第57話 お誕生日会08。

誕生日パーティーが始まる。

訓練場とは別のカラーガ邸の庭先にはこれでもかとご馳走が並べられている中に次々と当日到着の貴族達もくる。

その中には知り合いのイクチ・ヤミアールも居てミチト達に挨拶をしてくる。


ミチトも挨拶を返すと末弟のアマタの話になる。

アマタはトウテの一員として今やトウテに必要な人だと伝えるとイクチは喜んでいた。


その中で始まるパーティーは始めこそ到着したばかりの貴族達はサンクタやナイワに挨拶をし、まさかのモバテ達にも挨拶をする。


中には王都の治安を不安視する輩も居たがミチトはこれ見よがしに王都の泥棒や強盗なんかをカラーガに呼び寄せてサルバン騎士団とカラーガ騎士団に相手をさせる。


サルバン騎士団は水を得た魚のように喜んで強盗を袋叩きにしていてミチトは「パーティー中も急に現れますから気を抜かずにボッコボコにしてください」と言い、サルバン騎士団は「うおおぉぉぉぉ!ありがとうございますスティエットさん!」と喜ぶ。

そして足腰立たなくなると王都の収容所まで送りつけていた。



会の始まり。

楽団が盛大なミュージックを流すと屋敷の扉が開かれる。


「さあ、手を」

「はいロゼくん」


ロゼがエスコートをする形でマアルの手を引いて庭に出てくる。

拍手と声援の中でもロゼとマアルは堂々としていて参列者に会釈をしながらサンクタとナイワの前に出てお辞儀をする。


「誕生日、おめでとう」

「おめでとうマアル」

「お父様、お母様。ありがとうございます」


その足でエーライ達重鎮にも挨拶をしておめでとうと言葉をもらうとサンクタとナイワの横に立つ。


本来ならば少し遅れてもう1人が出てくるし、そもそもは男子のアルマから出るはずが女子のマアルだった事にどよめきが起きると、サンクタの予定にはない曲変更。


よりゴージャスな曲がかかると横にはジェードが指揮者のように立っていて楽団に指示を出している。


何事かと思うと一度開いた扉がまた閉ざされていて、開くと決めポーズを取ったアルマの両サイドにラミィとフユィが豪華なドレスを着ていて「さあ、アルマ様。ワタクシ達をエスコートしてください」とラミィが言う。


アルマはどちらかと言うと豪華よりも質素を好むタイプなのにラミィが「ダメですわ。先程メロ姉様をかどわかそうとした輩のような者が多いリミール派をあなたが変えるんです!ここで力を見せる必要があります!ドレスを変えますわ!メロ姉様!1番豪華な金のドレスを出してください!」と言い出して「え!?ラミィ?金ってこの前パパの布で作ったドレスだよね?それにフユィかも知れないのに?」と言われる。


「いいえ、メロ姉様。ラミィとフユィでアルマを引き立てますわ!風格を見せつけて愚者共を蹴散らします!フユィ!」

「うん。わかったよラミィ」


こうしてフユィもミチト作の布を使ったドレスを纏って銀に光らせるとラミィから「上手いわよフユィ」と褒められてフユィは喜ぶ。


結局こうしてアルマは両手にラミィとフユィをエスコートしながらサンクタとナイワに挨拶をしてエーライ達にまで挨拶をするハメになるし「おめでとう。この年で両手に花とは恐れ入ったよ」と言われてしまう。


ジェードはミチトの横に戻ってきて「よし!決めポーズもバッチリ!」と喜び。「ジェード?まさかポーズの指示出ししたの?」とミチトに言われると「うん!アルマは俺のパートナーだからね」とジェードは自慢げに言う。


「ええぇぇぇ?両手に花なんてやり過ぎだよ」

「パパ?ママ達4人だよ?パパが居るから平気だよ」


右を見てリナとイブ、左を見てアクィとライブを見たミチトは「……あ…」と言って「そっか…」と言った。



こうして始まった誕生パーティーはつつがなく進み、ダンスタイムになる。

アルマに失敗は許されないとラミィが名乗りを上げて、マアルはロゼと組む。


ここで終わらずにタシアとジェードの元に当初アルマ狙いだった貴族の令嬢達が群がった。


「お強いのですね!」

「ぜひ私と踊ってください!」

「あの剣技!お若いのにうちの師団長より見事でしたわ!」

「あの雷の術も闘神様と遜色ないと聞きました!」


ミチトは面白くないもののこれでタシアとジェードが貴族パーティーを嫌ってくれたらいいなと思っていたのだがローサの仕込みは見事で「順番でよろしいですか?」と言うと集まった令嬢達と踊ってしまうし名前と顔を完璧に覚えてしまう。


