第2話 メモリアル

300年ほど前(確かなことは分かっていないが)、数多の戦士が魔法の地アーキルトに集まり自らの理想のために戦いを繰り広げた。魔法と武器を用いて戦士達は互いに本気でぶつかりあった。これは「アーキルトの戦い」として伝説のように語られる物語である。しかしこの話は紛れも無い事実である。と、多くの人々はそう確信している。その証拠が50年ほど前に発見された腕輪「メモリアル」である。「メモリアル」はもちろんただの装飾品ではない。これをつけた者の頭には記憶が流れ込み、同時に力が与えられる。それはまさにあの「アーキルトの戦い」で戦った戦士たちのものである。それを身につけたものは剣や魔法の超常的な力が手に入る。ただ、この力は誰でも、いつでも使えるものではなかった。



2022年、幕内黒矢は「メモリアル」を持つ者の一人である。明るめの茶色の長髪を後ろでまとめ、顔はかなり整っている。

大切に袋にしまわれた「メモリアル・アクト」を手に劇場についた黒矢を美しい黒髪の女性が迎える。

「早かったわね、黒矢。どうだった?向こうの人との顔合わせは。」

「やっぱりすごかったよ。さすがナイトを使いこなす人って感じだ。ただ少し気になるというか、、、」

「気になる?」

「それより早苗、インタビューアーの人は?」

「向こうの部屋で待ってもらってるわ。まああなたが早かったからまだ時間あるけど。それにしても最近さらにメモバトが注目を集めてる気がするわね。やっぱり活躍を広げるイケメンエースのアクトさんのおかげかしら?」

「全く、からかうのやめてって言ってるだろ。」

「事実でしょ。あなた世間からモテモテじゃない。普段は人当たりいいのが効果あるのかしら。ギャップ萌えってやつ?」

「だからからかうなって。早苗だって人気への貢献は凄まじいだろ。じゃあ行ってくるよ。後で合流しよう。」

「ええ。」

やはり早苗と話してると調子が狂う。でもメモリアルバトルの人気が上がっていることを早苗の口からも聞けたのが黒矢は心の底から嬉しかった。


部屋へ向かう途中、黒矢は何やら神妙な顔つきの少年が向こう側から歩いてくるのを見かけた。それが最近出来た後輩であることに気づいた黒矢は声をかけた。

「晴翔くん。」

「えっ?あっ!先輩!こ、こんにちは!」

あたふたしている後輩が面白くて黒矢は微笑んだ。晴翔からしたら名前を覚えられていると思っていなかったので驚くのは当然である。

「何かあった?」

「いえ、特に何も!この後のバトル頑張ってください!」

「ふっ、ありがとう。」

足早に去っていく可愛い後輩を見送って黒矢は自身の足も早めてインタビューアーの待つ部屋に向かった。


メモリアルは発見されて以降、演劇の道具として用いられてきた。発見されたメモリアルは20個以上。それぞれに異なる戦士の記憶と思考、力が入っている。演者はメモリアルからかつてのそれらを受け継ぎ彼らの戦いを再現するのだ。それが「メモリアルバトル」である。もちろん本気で殺し合うわけではなく、演者はあくまでも見世物として戦う。だから初めから勝敗は決まっている。メモリアルの力は制限されていて当時彼らが使っていたほどの力を使うことは出来ない。それでもメモリアルバトルが注目を集めるのは

「メモリアルバトルには思いがこもっています。アーキルトの戦士達の思いに自分なりに寄り添える人だけがメモリアルを使える。半端な解釈ではメモリアルは人を拒絶します。だからこそメモリアルバトルでは本気の戦いが見れます。まるでアーキルトの戦いをリアルで見ているような感覚になれる。そのハラハラとワクワクが、オレがメモリアルバトルを続け、皆さんがメモリアルバトルに夢中になって下さる理由だと思います。」

「ありがとうございます。これでインタビューは終わりです。」

黒矢はホッと息をつく。インタビューは何回も経験してきたがやはり緊張はするものだ。



少し後、劇場のステージ裏で黒矢は早苗を探す。そしてキラキラと輝く勝負服を見にまとう彼女を見つけた。

「どう?衣装新調してもらったのよ。あれもかなり長い間使ったから。」

「すごく綺麗だよ。似合ってる。」

「ふふっ。ありがとう。」

「さあ、もういく時間だ。」

「ええ。・・・本気で来てくださいね?」

目の色をかえた早苗が「メモリアルクイーン」を手にステージに上がる。

「当たり前だ。」

黒矢もそれを追った。


ステージの上で向かい合う二人を数えきれないほどの観客が見つめている。クイーンVSアクトは注目を集めているバトルであり、いつもより多くの客がいることを肌で感じながら早苗と目を会わせ

ーーーメモリアル・アクトを腕につけた


瞬間口角が上がるのを感じた。目の前の女性は自ら勝負を持ちかけてきた。女戦士クイーン。おとなしそうな風貌の彼女の目は今まさに覚悟に燃えている。

「女だからって油断しないで下さいよ?」

彼女が黒髪を風にたなびかせながら問いかけてくる。面白い。

「安心しな。俺はいつだって本気だ。」

それより早く戦わせろ。そう言って剣を彼女に向ければあちらもそうする。さあ、始まりだ。

「さあ見せてくれ、お前の戦い方!」


二人が剣を合わせる。そのまま数秒にらみ合い、アクトは剣に体重をかける。それをクイーンがはねのけながら片方の手から魔法を放った。その雷の魔法をかわし、そのまま突撃してきた男の剣をクイーンは少しよろめきながら受けとめ、彼に囁く。

「ずいぶん狂気的な剣さばきですね。」

「ふっ。そりゃ誉め言葉か?」

一度二人は離れ、それからは魔法の応酬が続く。光と闇のぶつかり合いが彼らの戦いを盛り上げる。クイーンは軽やかな動きで踊るように魔法を放ち続ける。対するアクトは闇の魔法を放ちながらも剣をふる手を止めない。

「はっ!」

「くっ。結構やるじゃねえか。」

剣の勢いに押され傷つきながらもクイーンの魔法もアクトの体に血を流させた。

「どうです?私の戦い方。」

「ああ。嫌いじゃねぇよ。」

その掛け合いが合図だった。一瞬動きを止め、にらみあった彼らは同時に剣を相手に振りかざす。

次の瞬間、立っていたのはアクトだった。倒れて呼吸をあらげるクイーンに彼はとどめをさそうとした。

しかし、手が止まった。剣が突然重くなった感覚がして手からすべりおちる。

「ちっ。またあのいまいましい呪いか。」

ああ、イライラする。これじゃ互いに戦えない。

「仲間呼んで手当てでもしてもらえ。」

アクトは顔をしかめながら、地面に倒れる敵に呼び掛ける。

「ぅっ、いっ、今はっ、私の、負けですっ。それでもまだ、チャンスがあるってならっ、、、」

そこまで言って彼女は気絶した。アクトは振り向かずに剣を引きずってゆっくりゆっくりとその場を去っていった。



劇場が拍手で沸いた。




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メモリアル・アクト ハーミー @hermy_magical

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