魔力過多の原因
数秒、何を言われたのかが理解できなかった。
「お前の力、だって…?」
途端に、喉がからからに渇く。
重たく、そして大きく。
心臓が鼓動を早く打ち始める。
この先の話を聞いちゃいけない。
どうしようもなく、そう思った。
「ふふふ。私は言ったであろう? お前こそ、私の後継にふさわしいと。その後継が意味するところは、器などというくだらないものではなく、私の神としての能力を引き継ぐ者ということなのだよ。」
「お前は、本当によく私の力を取り入れていってくれた。私が与えた力をそのまま享受するのではなく、自分の力を上手く編み込ませて、まるで自分の力のように扱えるようになっていった。まさか、こんなに育てがいがあるとはな。お前とのゲームは、心底楽しかったぞ?」
「そんなの……知らない……」
実はゆるゆると首を振る。
では、レティルの気まぐれな暇つぶしだと思っていた彼とのゲームは、彼が自分に力を引き渡すための口実だったというのか。
今
にわかには信じられない。
そんな暴力的なまでに強力な力が流れ込んできたら、気付いたっておかしくないはずなのに。
「どうしてこれまで気付かなかったのか…と、言いたげな顔だな。」
「!!」
見事に胸の内を看破され、実は動揺を大きくする。
そんな実の様子を眺めるレティルは、とても愉快そうだった。
「まあ、お前だからこそ気付かなかったのであろう。お前は常に、自身の中に他者の力が存在することを感じているわけだからな。そこに別の力が入り込んだところで、違和感を持つほどではなかったのではないか。」
「そんな……」
否定したいのに、否定できない。
そういうことか、と。
レティルが告げた推測に、納得している自分がいる。
「でも、俺がお前の力を自分の力のように使ってたっていうのは……」
「おや、それも信じられないか? その証拠となる分かりやすいものがあるではないか。」
「証拠って……」
「お前が扱う、あの剣のことだ。」
「―――っ!?」
実は思わず、自分の両手を見下ろす。
あの剣がその証拠?
どういう意味だ?
「あれはお前が、私から引き継いだ能力を自分なりに使いやすくしようとした結果生まれたものだ。私は
レティルは特に悩む素振りもなく、実に自身の考えを述べた。
「………っ」
実は息を飲む。
終焉の能力。
その単語を聞いた瞬間、全身から血の気が引いていくようだった。
世界中に縦横無尽に張り巡らされた糸と、その糸を断ち切る終わりの力。
レティルがその能力を使うと発言したということは、今自分に宿っているこの能力が、彼からもたらされたものだということに他ならない。
唇を
「鎮魂祭の時に、意識がなくなったお前の記憶を覗かせてもらったのだ。お前が私の能力を、そんな形でものにしていたとは思わなかったぞ。これならば問題ないと、安心もできた。だから、世界がお前の内側に秘めさせた魂を解放させるどさくさに紛れて、残っていた力のほとんどをお前に渡した。そのせいでお前の肉体や魂が壊れそうになったのは、少しばかり心配ではあったがな。」
「なっ…!? あれは、お前のせいだったのか!?」
実は目を剥く。
レティルはなんでもないことのように頷いて、実の言葉を肯定するだけ。
「何を当たり前のことに驚いている。いくらお前が自分も知らないところで使っていた魔力を取り戻したからといって、それだけで魔力量が限界を超えるわけがなかろう。土地の魔力が強制的に干渉してくることも、本来ならありえない。お前についている世界からの守りは、そんなにやわなものではないよ。」
「―――……」
もう、何も言えない。
レティルが突きつけてくることを偽りだと打ち消せるような言葉を、自分は持っていない。
むしろ彼の話を聞けば聞くほど、それが真実なのだと裏付ける記憶が脳裏にひらめいてしまう。
鎮魂祭の時、あの洞窟の中で。
自分の魔力が一気に暴走し始めたのは、あの剣が自分の内側に帰ってからだった。
―――そうだ。
よくよく考えてみれば、自分の認識は少しおかしいじゃないか。
もしも魔力過多の原因が、他人の命を預かりながら彼らの肉体を守っていた自分の魔力だったとするなら、あの剣が自分の内側に戻る前に魔力が暴走していたはずだ。
タイミングから事実を突き詰めていけば、あの剣に宿っていた魔力に原因があった可能性の方が断然に高い。
だけど、あの剣はとっくの昔に手にしていたものだったから、これまで持っていた自分の魔力に収まるレベルのものだと思い込んでいた。
まさか、あの剣に宿る力が増していたなんて、
「さて……納得したか?」
笑みを含んだレティルの問いかけに、実は何も答えられない。
それを無言の肯定と受け取ったらしく、レティルは静かに目を閉じた。
「では、お前をここに呼び寄せた本題に入ろうか。」
「………っ」
問答無用で次の話に進まれ、実は肩だけではなく全身を震わせる。
「いよいよ、お前にこの願いを告げる時が来た。」
「……嫌だ…っ」
思わず、その場から一歩退く。
聞きたくない。
それを聞いたら、自分を取り巻く世界が壊れてしまう。
本能的な危機感が、脳内で警鐘を鳴らしまくっていた。
しかし、目の前にいる神は、怯える自分を見て笑みを深めるだけだ。
ただ無慈悲に。
これまで秘められていた彼の望みが告げられる。
「今この場で―――私を殺してくれ。」
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