ひとしきり踊って戻ってくるタシアとジェードに「え…、やじゃないの?」とミチトは聞く。


「別に、アクィお母さん達に教わった通りだし」

「うん。この後は何言われても訓練だから無理とかアクィママのお許しないと無理とか言うし」


アクィはこの返しに「偉いわよタシア、ジェード。キッチリとママの教えを守ったわね」と喜んでいるが異質な姿をしている。


「アクィ?なんで君はドレスなのにレイピアを腰につけてるの?」

「それ、ミチトが言う?」


「本当だよ。いつブチギレて殴り飛ばすかわからないからアクィが警戒してくれてるんだよ?」

「俺まだキレてないよ?」


「嘘ですよね?ミチトさんは殺気がダダ漏れです」

「本当、大丈夫だよ。コードとベリルはスカロ様が守ってくれているし、シアはイシホさんとノルアさん。トゥモはナハト君とイイーヨ君が見てるでしょ?」


コードとベリルは6歳と言う事で令息や令嬢が近付くよりも当主が好々爺の顔で近付いて懐柔を試みようとしているがスカロが横に居て「コード、ベリルよこの方はニムダ・ヌーウォー氏。ガットゥーより南の貴族だ。甘い芋が育つ土地でな、サルバンでも少し仕入れさせてもらっている。食べにくるように誘ってもらえたと言う話ならば遠ければ私が作るから問題ない」と牽制してくれている。


シアもラミィやフユィは一気に強い女性のイメージで男どもが近寄れなくなったがシアならワンチャンスあると思って近寄りたいのだがイシホとノルアは本気の本気でシアと歓談をしながら守っている。

それでなくとも刺すような殺気が仲間であるはずの自分達にまで突き刺さってしまい気が気ではない。当のシアはご馳走を食べながら「私もこれ作れるかな?お姉ちゃん達も一緒に料理してくれる?」とやっている。


トゥモは声をかけられればアクィさながらのあしらいをするがそれ以外では対ミチト戦を意識してナハトを捕まえて「水人間と戦ったんだよね?どうだった?後で作ってみたら戦ってみてくれないかな?」と持ちかけて「是非ともだよ!僕からも頼めるかい?」とやっている。


「だから私は臨戦体制なのよ」

「だからって「愛の証」を持ち出すなって」


ミチトはイヤイヤながらも「愛の証」を「愛の証」と呼ぶようになっていた。


「だって生半可なレイピアじゃキレたミチトを止められないわ」

アクィは抜いて見せてミチトの目の前に切っ先を出す。


「アクィ…悪ふざけ…」

この時初めて「愛の証」を真正面から見たミチトは左の羽根が右と位置が揃っていない事に気付いてしまった。


途端に殺気を引っ込めたミチトは「愛の証」をじっと見て「アクィ…」と話し掛けたがアクィは殺気が消えた事に「どうしたの?何かあった?」と聞く。


ミチトはここで愛の証の話を持ち出しても良かったが何となく周りにいる他の妻達やメロ達の前で言うことは憚れてしまい「いや、皆に任せるよ。アクィとライブはタシアとジェードをよろしく。イブはロゼを見てあげてよ」と言うと料理を手に取って少し離れたベンチに腰掛けた。


「どうしたの?アクィの剣に何かあったの?アクィが壊したとか?」

「リナさん…。やっぱりリナさんは凄いや」


「ほら、言ってごらんよ」

ミチトは聞かれないように術で周りから隔離するとアクィのレイピアを前から見た時に左右のバランスが違っていた事に気づいた話をする。



「成る程、どのくらい違うの?」

「んー…少し…。リナさんの指輪の幅くらいですね」


「それは誤差だよ?」

「でも…なんか申し訳ないなと…」


「もう、とりあえず言うけど直そうなんて思っちゃダメだよ?絶対にバレるからね」

「バレますかね?」


「絶対にバレるよ」

「そんな事はないですよ。アクィは扱い易さしか見てませんよ」


「…ミチト、一応言ってあげるからね?やる前に心眼術でアクィを見るんだよ?」

「大丈夫ですよ〜」


リナはミチトがアクィを舐めてかかっていると改めて痛感していた。

誕生日会が終わると近場の貴族は夜になるが領地に帰って行き、それ以外の貴族は宿屋に帰る。

ミチトは術で連れてきたメンバーをアクィとライブと協力して送り届けながらイイヒートとアメジストをイブに頼んだ。


「イイヒート・ドデモ、まあ明日も王都で会えますが先に一言言わせてください」

「アンチ様?」


「アメジスト嬢が王都にいる間は午前中の訓練のみで午後は休みなさい。それは第三騎士団の総意ですよ。そして明日、午後にモバテ様の執務室にお邪魔しなさい。それまでに私とシック、モバテ様の名前で書状なんかを用意しましょう。アメジスト嬢を見事にエスコートして見せなさい」

「…!?」


「アメジスト嬢、イイヒート・ドデモの底が知れるまでは王都にいてくださるとの事でしたので最高のもてなしをご期待くださいね」

「ありがとうございます。ビシバシチェックして嫌になったら帰っちゃいます!」


この言葉に不安になるイイヒートが「あ…アメジストさん!?」と言うが直後にアメジストは嬉しさを隠す困り笑顔で「…ですが、それだと私はトウテの娘なのにトウテに帰れなそうです」と言った。


アプラクサスが優しい顔で「ふふふ。そうですね」と言った所でイブが「じゃあ話がまとまったのでイブがお送りしますよ!」と言ってイイヒートとアメジストを王都まで連れて行った。

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