第四十七話②
それを見て特に気負った様子もなくテリオスさんが入場する。
『驚いたよ。まだ始まってないのにそんなに浴びせられるとね』
なんて言う割には冷や汗一つ掻いてない。
『それだけ、僕との戦いを楽しみにしていてくれたのかな?』
『はい。私個人、というよりかは────責任と言った方が正しいですが』
『…………ああ、そういう事か』
一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに納得する。
責任、責任ね。魔祖十二使徒第三席の弟子としての責任を指すのなら俺も理解できる。前述したとおりエミーリアさんの後継者として名実ともに認められてはいるが、その実力で言えば未だに懐疑的な面もある。
ようは実績不足。
これから積み上げていく段階ではあるのだが、ルナさん自身が抱える問題があってそれを実行できていなかった。ゆえにそのことに対して自分なりに思う事があった────そういう話。
エミーリアさんは気にしてないと思うがな。
『僕の考えが正しいのなら光栄な事だ。
『…………輝かしくもなく、煌びやかでもなく、ただひたすらに
謳うようにルナさんが話す。
表情に現れない感情が籠った声が、静まり返った会場に響き渡る。
落ち着いた冷静な声とは裏腹にうねりを上げる魔力が、その感情の大きさを如実に表していた。
『そうやって始まった
『受け継いだ人間の覚悟、か』
…………ああ。
ルナさんが一番最初に俺に言った言葉の真意がようやく掴めた。
『英雄』と呼ばれる人間に興味が湧いたのは、自らと同じ立場の人間に出会えたから。その上で昔から話に聞いていた遺恨を残し続けた『英雄』の後継者だから、か。
『失礼な話だけど、羨ましいよ。見ての通り僕は受け継ぐことが出来なかったからね』
右手に光の剣を握って、テリオスさんは吐露する。
『それでもいいのかな、とは思うさ。僕の欲しい席に誰かが座っているのなら、空席ではないのなら。望んだ結果が訪れるのなら…………それでもいいかな、なんて』
『……貴方も大概ですね』
『そう言われると何も言い返せない。そんな僕だからいけないんだろうね』
ザリ、と靴が地面に擦れる音を立ててテリオスさんが体勢を整える。
『────でも。諦められないよな……』
非常に見覚えのある構え。
俺と同じ、そして、かつての英雄と同じ────霞構えで待ち構える。
『如何に愚かでも、実に醜悪でも、成し遂げたい夢がある。それを願うことは、
耳が痛い話だ。
俺はそんな大した奴じゃない。一から何かを築き上げ、自己を確立した人間と比べるな。
誰にも言えない秘密があるからここまでやってこれただけなんだ。かつての英雄の記憶があるから今この場にいられるだけ。
テリオスさんが座りたい席に俺が座っているのは、ただそれだけの理由。
「……過大評価もいいトコだ」
「…………ロア?」
「気にするな、独り言だ」
ステルラに聞かれてしまった。
まあいいか、俺が自嘲するのなんていつものことだし気にも留めないだろう。少しだけ不安そうな表情になってから、やがて視線を俺から外す。
『…………なんだ。似た者同士ですね、私達』
『……そうかな』
『ええ。どうしようもないくらい』
そう言いながら、ルナさんの身体から炎が漏れ出す。
徐々に徐々に、少しずつ背後へと収束していくのに比例して圧力が増していく。
『親不孝者同士、偉大なる目標のために────ぶつかり合いましょう』
『…………はは。確かにその通りだ』
ルナさんの言葉に懐疑的だったテリオスさんも、苦笑と共に納得を示す。
『僕はテリオス。偉大なる魔祖を親に持つ愚か者だ』
『私はルーナ。偉大なる
瞬間、爆炎が巻き上がる。
相対するテリオスさんの剣も輝きを増し、そこに籠められた魔力の高さは異常なほど。会場を包み込もうとしていた爆炎が圧縮に圧縮を重ねられ、ルナさんの手の中に収まる。
鮮烈な輝きを発しながら佇むその球体を、惜しげも無く解き放つ。
『────
『────
閃光と爆発が響き渡り、壮絶な戦いが幕をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます