第十二話③
翌日、教室にて。
「おっ、来たね色男」
「ぶっ飛ばすぞ」
茶化してきたアルに返答しつつ教室に入る。
「お姫様の調子はどうだった?」
「まあまあだろ。少しは元気になったと思うが」
「泣いてる女の子は放っておけないか、流石だね」
「そんな高尚なモンじゃない。単に友人として付き合いを続けたいから話を聞いただけだ」
まあ俺は紳士だからな。
他人を気遣える上にむやみやたらと刺激する事はないのだ。多分、きっと。
……刺激しまくってたのは俺達なんだが。
「揃いも揃って強い癖に問題抱えすぎなんだ。
俺みたいな誰かを頼らないと生きて行けない人間と違うんだ、もう少し俺を怠けさせて欲しい」
「でも友人が困ってたら手を差し伸べるんだろ」
「そりゃあ友達だからな」
「……君、そういう所だよ」
やれやれじゃないが。
肩を竦めるアルに腹が立ったが、俺はすぐに暴力を振るう連中とは違うからな。紫電で毎日ズタボロにされ続けた俺にとってはこの程度子守歌と同じだ。
いや、待てよ。
俺が寛大すぎるのが駄目なんじゃないか。ラインを越えればそりゃあ怒るが、そうでない限り許している俺の心が皆を増長させているのではないか。
なんて……ことだ。
やさしさという概念を勘違いしていた。
俺は絶対にしてはいけない間違いを犯していたのだ。
「俺は今この瞬間から心を鬼にする。手始めに“英雄”なんて呼び方をしてきた魔祖を手に掛ける事を定めた」
「それは新しい女性を狙うって宣言?」
「バカが表出ろ」
完全にキレた。
俺の寛大な心が縮小して胃袋程度の大きさに変化する前であってもぶっ飛ばすラインの発言だ。
青春らしく泥臭い殴り合いをしようじゃないか。魔法使用のない生身でのぶつかり合いなら大体負けない、格闘技とか習ってる連中を除き。
「邪魔よ、どいて」
「ちょうどいい所に来た。ルーチェ、俺と一緒にこの愚か者に天誅を下そうじゃないか」
「いやよ面倒くさい。そんな事よりこれに名前書いてくれるかしら」
「婚姻届けか? 気が早すぎるんじゃないだろうか」
机の感触は中々に悪くない。
大地のゴツゴツ感、虫が身体を這いずる感覚とかに比べれば俺はここが寝室と言われても疑えない程度には。
なお、高速でぶつかったことによる顔面の痛みは考慮しない事とする。
「な…………んだ、その紙は」
「良いから書きなさい。怪しいモノじゃないから」
「それは怪しい詐欺の謳い文句だ」
仕方ないから紙を受け取って内容に目を通す。
順位戦申請用紙、ね。両名の署名を書いて教師に渡し不備が無ければ受理され、空いていれば都合のつく時間で戦えるのか。こういう手間が必要なのに捻じ込んだあの妖怪共には呆れざるを得ない。
「なんで俺の名前を?」
「そんなの一つしかないでしょ。私とアンタが
…………ん?
「すまん、もう一回頼む」
「私、ルーチェ・エンハンブレはロア・メグナカルトに順位戦を申し込みます。正々堂々一対一で、胸を借りるつもりで挑戦するわ」
引き攣った笑みとともにルーチェの顔を見てみれば、それはもう楽しそうな顔をしていた。
おま、おまえ…………確かにな。いや、うん。言われて見れば合理的ではある。
俺も魔祖十二使徒の弟子だし、先日力を見せつけたし、英雄なんて呼ばれ方をしてる。
ソイツに勝てば証明できるだろうな、そりゃあな。
「チャンスを掴まない理由があるかしら」
あぁ~~~~~、もお~~~~。
俺はただ友人の人生相談に乗っただけだ。それもちょっとしたアドバイスを出しただけで、俺は戦いたいなんて一言も言ってない。寧ろ戦うのが嫌いまである。
「私を信じているんでしょ?」
昨日の発言を撤回させていただきたい。
う、オ、アァ……ッ!
「あーあ、修羅場ってヤツ?」
「うるさいだまれ、俺は今過去の負債を帳消しにする方法を脳内で検索している」
「いいから書きなさいよ! あれだけの事をしといて無かったは許さないわ」
ルーチェさん。
あなたの発言で俺のヒエラルキーは急降下しています。
昨日、俺がお前を連れ出してサボった。家にまで乗り込んだ。これは揺らがない事実であり、俺が君に何かしたという事を一切否定できないのだ。
「
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