絶望は怨嗟へと―――
「そこまで考えついてしまった私は……絶望のあまり、導き出した理論に
レティルの声が沈み、表情が一気に暗くなる。
彼がそんな顔になってしまうのも、仕方ないと思った。
自分だって、彼からこの世界の生き物たちが操られていると聞いた時は、全力でそれを否定したのだ。
他人から聞かされたのではなく、自分の考えでそこまで考えついてしまった彼は、どれほど複雑な思いに見舞われたのだろうか。
自分で編み出した理論を否定したくとも、そうすることは自分自身を否定することになってしまうのだから……
さっきまで頭を熱くしていた怒りが、徐々に熱を失っていくのが分かる。
レティルを見つめる実の表情は、どこか痛々しげなものに変化していた。
そんな実が話に耳を傾ける中、目を伏せたレティルが細い息を吐く。
「否定したかった…。我々はそんな
「その後…?」
もう嫌な予感しかしない。
「……皆、綺麗に忘れていたのだよ。私が導き出した、この世界の仕組み。抑止力の存在と、それに縛られた我々の存在意義。私が決死の思いで話したその全てが、誰の記憶にも残らなかった。私がそういう話をしたという事実はもちろん、ひどい時はその日に私と会ったという事実からなかったことになっていた。我々をまとめる
認めたくない。
そんな気持ちから、彼は周囲に相当必死に訴え続けてきたのだろう。
それは、その声に滲む苦悩から察せられた。
「どんなに行動に訴えても、自分という存在を疑う異分子は私だけなのだ。疑念の輪は、決して私から外には広がらない。……認めるしかなかろう? 我々は常に世界という創造主に縛られ、争うことも疑問を持つことも許されないのだと。」
「………」
実はやはり、レティルに反論できなかった。
そんな経験をしたら、自分だってその結論に至ってしまう。
認めたくなくとも、認めるしかない。
今まさに自分が感じているこのやるせない気持ちを、当時のレティルも嫌というほど噛み締めたのだろう。
今の彼が浮かべている穏やかな微笑みは、この世界の仕組みを悟ってしまったからこそのものなのだ。
否応なしに、それを理解させられた。
「自分で辿り着いてしまった真理だとはいえ、それを真実だと認めた時には
その刹那、レティルを包む雰囲気が激変する。
穏やかな表情こそ変わらないのに、その瞳に
「………っ」
背筋を寒気が走っていくようで、実は思わず身震いをする。
この目は知っている。
セイリンを交えて〝鍵〟についての話をしていた時に、父が見せていたそれと全く同じものだ。
こんなに苛烈な怨嗟を持つに至る、壮絶な過去。
それを前に、自分は立ちすくむ他にできることがない。
もはや怒りを伴った興奮はなりをひそめ、首筋に伝うのは冷たい汗。
人間に愛想を尽かしているなんて、そんな生ぬるいレベルじゃなかった。
〝こんな腐敗した世界など、守る価値があるのか?〟
自分にああ語りかけた時には、レティルはすでに人間を―――世界の全てを滅ぼしたくて仕方なかったのだ。
でも、どうして……
レティルの憎悪を理解したら、頭を埋め尽くすのはたった一つの疑問。
「そこで……なんで俺に目をつけたんだ。俺なら、それを成し遂げてくれると思ってるのか?」
彼は何度も自分に言った。
自分という存在に出会えるのを待っていたと。
お前は、私の望みを叶えてくれると。
「ふふ、そうだな。その話もしてやろう。」
そうしてまた、彼は自身が紐解いた真理を明かしていくのであった。
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