第五十三話③
「思わぬ強敵ですね……」
「俺と師匠の間にそういう関係はありませんよ」
「ロアくんは誰に対してもそう言うので信用できません」
やれやれ、信用無いね。
ムカついたので頭を撫でて黙らせる。
むふー、と鼻息を荒めに噴き出して落ち着いたルナさんは置いておいて、会場に入って来た姿に目を凝らす。
「テオドールさんか」
先に来たのは兄。
兄弟揃って愉快な性格をしているが、弟はヤバさに全振りしてるから比べてしまうと差を実感してしまう。テオドールさんはあくまで問題ないラインで愉しみ、アルベルトは問題になる範囲も含めて全部愉しんでいる。
厄介すぎるだろ。
至極真面目な表情で入場し、そのまま剣を地面に突き刺し待ち構える。
「……相対したくないな」
学生が出していい空気感じゃない。
歴戦の武将、それも総大将とかその領域が醸し出す雰囲気。
あの時代に傑物が揃っていたのだから今の時代に現れないとは限らないが、それにしたってヤバいだろ。
「強いよねぇ、テオドールさん」
「交戦経験が?」
「何回かね。剣の腕も凄い良いから楽しめるんだけど……なんかいやらしいんだよね」
視線がとかそういう意味合いじゃなさそうだ。
「わざとやってそうだ」
「やっぱりそう思う?」
「あの兄弟ですからね」
アイリスさんと視線が合う。
俺の予想は間違ってないみたいだ。
敢えてアイリスさんにだけ戦い方を楽しみにくい形に変更している。
「テリオスさんと戦う時はギラギラした目でやる癖に…………」
羨ましそうに言うあたりアイリスさんが恋してるように聞こえるが、この人は人に恋しているのではなく剣に恋しているのでノーカウント。
「ま、今はロアくんがいるからいいけどねっ!」
そうですか。
ぎゅ~っと俺に身を寄せてくる。
何故か対抗して反対側から押してくるルナさんがやかましい。
「モテモテね、色男」
「妬むな僻むな。俺は全部受け入れるぞ」
ルーチェが極寒の視線を向けてくる。
もう最近慣れて来たなこの感じも、マンネリってこういう状態の事を言うのだろうか。
マンネリと言うには少々命の危険が多すぎるのだが。
ルーチェは俺を殴って来るしアイリスさんは命を奪りにくるしルナさんも燃やすし師匠は電撃を浴びせてくる。やっぱステルラが一番大人しくて慎ましいな。
「俺にアルベルト並の感性が備わっていれば……」
「この世に生まれちゃいけないレベルのたらしが誕生するからやめて」
随分な言われ様じゃないか。
別にそんな特別な事は一切してないし、女性に惚れさせようなんて意識して行動したことはない。
相手の感情や気持ちを思い遣って言動に気を付けるのは人として当たり前の事であり、戦闘における才が塵程しか存在せず他人の借り物で見栄を張っている俺なのだからその位はしなくちゃな。
まあ俺はそこにつけこみ甘えてヒモ生活を望んでいるのだが。
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