部品集め編③ 唇の魔法使いとスノーウィ

 さて、サニーでの絶対に動かない岩の説得は、ようやく進展したようだ。お手柄だったのは、唇の魔法使いだ。

 私にはその原理が分からないのだが、彼女は、自身にも唇を作成し、「唇のテクニック」で岩を説得させたらしい。そのテクニックについて詳細は書かれていなかったが、とにかくそれによって、今まで一歩も引く様子の無かった岩が、少し交渉に応じるようになったそうだ。そこを修理師たちが畳みかけ、結果、座標の魔法使いが魔法の使い方を岩に教え、岩自身が自由に動ける状態を作る、ということで話しが着地したらしい。つまり、意思疎通ができ、自身で動くことができる母の部品が誕生したことになる。


 サニーでの長期滞在も終了し、修理師たちがクラウディーに帰還すると聞き、先日、野次馬になりに国境へ行ってきた。チャイルドの帰りを待ちわびたリンクが、チャイルドに飛び込む姿も見た。また一段と背丈が大きくなっていたが、まだまだ甘え足りないようだ。


 驚いたのだが、先日、書類の用があって行政窓口へ行った際、窓口で働くリンクを見かけた。チャイルドら不在の際は、行政窓口職員に世話になっているようだ。

 そんなリンクの大切な親である修理師のチャイルドは、どうもサニーでの疲れを癒す間もなく、すぐさま次の部品である絶対に溶けない氷を探しに、スノーウィへ向かったようだ。ようだ、と確信がないのは、先日唇の魔法使いが、命が無いはずの岩に意思を持たせ、世間の「命ある生物は全て母から生まれる」という認識に淀みを生んだことがラブ-2教の反感を買い、ラブ-2教信者に襲撃されるという事件が発生したからだ。この件により、修理師の動向に関する報道に規制がかかり、修理師たちを追いかける者も減り、情報が極端に入らなくなってしまった。これからは、だいぶ私の推測と想像による話しになってくる。


 さて、現在は亡くなっているが、スノーウィには昔、「氷の魔法使い」という有名な職人が居た。彼は絶対に溶けない氷を作れる可能性があった職人だった。このことから私は、スノーウィでの部品探しについては、唯一その技術を継承した氷の魔法使いの子が協力してくれると想像していた。しかし、彼の残した2人の子は、何故か修理師たちを敵視しているという。一体なぜだろうか…。


 先日の噂を聞いてふと思ったのだが、氷の魔法使いは誰かと婚姻関係にあったのだろうか。一人の親につき育てられる子の数は一人、という決まりは世界共通だ。彼に「2人の子」がいるのはおかしい。スノーウィに婚姻制度が出来たという話しは聞いたことがないが、確認してみよう。


 やはりスノーウィに婚姻制度が新設された記録は無かった。それならば、氷の魔法使いが2人の子を持つ理由として可能性があるのは、他の生物から無理やり子を奪うという犯罪を犯したパターン、とある生物が死亡し、育てていた子を引き取ったパターン、とある生物が子を捨てたパターンなどがあると思われる。しかし、犯罪行為は確実に裁かれるし、親が死亡した際の子の回収については行政窓口が対応しているし、子を捨てた親の事例は今までサニーでの1件のみ。どれも可能性としては低そうだ。ならば、一体どうして氷の魔法使いには2人も子がいるのだろうか。

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母の修理師 ウビーニ @ubi_2

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