僕は小説家になりたい

haru1030

第1話 僕は

僕が小説家になりたいと思うようになったのは割と最近の事だ。


元々僕という人間は何をやってもやる気が出ず、授業で将来の夢だの志望校がどうだの言われても頗る気分が乗らず、特に勉強にも部活にも熱中せず、怠けてばかりの怠惰な人間なのだ。


まあ、それは今でも同じだが。


特に趣味は無い。朝起きて、学校に一人で行き、クラスの喧騒の中で孤立を極める。


授業にもろくに参加しない。


いつも無駄な事を永遠と考え続け、帰宅をしても直ぐにゲームばかりする。そんな人生を僕は、永久に続ける物だと思っていた。


学力はそれなりにある。


塾に通わして貰い、一応県内のそこそこ上位な高校に入れるとも言われた。ただ僕にとってそれは、あまり嬉しいと感じられなかった。


僕は怠惰だ。


継続が出来ない。努力も出来ない。怠けてばっかりで、特に何もしないし、何も志して居ない。夢もない。将来の予定も無い。


有るのはそれなりの知能と、虚無なる心だけだった。それが寧ろ、僕にとって苦痛だったのかもしれない。


努力せずに、人並み以上学問が出来る。努力している人にとって自分は、憎むべき存在だろう。


授業には参加しない。挙手をしたのだって今年度から数回ぐらいだと思う。放課の間はいつも宿題に勤しみ、終われば支給された端末で遊ぶ。それだけの人間。


陸上部も長距離でそこそこの結果を出せた。でも、半分以上は仮病で休んだ。土曜日の練習など、半年は行っていない。


それでも僕は、大会に出れている。僕という人間の性根は、孤独が好きらしいから、己との戦いである長距離は自分に合っていたかもしれない。


それでも僕の心は、空っぽだった。


或る時自分は、何のために生きるのかと考えた事がある。それは2年の時だったか。


無論解など見つかるはずも無く、結局人は自分のために生きるのだという結論を出したが、別に今でもそれは間違って居ないと思うのだ。


僕は、孤独だ。


昔からだろう。人と接するのが苦手と言うよりは、自分一人で居たいと思う気持ちが強いと思うのだ。


だから孤独を極めて来た。しかし人と言うのは、人と関わらないと生きていけない生物らしい。


何度も寂しくなったさ。そりゃそうだ。人と接しなければいけなくなった時は辛いし、苦難と邂逅し、悶えている自分に同情ないし慰めてくれる友が居ないと言うのは辛いものだ。


僕は、醜い。


いや若しくは、全ての人間がそうかもしれないが、私は限りなく醜悪だ。


先ず、僕は悪党なのである。幼い時から規則を守るのが嫌いで、よく他人を殴ったし、悪戯をしたし、一人で脱走もした。


それでもって周囲の人達を永遠と傷つけて来た。一番迷惑なのは、僕の両親だろう。


感謝感謝の気持ちで一杯なのだが、今の自分は、その感謝も伝えられない程、不甲斐ない。


話を戻す。中学に入学してからも、僕の悪事は苛烈を極めた。


学校の校則など平気で無視し、支給端末のセキュリティを突破して色々調べた。


困っている人がいても助けなかったし、(それは学校が押し付けた義侠感なのでは無いのか)遅刻も欠席も日常茶飯事であった。


僕は、出会った。


そんな怠惰で孤独で醜くて悪辣な自分だったが、中学二年の夏、ある一冊の本に出会った。


本のタイトルは忘れてしまったのだが、その一冊は、人間について描かれた本という事は覚えている。


激しく感慨し、心を動かされたというよりも、自分という人間について考える機会と、本に対する更なる興味を得た。


僕は、本を読んだ。


あらゆるジャンルの本を濫読した。文豪の名著や、ライトノベル、探偵小説、歴史小説など。


空白の心を埋めるように、僕は読書に熱中して行った。そして僕は、知識を得た。世界をある程度知った。自分という人間がどんな生き物なのかを、理解することも出来た。


そして僕は、とあるサイトに出会った。


それがこのサイト。「カクヨム」、又は「小説家になろう」など。


僅か100平方センチメートル程度の光る端末が、巨大な書庫と化すのである。


多くの人々が小説を投稿している。それらは何と素晴らしく面白い物であるのだろうか。今でも暇さえあれば、ブックマークを付けた小説の続きが更新されないか待ち望んで居るのだ。


そして僕は、小説に興味を持ったらしい。


僕は今中学三年生で、入試を控える受験生。今日ようやく最後の大会が終わり、いよいよ皆勉強に精を出す頃合いだ。


しかも僕はどうもやる気が出ない。気分が乗らない。ずっとそうだったから、今も愚かな人間のままなのである。


しかし、以前の自分と変わった事がある。それは、僕は無知ではないと言うことだ。


世界はこれ程までに広く、社会はとても恐ろしく、人は欲望の隷属だとも知った。そしてなにより、小説は僕の心を潤してくれた。


ただ僕は無力だ。ただの子供で、しがない学徒。力などなく、大人に対して反駁さえも出来ない、惨めな子供なのだ。


ただ、それでも僕は、夢を持っている。


いずれ今の自分が憎んでいる醜き大人に、刻一刻と近づいているのだから、僕という人間もやはり、限りなく醜いのだろう。


しかし、夢だ。夢とは何だ。夢とは希望か。それとも救いか。いずれにせよ、子供が抱くことの許される大志を僕は、やっと持ち始めたのだ。


そう、周囲の人間が、夢を忘れ、現実的なって勉強に励もうとしているこの頃に。


僕という人間は怠惰だから、直ぐに諦めてしまうかもしれない。圧倒的に無謀だと気づき、周りのように生きようとするかもしれない。


そして僕も大人になった時にこの拙い文を見つけ、黒歴史だと笑うかもしれない。


ああそうだ。これは夢。幻想なのだ。だから僕はずっと、子供のままなのかもしれない。


分かるよ。無駄だってことも、意味の無い事だってことも。それでも、この愚かな人間が、ようやく決意して、何かをしようとしているのだというらしい。


結果がどうであれ、僕は孤独だから、この出来事を誰にも知られる事が無いのだ。それだけが幸いである。


まあいつの日かは、この夢でさえも、この命でさえも、この世界でさえも虚無に帰すのだというのだから。せめて、せめてたった一つの希望、夢を持っていたいのだ。



僕は、小説家になりたい。

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