EP1 back : ようこそ地獄へ

 ここ最近、拠点として使っている廃ビルで休んでいると、突如として空間が光りいつの間にやら見知らぬ少女が倒れていた。

 まさかこの世界に来る瞬間を目にするとは思わなかったのでちょっと驚いてしまった。

 どうしようかと思案していると、その少女はおもむろに起き上がった。ひとまず声をかけてみようかな。


「目ぇ覚めた?」


 当の少女は赤く大きな目ぱちくりさせ、長く白い髪をなびかせながら首を傾げた。かわいい。

 私が見えてない……ってことはないと思うけど、念のため指を見せて確認しておこう。


「これ、何本に見える?」


「3本……です」


 私と少女の間には少し距離があるけど、ちゃんと視認できたみたい。視力に問題はなさそうかな。

 私の質問に答えると、少女は周りをキョロキョロと見渡し始めた。

 自分が今どこにいるかを把握したのか、少女はしきりに首をひねってどういうことかと考えている様子だ。

 このままだと事態が進展しなさそうだったので、こっちから声をかけてみる。


「わからない事があったら聞いてよ。多分答えられるし」


 しかし少女はこちらに困惑した表情を向けて固まってしまった。

 多分わからないことが多すぎて何から聞けばいいかわからないって感じかな。


「ま、やっぱそうなるよね。私も最初は混乱しっぱなしだった」


「……ここにきて、長いんですか?」


「そう、結構長い事ここにいる。けど初めの方はさ、いきなりよくわかんない場所に居るし、過去のことは思い出せないし、これからどうしたらいいかもわかんないって状態だった。わかんないこと尽くしだよ」


 少女と昔の私が重なる。わけもわからずこの世界に放りだされ、あてもなくさまよい、よくわからないまま襲われる……。

 よく生きてんなぁ私。


「でも、そうなったのはアンタと私だけじゃない。ここには大勢の女の子がいて、みんな過去の記憶を取り戻すために戦ってる」


「……それは、ここに来た女の子同士で戦ってるってことですか……?」


 まさか、という風に少女が聞いてくる。その気持ちは痛いほどわかる。


「察しがいいね、まさにその通り。ここに来た私たちはずっと殺し合ってる。与えられた勝利条件は1000人殺すこと。手段は問わない、あらゆる手を尽くして敵を討てばいい。それがこの世界のルール。その条件をクリアすれば、過去の記憶を取り戻してこの世界から開放される……らしい」


 敵がエイリアンだとかモンスターだとかの化け物ならまだ戦える、人間じゃないから。けど相手が人間で、しかも自分と同じぐらいの女の子となれば話は全く違う。自分に今までの記憶が一切なくても、人を殺すという行為を躊躇なくこなせるわけはない。

 でもやるしかない。自分自身を取り戻すには、このルールに則って殺し合う以外に道はない。

 まさに地獄だ。


「らしい……ですか?」


 私の曖昧な言葉に疑問を持ったのだろう。少女が問いかけてくる。


「証人がいないんだよね。いつの間にかこの世界からいなくなってても、それが人に倒された結果か条件達成によるものかわかんないし。ぶっちゃけ1000人とか数えてられない」


 そう、ただでさえ地獄だというのに、この世界を形作っている大前提のルールでさえ本当かどうかわからない。けど、戦うしかない。私は私を知りたいから。でも、この世界に居る子たちは全員が全員そう思ってるわけじゃない。


「別に戦うことだけが道じゃないけどね、この世界で生きがいを見つけて生きてる子も居るし」


 この世界で運命的な出会いをして、二人でずっとここで生きていくって子たちもいたし、本当かどうかもわからないルールに従って殺し合うなんてバカらしいと、戦わずに自給自足を楽しみながら生きている子もいた。


「逆にここのルールを知った途端に絶望して自ら死を選ぶ子もいる」


 精神の弱い子なんかは、この先ずっと信じられるかわからないルールに縋って果てしない戦いの日々を過ごすより、死んだほうがマシだって自害することもある。


「で、アンタはどうすんの?」


 逆に問いかける。説明は大体できた。この世界は控えめに言って地獄だ。こんな世界を創ったヤツは悪趣味極まりないヤツだ。そんな世界で私は戦ってる。

 さぁ、この子はどんな選択をするのかな。


「戦います」


 私の問いかけから一呼吸おいて、少女は力強く答えた。

 その顔には今まで浮かんでいた困惑や戸惑いの表情はなく、戦うという強い意志を感じられた。


 ……正直、驚いた。ここにきて間もない……というか、さっき目覚めたばかりなのに、これだけハッキリと戦う意思を示すなんて。

 大体はすぐには決められないって答えを保留するか、そんなのわからないとヒステリックになるかの2択だし。

 私だって戦うという意思を固められたのはずいぶん後だった。

 あの一呼吸の間、少女はいったいどんなことを考えてたのかな。


 彼女の眼からは、この世界で戦い抜くという覚悟が見て取れた。


「じゃ、まずはここがどんな世界で、どんな手段で戦ってるかを理解することから始めようか」


 立ち上がって、少女に手を差し伸べた。

 確信めいたことを感じる。この子なら絶対勝利できる。それどころか、この世界そのものをぶっ壊してくれるんじゃないかって。

 私はこの子の活躍を特等席で見させてもらおう。


「よろしくお願いします、師匠」


 私の手を取って立ち上がると、少女は私のことを師匠なんて呼んだ。

 お姉さまだとか先輩だとかは呼ばれたことがあるけど、まさか師匠なんて呼ばれるとはね。思わず驚いちゃった。


 まったく、これから面白いことになりそうだ。

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気づいたらTS転生~急募:バトロワで生き残る方法~ 柿奈グリ @Kakina_Guri

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