第五十八話①
学園に入学する前に一度、師匠に聞いた。
師匠が思う強い人物は今どれくらい居るのか、と。
私の声を聞いた師匠は、驚いた表情を見せた後に、口元を柔らかく曲げて笑みを浮かべた。その真意がなんだったのかは、今でもわからない。
『……同世代と、大人たちも含む全世代。どちらが聞きたい?』
『同世代でお願いします』
『ん、わかった。となれば──ステルラが聞きたいのは魔導戦学園に在籍する強者、という認識で問題ないかな?』
言葉足らずな私の問いを補足してくれた上で確認してくれる師匠に感謝を示しつつ、頷く。
『まずは、君たちと同い年から。代表的なのは魔祖十二使徒第五席が一番弟子、ヴォルフガング・バルトロメウス君だね』
第五席と言えば、風魔法。
私は電気だから相性で言えば良くも悪くもなく、戦いを上手に運べば問題なく勝利を収められる筈。
『彼は既に最上級魔法を扱えるし、才能もある。ステルラと違う点があるとすれば──戦いが大好きってところかな』
『殆どの人と外れてるような気が……』
『何度か手合わせしたけれど……彼は強くなる。確実に
そこまで評価するんだ。
少しだけ胸の中で渦巻いた矮小な嫉妬心を抑え込んで、話に耳を傾ける。
『他の面々もいるんだけど、君達の学年だと彼くらいだよ。ステルラに比肩するのは』
『ロアはどうなんですか?』
『気になるかい?』
『ま、まあそれは……気になります』
違う。
最初からロアのことが聞きたかったわけじゃなくて、戦うべき相手の情報は聞いておかなければならないと考えたから師匠に聞いたんだ。だからニヤニヤして見透かさないで下さい、恥ずかしいです。
『乙女だねぇ…………』
『し、仕方ないじゃないですか! もう何年も会ってないんだから気になりますよ、もう!』
昔の私はわんぱくで活発的で悪く言えば阿呆な子供だった。
今の私を見たらロアはどう思うのだろう。ああいう快活さが良い、みたいなことを言っていた記憶もあるし何度か師匠を伝ってロアが私のことをどう思うか聞いてみたけどその時もやはり『元気なステルラ』ってイメージを私に抱いていた。これでロア以来にできた友人にデリカシーのない言動を繰り返して絶縁してそれをいまだに引き摺ってるような女だと思われたら────いや、そう考えてるのは事実だから否定できない。
『やれやれ。相変わらず対人関係はダメダメだな』
『う゛っ……』
『ロアはそんなこと気にする男じゃないだろうに』
『うぐっ!』
胸を押さえて跪く。
それ以上はやめてください。
『そういうところが可愛いんだけどね…………さ、話を戻そうか』
『お、お願いします……』
『ロアの強さは計りきれない部分もある。あくまで私の主観になるけれど────今のバルトロメウス君に負けることはないだろう』
代表格、なんて言っていた存在に負けない。
贔屓目ありで語るにしろ、現在ロアがどれだけ戦えるかを知っているのは師匠だけ。だからこの情報を真として見る他ない。
やっぱり、ロアは凄い。
あんなに辛そうで、あんなに苦しそうで、あんなにキラキラ輝いてて……カッコいい。魔法が殆ど使えないのがハンデにならないなんて、考えられないよ。
『世代一を競うのは君たち三人。恐らく、だけどね』
私とロアと、バルトロメウスくん。
やけに楽しそうな師匠の表情からは何も読み取れないけど、きっと近いうちに戦うことになるのだろう。
『上の学年はどうですか?』
『一個上に世代最強。二つ上に準最強格、そして一番上に──全世代を統合しても最強格と呼べるのが、
全世代の中でも、最強。
それはつまり、師匠達を含んでも……ということだろうか。
『うん。私たちを含んだ中でも十二分に最強格と呼べる逸材だ』
そんな人がいるんだ。
私は師匠の本気を引き出すのもやっとだし、流石に同学年の子達と比べれば強いと言えるけれど────流石に師匠と対等かと言われれば、頷けない。
『……今の私でも、勝てますか?』
『ステルラがその気ならね』
勝てる、と保証はしてくれなかった。
勝ちの目がないとは、言わなかった。その事実に安堵を覚えるのと同時に、負けてしまったらどうしようという妙な緊張感が生まれるが胸の奥に仕舞い込む。
『まあ、特に頭二つ分くらい飛び抜けてるのが彼──テリオス・マグナスくんだけど、彼だけじゃないのがあの世代の凄いところさ』
『し、師匠達に対等なんて言われる人だけじゃないんですか……?』
どうしよう、少し自信が無くなってきた。
一つ上の世代最強って断言された人も気になるけど、それ以上にそんなに沢山の実力者達が集ってる学園に怖くなってきた。
『そう気に病むこともない。彼らは君たちより三年も研鑽を多く積んでいるのだし、実力が開くのも仕方のないこと。これだけは確かだけど、才能という点で言えばステルラが一番なんだから』
『……そう、かなぁ』
才能。
ロアが褒めてくれた、一番のモノ。
僻むように、それでいて本心から褒め称えてくれた私の一番の長所。才能なんてものに全振りしたせいで人間関係の構築が下手くそなんだけど、そこだけは嫌いだった。
複雑な感情を抱いている私に、師匠は苦笑しながら告げた。
『君たちが最高学年になる頃には、きっとステルラが学園で────いや。私たちも含めた中で、最強になれると信じてるよ』
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