第三十七話①

「今日も今日とてトーナメントか」

「ふふふ、ルーチェさんもステルラさんも居ない。ここは私の独壇場ですね」

「あっ、ルーナちゃん私の事無視してる~」

「新参者が、甘いんですよ。私はロアくん一筋一ヶ月ですからね」

「それ何か自慢になる……?」


 両隣を陣取る二人の女性の馴れ合いに耳を傾けながら、今日の予定を頭の中で確認する。


 一番最初はアルの兄でもある順位戦第二位、テオドール・A・グランとベルナールの試合。

 Bブロック(俺がいるのはAブロック)では一番の実力者だろう。ステルラは別枠な、アイツは戦闘中に進化するヴォルフガングと同じタイプの化け物。


「完成された魔法剣士か」


 皇子レグルス────軍部のエリートコースへ入ることが確定しており、後に国を背負うことになると期待を高められていることから付けられた二つ名。

 なんか昔の公爵家も戦闘能力高かったけど何考えてるんだろうな。偉い奴が弱いと駄目な法則でもあるのか? 


「むむっ。アイリスさん、この男私達のことを無視して別の男のことを考えています。許せませんよね」

「私はたまに構ってくれるだけでもいいし……」

「そんなばかな。独占欲が無さすぎませんか?」

「ええい喧しいな。昨日あれだけ構ったでしょうが」


 ルナさんが暴れまわっているがアイリスさんがうまいこと捌いている。


「もっと構ってください。じゃないとあることないこと言いふらします」

「ほう、いいだろう。好きに言うといい」


 俺は何も損をしないからな。

 噂のターゲットにされた奴には申し訳ないが犠牲になってもらうとしようか。噂というのは所詮噂で、真偽が定かではないから広まるものだ。


「じゃあロアくんに襲われたって」

「それはまずいだろうがこのボケナスが!」


 頬を思いっきり引っ張って黙らせる。

 いふぁ〜〜〜い、なんて涙目で言うあたり反省が見られない。この女随分と図太いな? 元々だな、健啖家だしデートに連れ出してくるし。


「なんだかんだ言って構ってあげるあたりが優しいよね」

「構わなきゃ社会的に俺が殺されるので」

「ふっふっふ、私がそのまま引き取ってあげますよ」


 それが狙いかよ……

 悪いが俺は誰にも縛られない自由な男だ。俺の人生は全て・・俺の意思によって決める。


「そんなことより目先の勝負だ。テオドールさんの詳細を知りたい」

「うーん、アルベルト君程は詳しくないけど」

「アイツは控え室にいるので代わりに解説してくれ。貴女しか頼れない」

「……………………そういうところだなぁ」


 なぜか両隣からべしべし叩かれてしまった。

 俺何かやっちゃいました? 人気者は辛いぜ、何を言っても偏向されてしまうからな。


「まあ、見ていればわかるでしょう。彼の戦闘方法はテリオスさんと瓜二つですが微妙に違います」

「あんな風にド派手な魔法使うんですか」

「いいえ。そもそも座する者ヴァーテクスになれる人の方が希少なので、テオドールさんはそこに該当しません」


 フゥン? 

 なんとなくわかるもんなのか、それ。


「なんとな〜くですが。でも正直バルトロメウス君が成れるとは思ってなかったのであまり信憑性はありませんね」

「あれはアイツがおかしいだけです」

「そう言って頂けると助かります。で、テオドールさんは純粋なまでに魔法剣士です。本当にそれだけで言い表せる強さです」


 技量が高く魔法も扱えて弱点がない。

 そう言うことか。逆にテオドールさんに勝つなら格上に変貌でもしなきゃ無理そうだな。


「フレデリックさん相手でも難なく勝利するでしょうね。相性とか関係なしに戦いの場に引き摺り込める強さを持っています」


 一位が座する者ヴァーテクス

 二位が完全無欠。

 三位が智謀とすら言われる魔法使い。


 出来過ぎてるぐらいにドラマチックだな。


「……それ、ベルナールに勝つ手段あります?」

「多分無いですね」


 無慈悲すぎる。

 まあルーチェ相手に舐めプかましてボコられるような奴だ。格上相手に全力を出してなんとかやりくりできる実力ならばそもそも負けはしないだろう。


「ていうか呼び捨てなんですか?」

「ええ、まあ。なんとなくですけど」

「……もう一回私のこと呼び捨てしてくれませんか?」

「いやです」

「なーんーでー!」


 ええいやかましい! 

 ポカポカ頭を叩くな。俺の方が身長高いんだぞ。

 あれ、でも座ると身長差が少し縮まるって事は……ルナさん足短いんだな。


「なんか失礼なこと考えてませんか?」

「鋭いですね。ルナさんの幼児体型はなぜ生まれたのかと思考の渦にハマっていました」

「…………すぞ」


 ガチの殺気が飛んできたのでアイリスさんに視線を向けて助けを求めた。

 逸らされた。


「まあ俺はスタイルもいい顔もいい性格もヨシの超人なので、そんな俺に惹かれてしまうのもわからなくは無い」

「急にイキリ始めましたね。そうやって調子に乗っていつもボコられてるのにやめないのはすごいと思います」

「本当のことを言うのに罪はないですから。時に正論は暴力になりますが、俺の正論は神の一声に近い。あ〜あ、我ながら完璧人間すぎて驚いちゃうぜ」

「ヘタレ」


 誰がヘタレだこの野郎!! 


「いい加減ステルラさんに好意をぶつけたらどうですか? このヘタレ、腰抜け、意気地なし」

「は? 別に好きとかそう言うのじゃないんでやめてもらえますか。そういう根拠の存在しない個人の妄想による謎推理は駄目なんですよ。もっと論理的理論的に確かな証明ができるなら話は別ですが」

「ふ〜〜〜〜〜〜ん?」


 まずい流れになってきた。

 このままでは俺が負けてしまう。アイリスさんはニヤニヤして俺のことを見ているし周囲に味方はいない。それどころか女を侍らすハーレム野郎という噂が広まっている所為で敵意しか向けられてなくないか。

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