幕間①
理不尽な順位戦を終えて、休日。
完全な休日を手に入れたのは随分と久しぶりだ。何年間も一人の時間を得る事がなかったので、俺の自堕落精神はうずうずしている。
具体的に言えば、朝起きてゆっくりと飯を作って適当に流し込み、着替えるのも面倒くさいので寝巻のまま本を手に持ってベッドに倒れこむ。硬くてベコベコのカスみたいな木の板が布団ではない、最高の環境だ。
これほど自堕落に過ごせる環境を手に入れられるとは思っていなかった。師匠の事を散々言ってきたが、やはりあの人は俺の事をよく理解してくれている。だってこの家用意してくれたの師匠だし、俺は何でもいいと答えたのにこれだけまったり出来る部屋を選んでくれたのはもう愛されてるだろ。
昨日の嫌な記憶に蓋をしてから、寝っ転がったまま本を開く。
そうしていい気分に浸った瞬間、ドアの呼び鈴が鳴らされた。
おいおい今日は休日だ。世間一般(暫く山の中に籠っていたが)では七日の内一日は完全休日を取る様になってるんだ。どんな用事を持ち合わせた人間が来た所で動く気はない。なぜなら、俺がここに棲んでいるのを知ってるのは師匠だけな上に師匠も鍵は持ってない。
つまり居留守を使用できるという訳だ。
良心も痛まないしな。
『────ロアーッ! 遊びに行こー!』
うそだろ……
俺の平穏な一日が一瞬にして暗雲に包まれた。
なぜステルラが来る。それは師匠が教えたからだ。
だがここで居留守を使わない選択肢は無い。
なぜなら、俺は休みたいからだ。
悪いなステルラ。
俺の初勝利、そしてお前の敗北をこんな形で刻んでしまって。
自身の才覚が恐ろしいぜ。全く持ち合わせてないけど。
鼻歌を歌いながらのんびり放置していると、二分程度で音が聞こえなくなった。あ~あ、勝っちまったな。一度勝利してしまえば呆気ないものだ。俺は十数年に渡る確執に今終止符を打ったのだと実感すると同時に、途方もない虚無感が湧いて来た。
溜息と共に立ち上がって寝室から移動し、台所でお茶を淹れる。
魔法を使うよりいっそ楽なインフラの整っている首都は一度住んでしまうと戻れそうにない。あの村で生きて行くには俺はセンスが無さ過ぎるのだろうか。
「ロア、私の分も貰っていいかな?」
「はいはい、わかりました」
もう一杯分用意するのは面倒だが、たまにはいいだろう。
今日は気分がいいからな。
お茶の香りが心地いい。
クソも味の染み出してこない雑草ティーは死ぬほど飲んだが、やはり正規品は違う。専門の力を持つ人間は偉大だな。
「どうぞ師匠」
「ん、ありがとう」
一口含んでから、味わいを楽しむこと無く流し込む。
強烈な熱が喉を焼いたが気にしない事にした。
「ふ~~~~~……この紫電気ババア。何勝手に入って来てんだ」
「ワッハッハ、八年間も一緒に暮らしておいて何を言っている。今更何を気にするんだい?」
ロア・メグナカルトは激怒した。
必ずかの邪知暴虐なる老人に辛酸を舐めさせると決意した。
エイリアスは常識がわからぬ。エイリアスは一介の魔法使いでありながら不老の身体を持つ超越者で、その実力は圧倒的に格上だった。
ロアは魔法が使えない。
しかし、敗北の屈辱には人一倍敏感だった。
「今日と言う今日は許さない。青少年にアンタの身体がどれくらい毒になるか教えてやる」
「正面切って褒められると照れるね」
「調子に乗るなよ百年間彼氏いない癖に」
妖怪電気ババアを許した辺り自分が悪いと言う自覚はあるのだろうが、気軽に超えてはいけないラインを越えると自動反撃してくるらしい。
少しでも罪の意識があるのなら俺はそれでいい、先程までの誓いとは違い改めてそう思わされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます