消えた誓約の力
「桜理!!」
一瞬でサレイユへと飛び、実はアティの元へと駆けつけた。
「みの……る……」
アティの根元では、桜理が木の幹にぐったりと身を預けている。
「―――っ!!」
脂汗を浮かべて唇を噛み締める桜理の姿に、魂が悲鳴をあげた。
「桜理…っ! 桜理!!」
もつれそうになる足を懸命に動かし、桜理の傍まで駆け寄る。
抱き起こした桜理の体は、氷のように冷え切っていた。
「ごめん、なさい…。大丈夫だから……」
「無理してしゃべるな!!」
無意識のうちに、厳しい怒号が口から飛び出してしまう。
実は桜理を抱く腕の力を強めながら、右手を左手首に添えた。
解除コードを打ち込んで腕輪を外し、普段抑えている力の核の魔力生産量を最大限まで引き上げる。
「これで、どれだけ繋げるか分からないけど……」
思わずそう零してしまったのは、桜理を失うかもしれないという恐怖の表れ。
実は桜理を強く抱き締めると、注ぎ込めるだけの魔力を桜理に注いだ。
聖木からの力が途切れてしまえば、アティは桜理から生命力を奪い取るしかなくなる。
それだけは阻止しなければ。
一生懸命集中して感じ取った、桜理の魂。
その周囲を自分の魔力で満たして、魔力の濃度をどんどん高めていく。
とにかく今は、少しでも時間を稼ぐことが急務だ。
そうして、どれだけ魔力を注いだ頃だろう。
「実、聖木からの力が少しではあるが戻ってきた。
ようやく、アティからそんな言葉がかけられた。
それで目を開くと、腕の中にいる桜理の顔色が
「―――はあぁ……」
当面の危機は去ったか。
実は大きく息を吐いて、肩を落とした。
かなり緊張していた上に大量の魔力を消費したためか、顔をうつむけると、たくさんの汗が流れ落ちていった。
「急に何が……」
「すまぬ。我にもさっぱりだ。ただ、何やらよからぬことが起こっていることだけは確かなようだ。聖木からの力が戻ってきたとはいえ……その力が妙に少ない。」
「それは今から調べる。」
桜理を抱いたまま、実は片手を太い幹に添えた。
聖木に教えてもらった
意識を研ぎ澄ませて探るのは、アティに埋め込んだ宝樹石だ。
聖木の力を供給する媒介となるそれをあらためていた実は、やがてその顔を真っ青にした。
「聖木の力が……一つ消えてる……」
解析の結果得られた事実は、すぐに受け入れられるものではなかった。
桜理の命を守るために誓約を交わし、アティに力を分け与えてくれている三本の聖木。
その内一本の力が、綺麗に消えていた。
どうして一時は聖木からの力が完全に途切れたのかまでは分からないが、今アティに供給されている力が弱まっているのはそういう理由なのだ。
その原因として考えられるのは、聖木の一本が自分と交わした誓約を一方的に破棄したということ。
―――だけど、そんなことありえない。
思い至った推論に、即で否を唱える自分がいる。
誓約は、互いの魔力を使って交わす特殊な契約だ。
死ぬほどではないが、それを
その制裁を受けてまで誓約を破棄するメリットはないし、もし一方的に誓約を破棄するつもりがあるのなら、そもそも誓約なんて交わさない。
それに、アティをあんなに
きっと、聖木に何かがあったのだ。
「くそ…っ。―――おい、レティル!!」
実はたまらず叫んだ。
「どういうつもりだ!! 俺はここに戻るって言っただろう!? そのために、お前に血を預けるとまで言った!! どういうことなのか説明しろ!!」
こんな追い詰め方をしてくるのは、どう考えても彼しかいない。
しかし、どうして?
ここまで卑劣な手に訴えるくらいなら、交渉の時に素直に血の契約を交わしておけばよかったではないか。
どうしてわざわざ、自分じゃなくて周りの人間に魔の手を伸ばすのだ。
それが嫌だったから、自分から地球を捨てると決めたのに……
実の悲痛な声が消えて数秒。
実と桜理を取り囲むように、強風が巻き起こる。
「―――っ!!」
逆らう間もなく、強い酩酊感に意識が奪われてしまった。
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