後編 ※微エロ注意 苦手な方すみません
皇太子殿下達と別れてから、私達は手を繋ぎなから診療所へと向かっていた。
「……あいつらに言う必要、なかったんじゃないか?」
「ん?何のこと?」
「カフェの事だよ。どうせ分からないだろ、何の事だか。カフェはソフィアが考え出した店だし」
そう。この世界にはカフェとかレストランとかオシャレなお店の概念がなかった。食堂か小さな菓子屋があるくらい。
まあ、正確には私が考え出したんじゃなくて、前世の記憶のお陰なんだけど。こういう時、なんだかちょっとズルしてるみたいよね。
「うーん。まぁ、もしかしたらお客様として来るかも知れないし!細かい事は気にしなーい気にしなーい」
「……まあ、いいか別に。またあんな変な奴がもし店にきたら、俺が追い払ってやればいいんだし」
「そうね!頼りにしてるわ」
「……てかよ」
リアムは何やらモジモジソワソワし始めた。
「……こ、婚約者とかって……貴族様じゃあるまいし」
リアムはボソッと照れ臭そうに呟いた。
「あら?合ってるでしょ?来月籍を入れるんだもん。今は婚約期間ってやつよ。やっと結婚ができる15歳の歳になったんだから。それにちゃんとプロポーズもしてくれたじゃない」
「そう、だけどよぉ……つか、プロポーズっつったって、貴族様とは違ってただの口約束じゃねぇか」
「口約束でも婚約は婚約よ。なによ、結婚する気ないの?」
「バっ!したいに決まってんだろ!!」
リアムは慌てた様子で、こちらを向いて大声を出した。と同時にカァっと耳の先まで顔を真っ赤にさせた。茹でダコみたい。
私は満足気にふふふっと笑ってみせた。
リアムはお隣さんに住んでいる男の子だった。10歳の頃に両親を亡くしてしまった私。そんな私を今まで本当の家族のように世話をしてくれたリアムの家族。そして、ずっと側で支えてくれたリアム。
彼はとっても目付きが悪い。ちょうど10歳の頃から始めた今の仕事がガラの悪い人も多くて力仕事で、ガタイも無駄に良くなっちゃって、よく怖いイメージを持たれる。それでも金が稼げるからと言って今まで続けていた。……たぶん、それはきっと私の為。
本当はとっても優しくて、料理もできてお菓子も作れて家事全般完璧人間。あと、とっても強い!(これは見た目通りね?)
ねぇ、前世のゲームのヒロインさん?
貴方、どうして学園になんて入学しちゃったのよ。こーんなに素敵な幼なじみの男性が側で支えてくれていたのに。
好みじゃなかったのかな?見る目無いわね。
見た目は確かに皇太子みたいに漫画やドラマに出てくるような超絶イケメンではないけれど……全然イケるわよね?この人、強面なだけでけっこう整ってると思うんだけど。
「……やっと今まで我慢して金貯めてたんだ。やっと結婚できる歳にもなったんだし」
リアムはそう言って繋いでいる手を組み換えて、恋人繋ぎにして優しくぎゅっと力を込めた。
「他の奴になんて渡さねえ。離してたまるもんか」
リアムは前を向いたまま、呟くようにそう言った。耳はまだ真っ赤のままだ。
ほら、絶対結婚するなら、こんな男性の方がいいに決まってるわ。だって、こんなに一途に愛してくれているんだもの。
なんでも持っていてチヤホヤされて、浮気も側室もお構い無しな、どっかの「温室育ち坊っちゃん」とは大違いよ。まあ、坊っちゃんにも坊っちゃんの苦労があるんでしょうけど。
でも、庶民の私は胃もたれしちゃう。
私は優しく繋がれている手を、ぎゅっと握り返した。
「当たり前でしょ。一生離さないでよね?」
そう言って私は少し背伸びをして、リアムの頬の下の方にキスをした。
「っ!!!」
リアムは驚いて手を繋いでいる反対の手で頬を押さえた。
