部品集め編② 婚姻制度と英雄「オクト」
やはり修理師たちであっても、絶対に動かない岩が持つ問題をすぐさま解決することは出来なかったようだ。しかし、修理師たちが次に試した方法というのが、なんと岩との意思疎通だったのだ。
「どうしてお前は決して動かないのだ?」と、直接本人に聞く。なるほど、柔軟な発想だ。先日私は、サニーには多くの国民がいる、という話をしたが、その分個性的で面白い魔法使いも多く存在している。この問題の解決においては、修理師たちに目を付けられた、そんな「唇の魔法使い」という魔法使いが活躍した。発声器官である「唇」を強制的に発生させるという奇妙な性質の魔法使いである。
結論から言うと、この魔法使いを採用する案は成功した。唇を与えられた岩は、戸惑いながらも、少しずつ自身のことを話すようになった。しかし、岩は自身を動かす方法は喋らず、「座標の魔法使いと自分を婚姻させることができれば、言うことを聞く」という旨の交換条件を示したらしい。サニーは確かに婚姻制度が存在する唯一の国だが、あれは母から生まれた命ある生物を対象にした話であって、岩のような命のないものはもちろん対象に含まれていない。
岩と、生命・意思の存在、法律の適用範囲について世間が混乱し始めたところで、修理師たちは座標の魔法使いとの接触に成功し、岩からの要求への対応を模索し始めた。座標の魔法使いはその昔、移動することができないはずの岩を魔法で瞬間的に移動させたことがあり、岩はその体験から彼女に想いを寄せていたようだ。
座標の魔法使いは修理師たちに対し協力的ではあったが、既に別の生物と婚姻関係にあるため岩の要望は断っており、一方で岩も引く様子が無かった。
さて、サニーでの押し合いは続いているようで、今日の知らせでも状況はほとんど変わっていなかった。しかし、その他の知らせで、気になるものを見た。
その昔、細胞種と金属種が争っている時代があった、という話しは知っているだろう。その争いのピリオドには、「オクトの思想選民事件」という事件が存在する。
全ての命は、死後、母に返還されるが、あの夜、母に返還されたのは、総勢100名を超す、細胞種と金属種に分かれて争っていた団体の団員たちだった。
一夜にして「オクト」という当時少年だった一人の細胞種が、種族を理由に争う思想の者たちを仲間と共に葬ったこの事件は、「大人に失望した子どもが犯した事件」として、大人たちの意識を改革する基点にもなった。
さて、当時少年だったオクトは、捕まった後スノーウィの刑務所へ入れられた、と言われていたのだが、先日私が聞いたのは、どうもその刑務所にいる者はオクトを庇い、代わりに刑務所に入っている協力者なのではないか、という噂だ。
どうして今更そんな噂が立っているのか調べた。一番納得したのは、とある青年が出入国管理者を眠らせて、不正にレイニーからスノーウィに入国したという事件に関する推察だ。
オクトは「眠りの魔法使い」だ。あの事件の日も、争う二つの団体を眠らせ、その間に仲間と共に母の内部へ移動させたとみられている。今回のスノーウィの事件と、手口が似ているだろう。
この事件を受け、各国の出入国管理局は忙しくなっているようだ。修理師たちの仕事に影響がなければ良いが。
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