第55話 お誕生日会06。
ウインドブラストで貴族や私兵を吹き飛ばすとロゼが1番に「サンクタさん!大騒ぎしてごめんなさい!」と謝る。
そうするとジェードが「シックおじさん!メロの事をやらしい目で見る奴らを蹴散らしてごめんなさい!」と続ける。
この後は子供達が我先に謝って最後にリルバ・ルクッドを痛めつけたタシアは「すみませんでした。これに怒ってサルバンに卵を売らないとかしないでください!」と言う。
リルバよりも先にマブツ・ルクッドが「当然ですよ。子供同士のトラブルでそんな真似はしませんよ」と優しい顔で言う。
言い換えればこの場は全部子供のトラブルで済ませてしまう話になる。
ミチト達は許せないがリナが「ほら、タシア達の作ってくれた落とし所だよ」の言葉とライブの「頼もしくなったね。格好いい!」の言葉で「そうだね」と笑顔になると殺気は随分と無くなる。
当のタシアは実は甘くないわけでマブツがフレンドリーに握手をしてきた時にボソッと「良かったです。断られていたら領地まで説得に行くところでした」と怖い顔で言った。
真っ青な顔で「言いませんよ!バカ息子にはキツく言っておきます!」と慌てた所で手打ちになったのでロゼがマアルの前に出て「マアルごめん!」と謝るとジェードも「アルマごめん!」とやる。
「2人の誕生日なのに暴れちゃったよ!」
「ごめんな!メロの事をやらしい目で見る奴だけは許せないんだよ!」
ちゃんとアルマとマアルに謝る姿にモバテが「よく謝ったな」と言葉を贈るとアルマとマアルも首を横に振って「メロお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんじゃなくても僕たちのお姉ちゃんだから」「とても大事な事です!」と言った。
こうして午前中のやり取りが終わり、午後に向けてカラーガ邸や離れでは全員が着替えを始める。
メロは「もう、メロなら平気だから皆で怒っちゃダメだよぉ」と言うが顔は嬉しそうで、ミチトが「絶対にダメだ。こっそりと目が見えなくなるようにしたり耳が聞こえなくしたりしなくていいの?」と言ったり「メロ、これからはママの居ないパーティーの時は自動的に光線術が出る指輪をミチトに作らせて持ち歩きなさい」とアクィが言ったりしている。
当然これで終わる訳もなく、後日ルクッド家にはサルバンからお友達価格、親切価格での取引は停止して正規の料金でやり取りをすると言われてしまい白目を剥いていた。
そしてあの騒ぎでもキチンと騎士団を指揮したイイヒートとナハトというかナノカにはキチンと褒美が出る。
「ナノカさんはお休みです。ロゼが来週迎えにくるから実家でのんびりしてください」
「闘神様、よろしいのですか?」
「いいよ。行っておいで。後は問題も起きないし俺も見張るからさ」
「行っておいでよナノカ」
「そうだよ。パパが見るから平気だよ」
「それならばスカロぉっ!」
「任せろ。ライブよ、済まないがマドレーヌを20出してくれ」
カーテンの向こうからは「今着替え中だって!ミチト取りに来てよ!」と聞こえてきてミチトが渋々取りに行くと「にひひ、似合う〜?」と聞こえてきて「ライブはいつだって似合ってるよ」と言いながらミチトはマドレーヌを持ってくるとスカロがナノカに「ご両親にはサルバンの味だと言って渡してくれ。厳しい訓練にもついて来れている。次からは騎士団ではなくスイーツの勉強、ノルアと共に化粧の練習もすると伝えて安心させるといい」と言いながらマドレーヌを渡す。
「ありがとうございます領主様」
「いや、しっかり休暇をするんだ。その間の仕事はナハトにやらせるから安心するといい」
ナノカは皆に礼を言うとスカロスイーツを持って実家へと行く。
「イイヒートさんはあの騒ぎでも混乱が起きないようにしていたからご褒美」と言うと先にドレスアップを済ませていたアメジストが紫色のドレス姿で現れた。
イイヒートは真っ赤になって喜んで「アメジストさん!!美しすぎます!」と声をかけるとアメジストは照れながら「…ありがとう。お仕事お疲れ様」と言った。
「アメジスト、今日はアルマとマアルのお誕生日会だからそれが終わったら1週間は王都でイイヒートさんに甘え倒してね。延長しても良いけど嫌になったら帰っておいで」
「うん。ありがとうマスター」
「お…俺の女神が…1週間も王都に…」
「あ、勿論このままトラブルが起きなかったらだからね?気が緩むと台無しになるよ」
「勿論です!やり切ります!」
「本当だよ。本当ならシーシーの代わりにシーナとヨンゴのお世話しながらシローとヨンシーを見てたかったのに来たんだからね」
