第2話 世界滅亡

「うわっ、なんだこれ?」


 目が覚めると、無数の腕が全身に絡みついていた。


 特に強く引っ張られているわけではないが、おぞましい光景だ。


 すぐにでも抜け出すべきところだが、不思議と心地よく、必死で逃げる気にはならない。なんだかこのままでもいいような気がする。


「うらやましいわ」


 傍らを見ると、ひとりの少女が、俺と同じように横たわっていた。いや、少女なのか? 口調こそ女らしいが、なんだか中性的で、老若男女を判定しづらい。


「大人気ね」


 少女は続けてそんなことを言ってきた。そんな良いもんじゃないと思うが。


「ここがどこか分かるか?」


 俺がそう問うと、少女は意外そうな顔をした。


「え、まだ自分が死んだことに気付いてないの?」


 数秒、俺は思考が停止した。


 そうか。俺はあの時、撃たれて死んだのか。記憶が飛んでいた。


「ここは冥界だよ。天国にも地獄にも行けなかった人々のたまり場。でもいいね。あなたは、天国からも地獄からも、勧誘されてるみたいで」


 そういえば、俺に絡みつく腕には、地面から生えているものと、上から降りてきているものの二種類がある。それぞれが天国と地獄から伸びてきているのか?


「俺はどっちも行きたくないな……」


「また生き返りたいの?」


「あぁ、まだやり残したことがあるんでな」


 真希を止められなかったのは自分の力不足だ。いや、それ以前に、もっと警察組織全体として総力を挙げて動いていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。俺の独断専行ぶりも災いしたのだろう。


「ちょうどいいね、私もなの」


「あんたも何か生前に未練が?」


「そ。【あの方】が死んで56億7000万年後に地上に降りて人類を救うはずだったんだけど、もう既にヤバいことになってるからさ。さっさと行ったほうが良いと思って」


 なんだ?


 こいつも真希と同じような思考回路の奴なのか? 話が壮大過ぎる。とりあえず刺激しないよう、話を合わせておくか。


「ヤバいことって?」


「そうか。君は100年くらい寝ていたから知らないのか」


 少女は地面に丸く円を描く。円の内部は鏡と化した。


 冥界だとこんな不思議な術も使えるのか。俺は感心した。


 だが、鏡に映っていたのは、驚くべき光景だった。


「これが……東京?」


 折れた東京タワーの周囲は、砂漠と化していた。ビルの破片すらない。

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全て空虚なマイトレーヤ 川崎俊介 @viceminister

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