共にいてくれる温もり

 桜理が告げた、唐突な告白。



「………っ!」



 それに、実はパッと顔を赤くする。

 桜理は真面目な表情で続けた。



「実がいてくれるなら、私はどっちの世界で暮らすことになってもいいの。実だって、ずっと傍にいてほしいって言ってくれたじゃない。」



「そ、それは言ったけど……」



 さっきまでの落ち込みはどこへやら。



 熟れた果実のように真っ赤になった実は、しどろもどろになって意味不明なうめき声をあげる。



 その動揺を表すように、視線だけがせわしなく右往左往していた。



「……い、いいの?」



 蚊が鳴くような声で訊ねる実。



 まるで恋愛に免疫がない少女のようなその姿を見て、桜理はやたらと重たげな溜め息をついた。



「実……私、もう何十回とあなたが好きだって言ってきたはずなんだけど? どうしていつまで経っても、初めて告白されたみたいな反応をするのよ…。まだ足りない? それとも、私のことが信じられない?」



「ええええっと! そ、そうじゃなくて…っ」



 桜理の機嫌を損ねたらどうしよう。

 実は大慌てだ。



「まったくもう……」



 一度肩を落とした桜理は、ゆっくりと実の頬を両手で挟む。



「へ…?」



 ぐっと桜理の顔が近付いてきて、実はかちこちに固まる。



「な、何…?」



 声を上ずらせる実をじっと見つめ、桜理はその目をすっと細くする。



「実があんまりにも分からず屋だから、言葉で伝えるよりも行動に訴えた方が早いんじゃないかって思って。」



 互いの距離は、もう少しでゼロになるくらいに近い。



「~~~っ!?」



 途端に脳内が沸騰するような感覚がして、実は音もなく絶叫した。



「ごっ……ごめんごめんごめんごめん!! 分かった! 桜理の気持ちは十分に分かった!! だから急にはやめて! 心の準備をさせてくれってばぁ!!」



 突如桜理がかもし出した、恋人としての雰囲気。

 それにすぐさま順応できない実は大パニックだ。



 桜理はまた、大きな息を吐き出す。



「本当に、どこまで初心うぶなのよ…。普通、立場が逆じゃない?」



「すみません!! ごめんなさい!! 真面目な話、本気で他人からの好意に慣れてなくて…っ」



「だからって、ここまでパニックになるもの? 今まで、告白とかされたことなかったの? 実、絶対にモテてるはずなんだけどなぁ……」



「そ、そんなことないよ!! 高校に入ってからは、むしろ遠巻きにされてるくらいだったし!!」



 あたふたとする実が無意識に体を引こうとするが、桜理は一向に実の頬から手を離さない。



 むしろ距離をさらに詰めて、まじまじと実の顔を間近から観察する。



「はあぁ…。きっと、綺麗すぎて近寄れなかったんだろうなぁ…。私も実の第一印象って、絵本に出てくる王子様だったし。あ、そういえば、こっちでは本当に王子様なんだっけ?」



「ち、違う違う!! 単に、母さんが王女ってだけだよ!!」

「王子様じゃない。」



「血筋がそうだってだけで、心はド庶民だからーっ!!」

「ふふふ……」



 喚く実をからかうように笑って、桜理はようやく実を解放した。



「うう……」



 ひとまず距離を取ってもらうことはできたが、心臓が早鐘を打ってうるさい。

 顔も熱くてたまらない。



 思い返せば、こうして桜理に詰め寄られてテンパることが多くなってきた気がする。

 それに加えて拓也は、目に見えて楽しそうに自分で遊んでくるし。



 どうして?

 もしかして、自分はそんなにいじりがいがあるの?

 どこが?



 全然思い当たる節がなくて、実は混乱したように目を回す。



 得てして、こういうことは本人には分からないものである。



(そういうところなんだけどなぁ……)



 実が何を考えているのかが手に取るように分かる桜理は、実にばれないように肩を震わせた。



 自ら他人を受け入れるようになった途端、気を許した相手の前ではとことん素直で可愛くなってしまった実。



 そんな風にすぐに赤くなって動揺するから、溺愛を暴走させる人々が続出するのだと思うのだけど。



 誰の目からも明らかなことだと思うが、周囲と同じように、桜理はそれを実に言ってやらない。



 こうやって周囲からの愛情に狼狽うろたえている時は、実も複雑な身の上を忘れて、ただの少年になれるから。



 そして―――単純に、面白いからである。


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