第56話 お誕生日会07。
その後もイイヒートと水人間の殺し合いは続く。
「ちっ!アバラが全滅…足も脛と太腿。利き手は死んだが心は折れない!アメジストさん!後一回です!待っていてください!」
そんなイイヒートだが実はただの強がりで既に全身の骨はグチャグチャになっていてミチトはそれをモバテ達に見せると「…地下喫茶くらい奢ってやるって気になるな」「ええ、他にも有名な魚料理の店を手配しましょう」と言ってしまう。
「ミチト君、一つ聞くが手心は?」
「全然の全く無しです。逆にだんだんムカついてきたし、さっきのイライラもあるんでよりパワーアップしてますよ」
「殺すのはダメだよ?」
「見極めてますから平気ですよ〜」
その間にも水人間のウォーターボールが顔面に直撃し、首がもげるように仰反るイイヒート。
誰もが負けを意識したがアメジストだけは「勝ってよ!イイヒート!ご褒美あげたいの!」と言うと「ご安心ください!そしてご心配をおかけしたこのイイヒートをお許しください!」と言ってイイヒートは持ち直すと「成敗!」と言って水人間を斬り飛ばした。
水人間は約束通り8回で水に戻って現れる事は無かった。
全身がバラバラでフラフラのはずのイイヒートはニカっと笑って「お待たせいたしました!勝ちましたよ!アメジストさん!」と言う。
ケロッとした顔のイイヒートを見て「い…痛くないの?」と聞くアメジスト。
「アメジストさんの前ではそんな姿は見せられません!後で1人になったら死にます!」
「もう…。マスター…今だけはマスターがヒールしてあげてよ」
アメジストの声でミチトがヒールを使うがイイヒートの傷は深くて中々治らない。
「おいおい…ミチト君でも治すのに時間かかるのかよ。一応聞くが、今の戦い、誰なら生き残って誰なら死んでた?」
モバテの言葉にミチトは「第三騎士団なら生き残るのはシヤとクラシ君くらいですかね。その他は皆水人間の撃破が4回が良いところで死にますね、ナハトも6回くらいで死にますよ。サルバンならパテラさんは勝てますね」と返す。
「…イイヒート・ドデモはそこまでかい?」
「ええ、相手が倒していい男と魔物ならですけどね」
「では相変わらず女性や弱きものには手心を?」
「ええ、惜しいですよね」
話しているとイイヒートの傷は治って「治りました!」とイイヒートがニコニコと言う。
「マスターのヒールでも中々治らないなんて大怪我だったんじゃないの?」
「はい!全身の骨が折れてた気がします!」
「それでも私の前では痛がらないの?」
「はい!女神の前で情けない姿は見せられません!」
「…ねえ、私もその上に行きたい」
「訓練場ですか?折角のお綺麗なドレスが汚れてしまいますよ?」
「いいの、はやく手を引いてよ」
「はい!」
訓練場にアメジストを引きあげるイイヒート、アメジストはイイヒートの顔を間近で見ると血だらけの顔がし烈さを物語っていた。
「ねえイイヒート…さん」
「はい!なんでしょうか!」
「ごめんね」
「水人間ですか?いい訓練になりました!」
イイヒートは全てを好意的にとらえる。
命綱無しの屋根掃除や素潜りでのディヴァント湖での釣り竿探しのような無茶振りも「ありがとうございます!」と言う。
「それじゃないよ。もう…タシアちゃん産まれて12年だよ。それって…私とイイヒート…さんが付き合って12年も過ぎたのに何もないから…」
「そんなことはありません!お魚を一緒に食べに行きました!お魚を釣りました!釣ったお魚も美味しかったですよね!地下喫茶のフィッシュ&チップスも美味しかったですよね!是非ご招待しますから今回の王都でも存分に食べてください!」
アメジストは照れながら「全部魚だね」と言うとイイヒートはハキハキと「本当ですね!」と返す。
「嫌にならない?」
「嫌だなんて!とんでもない!」
「本当?」
「本当ですよ!俺こそお魚のリサーチが足りずにすみません!12年で王都のオススメのお魚屋さんは全部行ってしまって、休みと言うと探しているのですが進展がありません!」
「え?そんな事までしてたの?」
「はい!アメジストさんがお魚に喜んでくれる顔が見たくてついつい探してました!…はっ!?もしかしてお肉派に転身ですか!?お肉屋もまだリサーチ不足です!ですがお時間をいただければ必ずアメジストさんを笑顔に出来るお肉を見つけて見せます!」
「……もう。本当に私でいいの?イイヒート…さんはモテるよ?格好いいし、強いしさ…」
「ああぁぁあっ!!!俺の愛が足りない為に不安にさせてしまっていたんですね!申し訳ありません!!このイイヒート・ドデモはアメジストさん以外の女性との将来なんて有り得ません!ご安心ください!いつまでもお待ちします!」
「…ばか。いいのに…私面倒臭いんだよ?」
「何を仰います!女神の行動に間違いはありません!」
「…本当?」
「はい!」
「じゃあ…お手」
「…は?」
「お手!手を出して!」
「はい!」
イイヒートが手を出すとアメジストはその手に手を乗せて震えながら恋人繋ぎをする。
