着物

 風呂を出ると、テーブル……というかちゃぶ台の前に、縁が座っていた。

「風呂、どうだった」

「あ。気持ち良かった」

 着物には苦戦したけどな。着た、というか、とりあえず巻きつけたみたいになってしまった。

 俺の格好を見て、縁が大きく息をついた。

「あんた。何だい、その着方は……」

「えっ」

 やっぱり変なのか、これ。縁は立ち上がって、俺の着物に手をかける。

「左前になってるよ」

「ヒダリマエって何だよ」

「……。とにかく、合わせが逆ってことさ」

 一度帯を解かれ、直される。縁の顔が近い。しゃらしゃら、と耳元で大きな耳飾りが揺れている。

「……綺麗だな」

「うん?」

「いや、その耳飾り。綺麗だと思って」

 ああ、と縁は耳に手をやった。

「ありがとうね。姉と買ったものなんだ」

 姉?

「縁、姉ちゃんいるのか?」

「うん。まあ、双子の姉だけどね」

「へえ……」

 縁の、姉ちゃん。双子ってことは、やっぱり似てるんだろうな。

「……まあ、今どこにいるかは知らないけどね」

「え? それってどういう」

 どういうことだよ、と聞きたかった。でも、縁の「はいできた」という言葉で消された。

 帯はきちんと結ばれていた。ヒダリマエ、というのも直されたみたいだ。う、ちょっと動きづらい。着物なんて初めて着た。

「明、ここにいる間に着方覚えなね」

「……おう。ありがとう、縁」

 縁の笑顔に、何か隠れてるような……そんな気がしてならない。

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路地が明るくなる たちばな @tachibana-rituka

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