第1話 配属

僕はじめじめとベタつく雨を感じながら亡くなった。悲しみも後悔も全く無かった。強いて言うなら、最後見た景色がコンクリートだったこと。死んだはずの体で長い長い廊下を1人で歩いている。亡くなると独特の浮遊感というか、ふわふわした状態で少し気持ち悪い。体重が何倍も軽くなったような心地だ。5分くらいまっすぐ進むと、ここで待っていてくださいと貼紙が貼ってある。見知らぬ場所にいつのまにか着いている。不思議な気がしてキョロキョロ周りを見ると、見渡す限りの白。一面真っ白な会議室のようだ。気味が悪いなと感じていると、カツ、カツ、カツ…ヒールの音が聞こえる。

「失礼いたします。」

ドアの向こうから聞こえた泣く子も黙るような美声。敵か味方かわからずに、俺は息を呑む。ドアガード開いて、声の主の正体がわかる。黒髪ロングヘアの女性だった。身長は高めでスラッとした体型がスーツをきわだてる。メガネをかけているため、キャリアウーマンっぽく見える。

「私、天地判別所夢回収部のナツメと申します。」

「てんち…?あ、こんにちは。僕は…」

「マキトさん。死亡理由は事故死。県内の公立高校に通っていた高校2年生ですよね。血液型はOの乙女座さん。今まで異性と付き合った回数は3回。へぇー、モテるんですねぇ。」

挨拶を遮られ、個人情報を何も見ずにぺらぺら話したことに驚いて、すぐに反応できなかった。付き合った回数…なんで知っているんだ?!ということだけが出てきて、恥ずかしいという思いが頭でひしめき合う。少し間をおき、応えた。

「あ、はい。そうです。あってます。」

彼女はくすっと笑い、僕の方を見た。

「すみません、私のときと全く反応が一緒なもので。」

「な、ナツメさんもここで?」

私のとき…。ナツメさんもこの会議室で同じような話をしたのかと思ったのだ。

「1年前…にです。私の話はいいですよ。話を戻しましょう。」

ナツメさんは昔の話が嫌いなのかすぐに話を切り替えたので、僕も空気を読んで深追いしなかった。ナツメさんは話を続けた。

「単刀直入に申し上げますと、あなたは明日から私と働いてもらいます。天地判別所夢回収部はその名の通り、生きている人の叶えたい夢を回収しに行く部です。1回目は私と周り、それ以降は1人で行っていただきます。1年半後、条件をクリアしておれば、無事に転生することができるということです。ご理解いただけましたでしょうか?」

「正直に言うと、全く。」

ナツメさんは見た目に反し、大きく笑って

「今は大丈夫です、なんとなくで。とりあえず、事務所に行きましょう。」と言った。僕はついていく選択肢しかなさそうだから、ナツメさんのあとに静かについていった。


これが僕とナツメさんという名の謎上司、天地判別所夢回収部との出会いだった。

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人生の取捨選択 @nano0915

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