全て空虚なマイトレーヤ
川崎俊介
第1話 変革の日
「残念ね。もう見つかっちゃった」
ドアを蹴破った俺を見て、真希は嬉しそうに言った。言葉とは裏腹に、大して悔しげではない。まるで、こうなることを望んでいたかのようだ。
「保科真希。ここでお前を逮捕する。抵抗すれば撃つ!」
俺は拳銃を構えるが、真希は一切怯まない。真希は俺を足元から頭上まで見渡し、可笑しそうに笑っただけだった。
「できるの? あなたに? 最愛の人を殺すなんてことが」
「できる。真希を愛しているからこそだ」
真希にそう告げると、彼女はコロコロと笑った。
「ありがとう。優しいね、総一郎くんは。でもね。私が死んだところで、もうどうにもならないの」
刹那、黒い影が真希の左から飛び出した。
俺はとっさに腕をクロスさせて防ぐが、重い打撃をモロに食らってしまった。骨が軋み、腕が痺れる。持っていた拳銃は床を転がる。
「真希様に手出しはさせん」
ボディーガードと思わしき金髪碧眼の巨漢は、無機質な声で告げた。
ここまで大量の配下を倒してきたが、当然真希の近くには手練れがいる。分かってはいたが、もう体力が限界で、後れを取った。
「教祖様の真似事か。恥ずかしくないのか? 真希?」
「これが最も合理的なのよ。世が乱れたとき、人々は唯一絶対の存在に縋らざるを得ないから」
真希は俺に背を向け、バルコニーへと出る。建物の下には、大勢の信徒たちが整列している。
ここに突入するときに見えた。
皆、俺という侵入者を目にしても何も反応を示さず、ただ恍惚とした表情で真希の登場を待っていた。不気味なことこのうえない。それとも、真希は不死身にして神聖なる存在だと、本気で信じているのだろうか?
「じゃあね、総一郎くん。また来世で」
真希は当たり前のことのように言う。
「来世なんて信じてない。真希は、現世限りのかけがえのない人だよ」
俺の口をついて出たのは、そんな本心からの言葉だった。
「ありがとう」
次の瞬間には乾いた銃声が響き、俺の意識は薄れていった。
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