愛の証のトラブル。

第58話 ミチトがしたい事、されたら嫌な事。

イイヒートとアメジストの恋模様は別で話す事になるが、アメジストはコレでもかと大切にされイイヒートのドデモ家の使用人達からもかつてのイイヒートが変われたのはアメジストが居たからだと感謝されてしまう。


1週間の予定は1ヶ月になり、それでもキチンとロキを通じてトウテにも連絡をして2週目からはイイヒートは第三騎士団の訓練に終日参加をしてアメジストはその時間を王都にいる知り合い達と過ごしていた。


目下悩みの種は王都とトウテの暮らしで、やはり王都は人が多くて怖い事と、自身の過去を知る者がいる事を考えると居心地が良くなかったりするがイイヒートが王都に無くてはならない存在だと思いワガママは言えない事で最後は「別居婚はありかな?」と言っていた。


話を戻すとこの1ヶ月の間にミチトはアクィにコレでもかと怒られて泣かれた。


アルマとマアルの誕生日会以来、ミチトはどうしても寝ても覚めてもアクィの「愛の証」の左羽根の高さが気になっていて仕方なかった。


アクィの為の愛の証明のような剣にミスがあることが不安でならなかった。

ここにモンアードが居ればしゃちほこばるなと怒られただろうが気が気ではない。


しかもアクィは「愛の証」を一時たりとも手放さない。

術人間にする前ならアクィのレイピアは全てミチトが管理をしていたのでいくらでもメンテナンスが出来たがそうもいかない。


更に完璧を目指して作っていた為に刃こぼれや歪み程度なら自動修復されるのでメンテナンス要らずになっている。

アクィも他の剣の時は「変な気がするからみてくれないかしら?」と持ってくるが「愛の証」だけはそれがない。


要するに隙がない。


ミチトの気持ちは「愛の証」に向かってしまい子供達やイブ達はまた何かあったと気にしてしまうがリナ以外は真相を知らない。


そしてリナとの夜にリナは「本当、やめなって」と言い「せめてアクィに直したいって言うか、アクィに気になるか聞きなよ」と提案するが「アクィはあれで鈍いので気付いていないから直すなら今のうちなんですよ」とミチトも引かない。


結局ミチトはある行動に出た。

ここ最近、ラミィはアクィにマナーの訓練から術や剣技の訓練まで見てもらっている。

この日もアクィはラミィに「ママ!レイピアを教えて!」とせがまれてニコニコ顔で「ええ!勿論よ!」と返す。

この場を見逃さないミチトは「アクィ、訓練なら「愛の証」は使わないだろ?一個術を付与したいから貸してよ」と言った。


リナに緊張が走った事をイブとメロは見抜いていてライブは気づいていないで呑気に皿を拭いている。

ちなみに今晩の大鍋亭は営業予定でポークソテーかチキンソテーのセットが選べる。

綺麗にした皿にサラダを盛り付けるのが今日のライブとシアの仕事で2人はテキパキと仕事をしていた。


「え?何を足すの?」

「光壁術。万一は考えておきたいからさ、不意打ちからも剣がアクィを守るよ」


妙に優しいミチトの言葉。

リナは呆れてものも言えず、イブは2人きりやアクィとの子供の5人家族の時なら言うような優しい言葉を家族全員の前で言うのはおかしいと気づき、メロはミチトの表情に何かあると訝しんだ。


だがこの点だけはミチトの考えは間違っていない。

アクィはチョロい。


「え…ありがとう。じゃあお願いしても良いかしら?」

アクィは嬉しそうに「愛の証」を取り出してミチトに渡すとラミィやタシア達を連れて剣の訓練に出かけてしまう。



「ミチト、やめなって」

「パパ?何するつもり?」

「ミチトさん?」


3人に話し掛けられてもミチトは気にする事なく「術の付与を行う。最悪剣を折られても発動する様に持ち手に付与をする。光壁術を自動展開だ」と言うと「愛の証」の持ち手が光る。