訓練場に上るために手を引かれるのは平気でも意味のないスキンシップは相変わらず怖い。
「アメジストさん!お手が震えています!ご無理をなさらないでください!」
心配するイイヒートにアメジストは「いいの!いいの!やるの!!」と声を張る。
「アメジストさん…」
「ご褒美上げたいの!手も繋いでない恋人同士なんておかしいの!わかってるの!だから手を繋ぐの!そこから始める!イイヒートは怖くないの!格好いいの!だから平気!」
「手を繋がせてもらえるなんて…こんな素敵なご褒美をいただいたら何をお返ししたらいいかわかりませんよ?」
「もう私が沢山貰ってるの!」
アメジストはそう言って「ふー…、ふー」と深呼吸をするともう一つの手でもイイヒートの手を握りしめて「イイヒート…。待っててくれてありがとう。待たせてごめん」
必死にイイヒートの目を見て言うアメジスト。
イイヒートは優しい言葉だけで目を潤ませてしまう。
だがアメジストは止まらない。
そのまま「これが…ご褒美!」と言ってイイヒートの血だらけの頬にキスをした。
「ア……」
「イッツィーの事も本気で考える。だから王都で甘やかして」
アメジストは真っ赤になってそう言った。
周りからは声援が沸き上がる。
第三騎士団達もイイヒートを鍛え抜いたサルバン騎士団も祝福の声援を贈る中、アメジストが「あの?返事とかは?恥ずかしいのに頑張ったんですけど?」と不満気にイイヒートを見る。
「ひっ!?」
アメジストはつい悲鳴を上げていた。
まさかイイヒートはキス一つで処理限界を迎えて涙を流して気絶していた。
「あーあ、やっぱりだ」
「本当、この超絶奥手がこんな素敵なご褒美に耐えられる訳無いよな」
イイヒートの事だからとメロに言われて訓練場に来ていたイイーヨとイイダーロはイイヒートを見て笑っていた。
「え!?マスターの水人間には勝てても気絶するの!?」
「あはは、それがイイヒートだよアメジスト嬢」
「こんな奴だけどこれからもよろしくしてやってね」
「うん。私こそよろしくね」
この後でイイーヨが「起きないなら」と悪い顔でサンダーアローを弱目に当てて起こす。
「あ!兄さん?」
「お疲れ!マスターの水人間に勝つなんてやるじゃん」
「本当、凄かったな」
「さてと、兄さんは兄さんをやるかね」
「俺もやるかね」
イイーヨはミチトの前に行って「マスター、第三騎士団は俺とイイダーロも入りますのでイイヒートのバカは休憩させてやってください」と頭を下げて、イイダーロはサンクタに「あのボロボロになった鎧ではパーティーの場に相応しくないので鎧一式をお貸しいただけませんか?」と頼みに行く。
サンクタはカラーガ騎士団の鎧をイイヒートに持って行って「これを着なさい。是非とも着なさい。そしてそのままカラーガ騎士団の一員にならないかい?」と言い始める。
実力が認められて嬉しいイイヒートだがこの隙をアメジストが見逃すわけもなく「じゃあイイヒートは今日からカラーガね。私1週間王都でお世話になったらトウテに帰るね」と言う。
大慌てのイイヒートを無視して「マスター!私、別荘かロキ様のお屋敷かな?」と聞く。
「んー…どっちでもいいし、カメリアとシナバーが居るからアプラクサスさんも是非どうぞって言ってくれるよ?」
「はい。それは勿論」
「いやいや、それならドデモはドデモでもウチはどうかな?アガットが居るよ?」
「うちならドリータンが喜ぶな」
「ににに…兄さん!?スティエットさん!アンチ様!!」
慌てるイイヒートを見てアメジストは嬉しそうに「んー…何処が良いかな?」と言っているし、最後にはエーライが「ウチにする?王都ではそこそこ大きいよ!」と混ざる。
お前の家に誰も勝てねーよ。
皆がそう思う中、イイヒートだけはサンクタに「カラーガ様!お気持ちはありがとうございます!ですが私は第三騎士団員とは言え、このアメジストさんに命を捧げた身です。申し訳ありません」と断るとサンクタも「残念だ。以前王都でロムザとレイザーを蹴散らした時から君のような若者をカラーガ騎士団の一員にして技も結束も高めたかったものだ」と言いながらも「その気持ちに嘘はないが冗談だ。ドデモ家には不要かも知れないが帰りまでに書状を用意する。リミール派のナビ・ダット殿が営む魚料理の店もいい店だ。是非彼女と行ってくれよ」と言って優しく微笑んだ。
「ありがとうございます!」
「アメジスト嬢、好みの味付けかは分からないが是非堪能してくれ」
「ありがとうございます。じゃあ今度はイイヒートさんと2人でカラーガまで来たら私はマアルちゃんと術の訓練、イイヒートさんはアルマ君と騎士団員さんと訓練のお礼をさせてください!」
「おお、そうだな。アメジスト嬢も術が堪能でしたな」
「私はイイヒートさんが怪我ばかりするからヒールばかり得意なんです。マアルちゃんにはコツとか教えますね!」
「おお!頼もしい言葉だ!」
そう言ってサンクタはイイヒートとアメジストの仲を祝福した。
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