第87話


「ここが僕の職場です」


「広いな……」



 俺がエルグートに連れて来られた場所には、プールの三倍くらいの深さの水槽が、広大な部屋の地面に埋め込まれていた。



「これに水を注ぐのか?」


「はい!」



 道中、エルグートがフラーテルンの水事情を握っているのは、直接、彼から再確認した。



「うーん……」


「丁度、溜めた水も減ってきたところですし、僕の仕事風景をお見せしましょうか? と言っても、水魔法を使うだけですが……」


「おおっ! 是非ともやって見せてくれ!」


「そこまで言うのならば! 行きます!」



 エルグートの体内で、膨大な魔力が動き出す————



 ドドドドドドドッ!!



 エルグートの手前二メートルくらいの空中から、大量の水が生まれ、勢いよく流れる。

 それと同時に、大量の魔力が継続して消費されているのが感じ取れる。



「どうです! 僕のこと、尊敬しますかっ!?」


「こっち見るな。集中しろ」



 一分後、エルグートは水魔法を使いながら此方の方を見て、話しかけてきた。



 (何て言おうか……)



 真剣な表情で黙々と魔力を操るエルグートは、そのエルフという種族故の整った顔立ちも相まって、非常に幻想的で美しかった。


 この場に他の人が居れば、男女問わず、その光景に見入ってしまうことだろう。

 (※ 尚、ゼオンに男色の気はない)


 だが、それをバカ正直に伝えるのも癪なわけで……



「まぁ、一定の魔力を使い続ける集中力凄いと思うぞ?」


「ありがとうございます!」


「……」



 どこまでも陽気なエルグートに、毒気を抜かれる俺。


 数分後、水槽が二割くらい埋まったところで、魔力の放出が止まった。



「ふぅ……やっぱり、魔法を使うのは楽しいです!」



 エルグートは魔力回復ポーションを飲み、そう声を漏らした。



「そうか。それは良かったな」



 仕事を楽しいことと言い切れるとは、幸せなやつだ。



「では、次は僕の……」


「————」


「? どうしました?」


 (これは……?)



 俺は常に街全体を容易に包み込めるほどの範囲に薄く魔力を広げ、その様子を魔力探知している。


 そんな中、ある空間へと向けた探知が弾かれたのだ。



 (初めての感覚だ……ある程度の魔力を込めないと、探知が出来なくなっているな……)


「あのーっ!」


 (いや、待てよ……フィリナが居るな。何かに巻き込まれたか)


「ゼオユーランさーん?」


「悪い。用が出来た」


「えっ!? そんな急に!?」


「ああ。また会おう」


「え、ちょ————」


 (転移)



 俺は、フィリナの居る辺りに向けて、転移した。




   ♢



 数分前————。



 (暇ね……ゼオンくんは王城に行ったみたいだけど、付いて行った方が良かったかしら?)



 フィリナは、フラーテルンの街中を人の波に沿って歩いているのだが……



 (それにしても……宿を出てからずっと私を追って来ているヤツらが居るわね)



 背後で一定の距離を保って自身のことを追跡する五つの気配を感じ取っていた。



 (まぁ、いつもの対処法を採用しましょうか)



 フィリナが足早に人混みを流れるように避け、ぐんぐん先に進んで行くと、追跡者たちもそれに合わせて人を押し除けながら移動をする。


 やがて、フィリナは人気ひとけのない路地裏へと辿り着いた。



「貴方たち、私に何の用?」


「小娘が……気付いて居ながら俺達をこんな場所に誘い込むとは、余程腕に自信があるようだな?」



 男五人組の一人が顰面しかめつらをしながら尋ねる。



「貴方達を相手にするには充分すぎる実力は持っているつもりよ」


「……一応聞くが、抵抗せずに俺達に付いて来る気はあるか?」


「知らない人に付いて行ってはいけないって親に習わなかったの? 嫌に決まってるでしょ」


「親、か……」


「……仕方ない。タツ! アレを使え!!」


「おう!」



 ブウンッ!!


 タツと呼ばれた小柄の男が、魔道具らしきモノを起動する。



「……何をしたの?」


「何をされたか、お前が一番分かってるんじゃないか? 凄腕の魔法師なんだろう?」


「何故、私が魔法師だと?」


エルグートがお前とその連れの魔力を褒めていたらしいからなぁ?」


 (エルグート……確か、この国最強の魔法師だったわね。あの時のエルフがそうだった、ということかしら)



 フィリナは、そのやり取りの中でフラーテルンに入ったばかりの時に出会ったのがエルグートであると知る。



「どうだ? 魔法が使えないだろう?」


「そのようね」



 フィリナが放とうとした氷魔法は、魔力が消費されただけで不発に終わった。


 魔法が使用できない範囲や時間は不明だが、魔法に頼らないことを前提とした戦闘スタイルを意識し始めるフィリナ。



「魔法が使えない魔法師はただのザコだ……だが、テメェのその自信はどこから来ている?」


 (そういえば、以前ゼオンくんから聞いた話と今の私、似たような状況にあるわね)


「どうせ強がっているだけだろ。早く捕まえてボスの所に連れて行こうぜ」


「……そうだな」


 (ボス? やはり、誰かに命令されて来たのね。でも、わざと捕まって様子を探る選択肢は無いわね)



 魔法を封じる手段を有する集団だ。他にも予測できないことをしてくる可能性がある以上、フィリナはわざと捕まる気が無くなった。





—————


 あとがき


 いつも拙作を読んで下さっている方々、有難うございます。


 突然ですが、作者のリアルが忙しいので、この作品を暫く休載とさせていただきます。


 次回更新は未定ですが、4、5ヶ月ほど先のつもりでいます。


 そんなに待てない、という方は、フォローを外して頂ければ……



 まぁ、「カク」はしませんが、「ヨム」はするんですけどね(笑)


 え? それなら、「カク」の方をしろって?



 ……では、また次回の更新で会いましょう!






 





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異世界転生者の無窮冒険記 雪焔 善 @minedefault

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