「パパ、リナお母さんは凄い人だけどママ達も大事にしてよ」と口々に言うと、これには素直に「…はい。ごめんなさい」とミチトは謝る。
ミチトは2ヶ月かけてアクィの機嫌をとりなす為に夜を過ごした。
「とても悲しかったのよ」
「私の気持ちも考えなさい」
「今度やったら許さないんだから」
そんな事を言われながらミチトは一つずつに「ごめん」「本当にごめん」「ごめんなさい」「わかりました」と謝りながらアクィに優しくしていく。
そしてそんな生活に腹を立てるのはイブとライブで、1ヶ月が過ぎた頃、以前ならメロの日とアクィの日の間の朝一番に「もう謝り疲れた…」と言ってテーブルに突っ伏すミチトの前に立ったのはイブとライブ。
イブとライブは30を過ぎても変わらず若々しい。
その2人は怒気混じりに仁王立ちで「ミチトさん、おはよう」「おはようミチト」とやっている。
「おはようイブ、おはようライブ…あれ?怒ってる?」
「ええ、面白くないの。朝一番にニコニコ顔のアクィさんの昨日も沢山謝ってくれたわって言うのも聞くだけでヤキモチなの」
「本当、今日のミチトもアクィの匂いが凄いよ。それで面白くないの」
仁王立ちで怒るイブとライブにミチトは「えぇ?もう後1ヶ月だから許してよ」と言うが即答で「嫌」「やだ」と言われてしまう。
そしてイブがテーブルに力一杯何かを叩きつける。
「イブ?何これ?……げ」
「うふふ。もうイライラがピークで貰ってきたの」
「私も行くからね」
「え…嘘…」
それはモバテから貰ってきた書状で国費で地下喫茶と後腐れのないあの部屋をいくらでも使えると言う文面だった。
書状を手に持って青くなるミチトの横でメロが「パパ、勝手な事をするとこうなるんだよ?」と言い、ミチトが「メロ…。でもさ…」と言おうとするのだが、ライブに「でもも何もないよ」と言われ、メロから「お姉ちゃん達のご機嫌も大切にしてね」と言われてしまう。
結局ミチトはここから更に2ヶ月、ライブに言わせると「アクィと2ヶ月なんだから私達も2ヶ月だよ」と言われながら地下喫茶からの後腐れのない部屋のコンボに付き合わされる。
その日々に地下喫茶のオーナーは「闘神様、ワタクシ一夫多妻を羨んでおりましたが誤解でございました。応援しております」と言って笑い、2日連続で来られた時には「いやはや、2日連続は闘神様のみの偉業でございます」と言っていた。
野獣の日。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~ さんまぐ @sanma_to_magro
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