リアム、実はすっごく私の事、大事にしてくれていてまだチューの一つもしてないのよね。
何回か、私から迫ろうとしたら「ち、痴女!落ち着け!」と言われて少し傷ついたの。いいじゃない。欲求不満なのよ、私。
でも、頬くらいならいいわよね?だってもう結婚するのよ?頬にキスぐらい幼稚園児でもしていたわ。本当は口にもっと深くしてヤりたいけど、私の背じゃリアムが少し屈んでくれないと、背伸びしてもちょっとしんどいし。
「これくらい、いいでしょ?もう、私達夫婦になるのよ?むしろ足りないんだからね」
私はそう言って不敵に微笑んでみせた。
すると、リアムは顔を真っ赤にさせながら不服そうな表情を浮かべた。
「……足りないだって?」
「ええ、そう……んっ」
リアムは私の言葉を遮るように唇を重ねた。それと同時にリアムの逞しい腕と長い指先が私の腰に、スッと回り思わず身体がゾクッとした。
これは嫌悪感じゃなくて、きっと高揚感。
リアムは数秒間唇を重ねて、そのまま離れようとした。え?ちょっと待って。全然足りないわ。
私は頑張って背伸びをして、離れようとするリアムの頭をぎゅっと自分の方へ引き寄せた。
「っ!……っんむ!!」
リアム、変な声出たわよ。童貞だものね。
そして、そのままゆっくりと自分の舌でリアムの下唇をなぞった。
「っ!!っん……は……」
驚いたリアムは息を吸うために口を少しだけ開いた。私はそのまますかさず、リアムの口内へ舌を這わせた。
舌を這わせると、リアムのザラっとした舌先が当たり、私はゆっくりとその舌先を円を描くようになぞった。
「……っ……ふっ……ん……っ」
リアムは慣れていないのか、息継ぎが上手く出来てないようだ。もうちょっと我慢して、男でしょ?
私はそのままリアムの歯茎や歯列をなぞるようにゆっくりと舌を這わせては、またリアムの舌に自分の舌を絡めた。ついでに、くちゅくちゅとわざといやらしい音も鳴らしてみる。
「……っん…………ちゅ……っん……んは……ん」
私はそうしてやっと引き寄せていた腕を緩めて唇を離した。すると、お互いの唇から少しだけ唾液の糸が艶かしく垂れた。リアムの顔を見ると、頬を赤く染め、瞳がとろけてふにゃっとした表情を浮かべている。さっきの強面の顔はどこに行ったのかしら。というか、こんな顔されたらどっちがヒロインなんだか分からないわ。
あぁ、もう。本当に
「……ん……ふふ、続きはベッドの上ね」
「っ~~~!」
リアムは先ほど、とろけていた顔の時よりもっと顔を真っ赤にさせて声にならない叫び声を上げた。
「っだ、駄目だ!結婚!初夜まで駄目だ!」
「いいじゃない、もうここまで来たら。むしろこんなに可愛い婚約者に、こーんなに迫られて、よく我慢できるわね」
「ち、痴女め……」
「なによ!もういいわ!今度からはもう私からしてあげないんだからね!」
「……いいよ」
「え?」
「今度は俺からするから」
「……ふふ。じゃあ、楽しみに待ってるわね」
「……おう」
「なんだか、もう腕治った気がするわ」
「駄目だ。ちゃんと診てもらうんだ」
「ハイハイ」
そうして私、乙女ゲームの『ヒロイン』はこの数週間後、晴れてこの愛しい人と結ばれ、ふたり仲良くカフェのお店を営み、末永く幸せに暮らすのでした。
乙女ゲームの『ヒロイン』役なんて、まっぴらごめんだわ。
あ、そういえば、ちゃんとベッドで熱~い夜の営みはできたかって?それはまた別のお話よ。
おしまい
乙女ゲームのヒロインなんかになってたまるもんですか。 杏音-an- @aaaaa_
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