「よし、そのまま!」と言って羽根の位置を直してしまうとスッキリした顔で「良かった!直った!」と喜ぶ。


リナは諦めてメロやイブに何があったかを話すとイブは「ミチトさん?イブでもみてて気づいていたんですよ?アクィさんは知ってるはずですよ?」と言い、メロも「パパ?ママはパパと寝ない日は剣を眺めて「うふふ」と喜んでから寝てるから知ってたと思うよ?」と言うがミチトはニコニコで「平気だよ〜。アクィだから気付かないって。それにもし気付いていても歪んだ剣より整った剣の方が喜ぶって」と言って「リナさん、チキンソテーの仕込みをしますね」と言って厨房に行ってシアの盛り付けが綺麗で丁寧だと言って誉めている。


「リナさん、イブは大変な事になると思いましたよ」

「メロもそう思うよ。どうしようお母さん?」

流石のリナもこれには「…怒られればいいのよ。アルマ君とマアルちゃんのお誕生日会以来何べん止めても聞かないんだから」と言ってさじを投げた。



アクィは1時間して「さあ休憩よ。レモネードを作るからしっかりと水分を取りなさい」と言いながら子供達と戻る。


「あ!アクィ!お帰り」

「あら、ご機嫌ねミチト」


「うん。光壁術の付与はしたよ」

ミチトが「はい」と言って「愛の証」を手渡すと「光壁術は持ち手に付けたから仮に剣が折られても発動するからね」と説明をするがアクィはプルプルと震え始める。

ミチト程ではないが大気が鳴動し、大地が揺れ、窓ガラスがビリビリと音を立てる。


この瞬間に全てを察したリナは子供達を外に逃し、イブはライブとシアを避難させる為に厨房に小走りで向かい、メロだけはいつでもアクィを止められるように準備していた。


ミチトは震えたアクィを見て「アクィ?」と声をかける。

アクィはすぐに「これは私の「愛の証」じゃない!私の「愛の証」はどこ!?返して!返しなさいミチト!」と声を荒げた。


「え?何言ってんだよ。これがアクィの為だけに一から打ったレイピアだよ」

「ならなんで私から見て右の羽根の位置が違うのよ!」


「あれ?知ってたの?でもアクィに渡す剣だから歪んでいるのは嫌だったし、アクィも整った剣の方が嬉しいだろ?」

「バカじゃないの!おかしくしたの!?」


「おかしく?直したんだよ?」

「直してない!直すなら元に戻してよ!私はあの手作り感のある「愛の証」が好きだったのに!ミチトのバカ!」


アクィは本気で泣きながら走って出て行ってしまいメロが「待ってママ!」と追いかけていく。


ミチトといえば何故そこまで泣かれたかがわからずに放心している。

リナはそんなミチトに近づいて「ミチト」と声をかけるとミチトは「リナさん、アクィが本気で泣いたんだ…」と言った。


「そうだね。なんでかわからないよね?」

「うん。何でだろう?」


「ミチト、タシアがお絵描きした初めてのミチトの似顔絵を出してご覧よ」

「はい」


ミチトは子供達が描いてくれた似顔絵を残さず貰っていて大切に収納術に入れてある。

どんなに下手くそでも泣いて喜んで大切にしていて「俺が死んだら棺に入れてください」と言っている。

それを取り出すとリナが「タシア、来て」と呼ぶ。


正直この流れで呼ばれたタシアは気が気ではないが近付くと「タシア、この絵はタシアが初めて書いたミチトの顔だよ。どう思う?」とリナが聞く。


線がのたうっただけで人の顔に判別できない物を似顔絵と言われても困る。


「今のタシアならこれよりは上手に描きなおせるよね?」

「上手…と言うか目と鼻と口は描くよ」


この言葉に慌てたミチトは「ダメだよ!これはタシアが一生懸命描いてくれたんだ!俺の宝物だよ!」と声を荒げる。


「ほら、それだよミチト。アクィは一生懸命ミチトが作ってくれた剣が良かったの。後から黙って直すとか嫌だったんだよ」


この言葉に愕然としたミチトは「俺…酷いことをしました」とリナに言うと「アクィの所に行ってきます」と言って消えた。


メロはすぐに戻ってきて「ダメ、ママはすぐに消えちゃって追えなかった。遠視術でも検知術でも見えないの」と言うがリナが「ありがとうメロ。平気だよ。ミチトが行ったよ」と言う。


「行った?パパにはママが見えるのかな?」

「メロちゃん。イブがいい事を教えてあげますよ。器用貧乏はとても怖い言葉なんですよー。だから平気です」

その後、皆で大鍋亭の営業準備を始めた。

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