メモリアル・アクト

ハーミー

第1話 アーキルトの戦い

冷たい雨、雷、草をなぎたおす風の唸り声が聞こえてくる。かつての幻想郷アーキルトは見る影もない。自らの長い髪をまとめ直すと青年は剣を握った。多くの人を傷つけ、殺し、ほんの少しだけ救ったそれを狂気とも呼べる眼差しで眺めたのち、少し遠くに立つもう一人のよく知る青年に目を向けた。雨風でよく見えずとも彼の剣を持つ手に込められた怒りを、こちらに向けられる瞳が訴える憎しみを青年は感じ取れる。彼のここまでの心を感じるのは初めてだった。しかし青年は思う。俺が深いことを考える必要はない。俺はただ戦うためにここに来た。そのはずだ。とにかくあちらにも覚悟があるのは明確。

なら迷うよりも前にーーー

「さあ、見せてくれ。お前の闘い方!」

2人の青年の剣が鋭く音を立て交わった。









「じゃあ、今はここまでで。」

「はい、ありがとうございます。一緒に練習してくれて。」

「いや、こちらこそ。やっぱり噂通りの迫力ですね、幕内君。」

「メモリアル・バトル」の稽古後の何気ない会話。自身の商売道具であり武器「メモリアル」を外した彼らはさっきまでの緊迫した雰囲気など感じさせずに剣を手放す。

さっきまで感じた雨も雷も風も見る影もない、この感覚には幕内黒矢は慣れっこである。黒矢はいつもと変わらずに長い髪をまとめ直し、剣を優しく手入れした。

ただ、相手の目、今もこちらに向けられる目に黒矢は違和感を覚えた。

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