アメジスト自身自分の姿を模した存在、イッツィーに生まれ変わって会おうと約束した以上そろそろ先延ばせる話ではないので積極的になる必要もある。
出かける前にもシーシーに「ごめんね。少しいい?」と言って心の中を打ち明けた。
「アメジストが無理するのは嫌だけどイイヒートさんの為にもイッツィーの為にも頑張ってくれるのは嬉しいかな?イイヒートさんはアメジストの気持ちをわかってるから前にあったアガットみたいにうまくいかなくてもイイーヨさんがやったみたいに優しくしてくれるから平気だよ」
「…うん。私もそう思う」
「なら行ってきてよ。第三騎士団の皆と話す機会があったらシローもヨンシーもそっくりに生まれてきてくれたよって言っておいて」
「うん。わかった」
アメジストが複雑な気持ちを思っている中、イイヒートは「勿論です!これよりイイヒート・ドデモは本気の更に上に行きます!命燃やしてやり遂げます!」と言う。
アメジストが目を丸くして「それ、死なない?」と聞くとイイヒートは「アメジストさんの前では死にません!」と言い切り、横でパテラが「見事だぞイイヒートぉっ!」と褒める。
これを聞いていて、イイヒートの目を見てアメジストは一つ覚悟を決める。
「マスター、パーティーまでの余興を頼んでもいいかな?」
「俺?それはサンクタさん達…」
ミチトが困惑するが返事を最後まで聞かずに「メロ、頼める?」とアメジストが言うとメロは即答で「いいよー。…うん。変な事じゃなければいいって」と言ってくれる。
「ありがとうメロ。マスター、イイヒートさんは正装しないよね?」
「そうだね。今日はドデモさんじゃなくて第三騎士団で来てるからね」
「じゃああの訓練場に水人間出してよ」
「え?イイヒートさんと戦わせるの?死んじゃうよ?」
この説明にイイヒートは一瞬ビク付くが表情は崩さない。
「うん。聞いたよ。ロゼの水人間でもパテラさんと殴り合えるんだよね?だから8回。8回イイヒートさんがマスターの水人間を破壊出来たらイイヒートさんの勝ち。イイヒートさんが気絶したら負けってルールでやって欲しいの」
真剣な言い方、普段のアメジストの無茶振りと違う雰囲気にミチトは心配そうに「アメジスト?」と聞き返すと、カーテンの向こうからは「パパ、やってあげてよ」「ミチト、やってあげてよ」と聞こえてくる。
メロはシーシーから聞いていたし、ライブもメロから聞いていて応援をする。
「良いけど、死なないでくださいね」
「はい!」
「イイヒートさん」
「アメジストさん」
アメジストは照れるようにちょこんとした仕草で真っ赤になってモジモジとしながら「勝ってくれたら嬉しいな。勝てたらご褒美…あげたいから勝ってくれるよね?」と言う。
イイヒートにはそれだけで十分だった。
「勿論です!スティエットさん!今すぐに窓から飛び出してでも倒します!水人間を出してください!」
このイイヒートならミチトにも勝てる可能性があるのでアクィが楽しそうに「ふふ。ミチト、完封されないでよ?」と言う。
これでスイッチの入ったミチトは「楽しいね。行くと良いよイイヒートさん」と言った。
イイヒートは駆け出して訓練場に出るとミチトが「あー…余興です。今から訓練場で王都第三騎士団のイイヒートさんが俺が本気で作った水人間と戦います。是非見てあげてください」と全員に言うと着替えが済んで暇を持て余していた貴族達は私兵を連れて訓練場に向かって行った。
本気になったイイヒート・ドデモは強い。
肉体の損壊や限界を無視した戦い方で水人間のような実体を持たない相手でも根性でなんとかしてしまう。
殴りかかられても何度殴り飛ばされようが剣で斬り伏せる。
ミチトもムキになって水人間からウォーターボールを放つがイイヒートは叩き斬る。
遊びの余興だと思いたかったが顔面は貴族の令息とは思えない傷だらけの鼻血まみれなうえ、ボロボロになってひしゃげる鎧姿のイイヒートを見ては誰も遊びだとは言えない。
そのイイヒートは必死に何かを呟きながら戦っていて、遠視集音術で見ているアクィは嬉しい気持ちについ笑ってしまっている。
一応訓練場に行けないメンバーの為にミチトは伝心術でそれを見せていてパテラが、「アクィ?イイヒートは何を言っている?」と気にする。
「素敵なのよ兄様」
アクィが伝心術で聞かせると「アメジストさんのご褒美…地下喫茶にご招待してフィッシュ&チップスを心ゆくまでご堪能して貰う!あの喜ぶ笑顔が最大のご褒美!その為にはこの水人間を駆逐する!」と呟きながら剣を振るっている。
「あの子、アメジストの笑顔が1番のご褒美なのね」
「見事だぞイイヒートよ!!」
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