信仰

結騎 了

#365日ショートショート 199

 テレビの中では、半裸の男が準備運動をしていた。

 鈴虫の音が鳴り響く夜の境内。頭から水を被った男は、用意された通路へ全速力で突っ込んでいく。掛け声と共に、近くに控えていた別の男たちが火を灯すと、通路脇の爆竹がけたたましい音を立てて炸裂。男はまるで銃撃から逃げる兵士のように、前だけを見て一心不乱に駆け抜けた。

 ワイドショーのナレーションがこう続く。

 ——これは、この地方に伝わる伝統行事です。爆竹の道を走ることで、神に祈りを捧げ、豊作を願います。また、走った男とその家族は向こう一年間、祈りの持続のため根菜を毎日食べるという風習もあります。

「はぁ、なんだか馬鹿馬鹿しいわね。令和にもなって、こんな素っ頓狂な地域があるのね」

 リビングにて夕食を摂る家族。テレビを見ていた母親はそう毒づいた。

「こういうの、宗教って言うのかね。なんの意味があってやっているのか、よく分からないわ」

 そんな母親の言葉など事も無げに、長男がすくっと立ち上がった。「じゃ、ご馳走様」

「こらっ!」。途端、母が怒鳴る。「お茶碗をよく見てごらん。ご飯粒が残っているじゃあないの。いいかい、ご飯粒には神様が宿っているのよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信仰 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説