第四十八話
膨大な魔力を持つ、互いに
本来ならば、この坩堝という会場そのものが吹き飛んでもおかしくない余波が発生するハズだった。
「…………あやつら、なんにも考えておらんな」
「ははっ、いいじゃないか。尻拭いはアタシらがすればいい」
魔祖とエミーリア、二人並んで観客席の最前列に佇んでいる。
目の前には軋む魔力障壁、されど罅割れ一つ入らない強固な壁と化したソレが揺らぐ。
すべては平和に競い合う事の出来る環境を作り上げる為に。
いまだ爆煙に包み込まれた会場の中で高まり続ける魔力が二つ。両者ともに全く譲る気のない戦闘の行方を憂う様に魔祖がため息を吐いた。
「愚か者め。
「若者の特権……とは、言い難いな。ルナもそんな気負う必要ないってのに」
背負った者と背負えなかった者、そして背負わせてしまった者と背負わせなかった者。
立場の違いがありながらそれぞれが共通して抱えている感情がある。
「この立場になってわかるよ。育てるって、大変だよなぁ……」
「……否定はせんが、それはそれじゃ。青臭いガキ共に教えなければいけない事もある」
「じゃあ先ずはテリオスくんとしっかり話し合ってもらって」
「うぐっ……」
愉快そうに笑うエミーリアと対称的に、やましい事があるのか顔を逸らす。
何かを話そうとして悩む仕草を見せた後、結局口を閉じた。
「見届けて、そこからだ。口にしないと伝わらないからな」
「…………フン」
腕を組み僅かに口を尖らせ、不服そうな表情を見せる魔祖。
それでも瞳は一切動かさない所から、彼女がどれだけ真剣に試合を見ているかが伺える。魔祖のそんな姿を横目で見ながらエミーリアは薄く笑いながら呟いた。
「…………運命なんて陳腐な言葉、信じるって言ったら驚かれるな」
脳裏に浮かぶのはかつての英雄。
魔法も剣も体術も才能が無いから死ぬほど頑張ったと言っていた、運命や因縁と言った言葉から最も遠い不屈の男。いつだって気丈に振る舞って、弱みなんて全く出そうとしなかったが、二人で旅した頃の思い出は何時までも焼き付いている。
それでいて闘志は剥き出しの愛しい英雄。
懐かしむ様に想起し、時が過ぎてなお雁字搦めになっている自分の現状を再認識した。
『…………輝かしくもなく、煌びやかでもなく、ただひたすらに
そう呟いた、娘とも呼べる自身の後継者。
人を育てるのは、とても難しい。
出来るだけ影響の出ないように、出来るだけ自立できるように、一人の人間として生きられるように育てようと思っていた。魔祖十二使徒という枠組みなんて気にしないでほしかった。
あの戦争であんなにも人を殺したのに、今更育て上げることの難しさを痛感する。
振り切れない自分の甘さ。
そしてそれを受け取ってしまう子供の優しさ。
どうするのが正解なのか、なにが正解だったのか。
「…………ごめんな」
その呟きは、煙を振り払うように放たれた爆炎によって掻き消された。
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