第六十話①
ステルラが勝った。
ステルラが覚醒した。
ステルラが死にかけた。
ステルラが俺を苦しめる宣言をした。
ステルラが本当の意味で至ってしまった。
ステルラを悲しませる事が確定してしまった。
ステルラに追いつくのが至難の領域になってしまった。
ステルラが…………
「ホラホラ、いつまでもいじけてないでお姫様のお出迎えしたらどうですか」
「いやです。俺は今非常に繊細で硝子同然の心をしているゆえ、これ以上の負荷には耐えられない」
膝を抱えて丸まった俺に対しペチペチビンタをしてくるルナさん。
もうちょっと、こう……傷心中の男を慰める手法を拘ってくれないかな。それで励まされる男がいる訳ないだろ、もっと甘やかせよ。男は何歳になっても甘えん坊なんだよ。
「ステルラさんが負けそうな時のロアくんの慌てっぷりと言ったらもう……」
「やめろ。次それを言ったら舌を引っこ抜く」
「再生するから問題ないですよ」
くそがっ!
誰だって焦るだろ、あんな状況になったらよ!
俺はステルラに俺以外に負けてほしくない。
ステルラ・エールライトという少女が俺以外の人間に負けるはずがないと思っているが、それと同時にこれ以上強くならないで欲しいという願望もあり、その上で俺を含めた誰にだって負けないくらい強くなって欲しいと祈っている。
大目標で言えば『ステルラが死なない、傷つかない』が目標だ。
幼き頃から変わる事のない願い、ステルラ・エールライトという才能溢れる天才少女が戦いの場で命を散らす事が無いように足掻くのが俺の目的。
だから長期的な目で見るのならば、ステルラが
魔祖の実年齢は五百を越えている。
未だに
ステルラならばそれくらいの領域に辿り着けるだろう。
「…………ま、それに関しては問題ないとしてだ」
ルナさんもいるし師匠もいる。
ルーチェが至るかどうかはわからないが、友人が残れば残る程ステルラにとって豊かな人生になるのは確実だ。俺はアイツに人生を謳歌して欲しいし出来る事なら争いから離れていて欲しいが、生憎前世とも呼べる謎の記憶の持ち主が遺した未解決事件があるゆえにその願いは届かない。
戦力はそれなり以上に整ってきた。
今なら、なんとか出来るかもな。
「…………ロ、ロア?」
「……なんだ、ステルラか」
先程激烈な勝利を収めて来たステルラが、観客席までやってきた。
「よく勝った。やっぱりお前は強いよ」
「あ、ありがとう。えへへ……」
ふ~~~~ン……
可愛い奴だ。これで魔法の才能に溢れていて俺を打ちのめした事実さえなければな。
「『追いかけて来てよ!』」
「ヴッ」
「『私はここにいる。私は先にいる。私は待ち続けるから!』
「ヴァッ!?」
ルナさんの非常に感情の籠ったモノマネによりステルラはダウンした。
正直俺が聞いていても少し恥ずかしかったから相当なダメージだろう。感性に関しては一般人と比べても大差ないステルラのことだ、勢いで言葉を吐いたことを後悔してるだろう。
目をぐるぐる回しながら「ひええぇ~!」なんて言いながら俯いてその場に蹲る。
「うぅ…………穴があったら入りたい……」
「フフン、トーナメントでは負けましたが実質私の勝利ですね」
胸を張って鼻息荒く宣言しているが、ステルラは恥の上塗りによってダウンしたままである。
「そういえばルーチェはどこに行った?」
「ルーチェさんは過去の自分と向き合いに行きました」
「どういうことだよ……」
さっきまで居たのになんで居ないのかと思ったら、なんだろうか。
ステルラが負ければいいとでも思ってたのか? いや、そういう女じゃないな。どちらかといえば強くなったことに絶望した……違うな。
うーむ、わからん。
「そっとしておいて下さい。多分致命傷です」
「そうですか。まあルーチェならそのうち戻ってくるだろ」
さっきから妙にガツンガツン何かをぶつける音が響いてるが、誰もその場所に近寄ろうとしていない。
変なのには絡まれたくないからな。
俺も気をつけよう。
「……ちょっと、妬けちゃいますね。うりうり」
「う、ううぅ……」
蹲るステルラをペチペチ叩くルナさん。
「こんなに大勢の前で堂々と告白とはいい身分ですね」
「あうっ」
「こらこら、そこらへんにしておいてくれ。泣いちゃうだろう?」
どこからかテレポートで現れた師匠が蹲ったままのステルラの上に座った。
ぐえっ、なんて年頃の女が出していい声じゃない音が聞こえてくる。
ざまあないぜ。
「これはエイリアスさん。こんにちは」
「こんにちはルーナくん、ステルラ、馬鹿弟子」
「誰が馬鹿弟子だ、若造り妖」
戦いの前だというのに身体を駆け巡る雷に、流石の俺も動揺を隠せない。
普通はケアしてくれるのが師匠の立ち場じゃないのか。敵に塩を送る、しかも俺より強い上位存在へ塩を送る。こんな非道な行いが許されていいのだろうか。
「────ん?」
が、しかし。
俺が考えているような電撃ではなく、どちらかといえば身体の気怠さや重さが薄くなり調子が良くなった。
どういうことだと視線を送ると、呆れた表情でため息を吐かれた。
「全く、いくらなんでも試合の直前にダメージを与えるわけがないだろう」
「師匠ならやりかねないと思いまして」
「君は私のことをなんだと思ってるんだ?」
「虐待趣味のショタコ」
ここから先は口を閉じた。
これ以上下手なことを言えば死ぬ。
俺の培ってきた第六感がそう告げている。これは間違いなく死の予兆であった。
「美しく聡明なエイリアス様デス」
「良し、よくわかってるな」
「ひどい信頼関係を見ました」
ルナさん、これが真実だ。
エミーリアさんはこういう事無さそうだな。良くも悪くも師匠は付き合いが長いから俺に染まっているのかもしれない。
昔から生きている上位存在が俺に染まってるの、結構いいな。
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