第5章 全ては仕組まれて―――
未来を掌握する彼の成長
彼はあれから、目まぐるしく成長した。
予知という
それに見劣りしない魔法の才能。
そしてやはり一番魅力的なのは、何があっても揺らがないその闇だ。
彼は相変わらず、天使とも呼べる微笑みで優等生を演じながら、〝知恵の園〟を裏側から掌握するまでになっていた。
彼の計算によって、少しずつ告げられる未来の啓示。
それがかなりの精度を誇ると知っていくにつれ、〝知恵の園〟だけではなく、城の人間も彼をもてはやすようになった。
……馬鹿な奴らだ。
そうやって表に見えているものだけで判断して褒めちぎることが、彼の心をどんどん凍らせていくだけなのだと、どうして気付かないのか。
時が流れるにつれ、彼が人間に対して持つ
愚鈍な有象無象は、夢にも思わないだろう。
彼が決して、見えた未来の全てを正直に告げているわけではないのだとは。
予知能力の詳細については、能力の持ち主にしか分からない。
彼はそのことを大いに利用して、上に報告する未来と自分が楽しむ未来を振り分けていた。
そして自分の内側に秘めた未来を使って、彼は何人もの人間を破滅に導いた。
初めは同じ子供に恥をかかせるくらいの手ぬるいレベルだったのに、さらに知恵を身につけた彼は手を広げて、地位や名誉で生きる大人からそれを取り上げることもやってのけた。
しかし彼はあくまで、破滅の種を
種を植えられた人間がそれを育てるのか、はたまた取り除くのか。
それを見極められれば十分なのか、ある程度の見通しが立つと、彼は種をまいた人間から一切の関心を失っていた。
坂道を転がり落ちた岩がどうなったのか。
自分で蹴り飛ばしておきながら、その最後を見届けもしないのだ。
別に地位や名誉が欲しかったわけでもないので、空いたポストに誰が収まろうとも他人事。
むしろそういう地位は
やれやれ。
ある意味、本当に
お前に原因があったのだろうという話ではあるが、はめられた当人としては、自分が手にしている栄冠を
しかし、そんな風に平然と他人を地獄に突き落とす彼が、その悪意を一切向けない人種というのも存在した。
彼はそういう人間を、自分の手駒として容赦なくこき使っていたが、私には分かる。
あれは道具のように使っていると見せかけているだけで、自分の管理下に入れることで、彼らを周りの害悪から守っているのだ。
はて。
私でも感心するほどの人間嫌いのくせに、妙なことをするものだ。
どうしてわざわざ守るのかと訊ねると、彼らを破滅させる理由はどこにもないし、自分は特に守ってなんかいないとのことだ。
なるほど。
彼がその
言われてみれば、彼が利用するのはそういう人間だけだったな。
大きく歪んでおきながら、こやつは潔癖症か。
まあ、だからこそ成長してもなお、その闇が純粋なままなのかもしれないが。
のらりくらりと地位をかわしているこやつが、避けられない地位と権力を手にさせられたらどうするのだろう。
裏で野放しにしておくには、あまりにももったいない。
そう思ったので、〝知恵の園〟の総責任者だけは、私の力で押しつけてやった。
あの時の彼の苦渋に満ちた顔といったら、ここ最近で一番の傑作だったといえよう。
まあ下手に地位を与えてしまったせいで、彼が表でも私への
これで堂々と彼を可愛がれるというもの。
隠れて可愛がったことなどないくせに。
あの事件の後に二人になった時、彼が私に寄越したのはそんな文句と、氷の
確かに、言うとおりだがな。
私はあれから、何かにつけては彼にちょっかいを出した。
会う人間には漏れなく、彼は面白いから気に入っていると公言もしていた。
だがあえて言ったのではなく、気付いたら言ってしまっていたのだ。
私は悪くないと肩をすくめると、彼は虫けらを見るような目つきをして舌を打った。
よくこれで今の今まで、表では私にもすこぶる低姿勢で接することができたものだ。
お前が笑顔で私に毒を吐いた時、周りの連中が泡を吹きかけていたのを見たか?
これは本当に、これから面白くなりそうだ。
どうせなら、私が押しつけた権力を利用して、国を引っ掻き回してくれないだろうか。
そう期待したが、存外に彼は大人しかった。
城の方針に従って、ただ黙々と仕事をするだけだ。
――― が、やはりただの操り人形で終わらないのが彼だ。
彼は周囲に合わせて子供たちに私の偉大さを説きながらも、子供たちを国の悪質な洗脳から守っていた。
いや、私の偉大さを説いていたというのは語弊が生じるか。
言葉だけは丁寧な彼の説明をよく聞いて要約すると、〝力だけは強力だが、そこにいるだけで何もしないただの飾り物〟になるのだから。
ともあれ城の目につかないところで、彼は割と好き勝手に〝知恵の園〟を改変し始めていた。
そういや、最近反抗心が激しい手負いの子犬が連れてこられたような気がするが、彼の手にかかったら、途端に牙を引っ込めたな。
あの彼のことだから、牙を折ったのではなく隠させたのだろう。
どんな魔法の言葉を使ったのやら。
あいつのお膝元で、国を貫く
本当に……本当に面白い。
彼なら、いつか本当に一国を潰してしまいそうだ。
そんな風に彼に構い続けていたら、ある日突然、アクラルトが私の元に訪れた。
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