第20話 勝利を祝う星空

「うぅ…グスッ、お姉ちゃん…!」

「うん、お姉ちゃんはここにちゃんと居るよ…!今は好きに泣いていいんだよ…!」

「グスッ…うわああああああああああん…!」

「…良かったなミレア」

「うぅ…グスッ、えぇ…!本当に…ありがとう…」

「み、ミレアちゃん…良かったよぉ…」

ワオーン!

最初はショコラが泣いていただけだったが、ミレアも我慢できずに今は涙を流していた。そして二人を見ていたミサキも少し泣きそうになっていた。

「ところで…、ミサキちゃんの方はどうだったの?皆は見つかった?」

「それが…、居なかったの…。他の地下牢を見に行ったら捕まっている人が居たけどその中にお父さんもお母さんもルーナも…誰も居なかったの…」

「何ですって!?」

「お姉ちゃん…?」

「ま、まさか…、い、いえでももしかしたら屋敷のどこかに居る可能性はまだ…」

「…もうここにはいない」

「…!誰だ!」

「え?」

ムスビは上を見てそう言っていた。ムスビに続いて他の三人も同じように上を見た。そうしたら…

「あれは…?」

ワンッ?

そこには誰かがいた。その者はムスビ達を見下ろしていた。

「だ、誰なのあの人…?ミレアちゃん達分かる?」

「い、いえ…知らないわ」

「あの人も仮面をつけてるけど、お兄ちゃんの知り合い?」

その者は仮面をつけていた。ムスビと同じように。

「…いや知らない」

「…そこの少女の両親と妹は既にある人物に売られている。もうここにはいない」

「そ、そんな…」

「誰なの!?ミサキちゃんの家族は一体誰に売られたっていうの!?」

「…そこの仮面をつけた少年が戦った男だ。そのブレスレットを手に入れた大会に出場していたマジシャンの男がな」

「な、何ですって!?」

「…あいつが?」

「そ、そんな…。あの強い人が…」

「…何者だお前は?何故そんなことを知っている?何故それを俺達に教える?」

「…これ以上は教えない」

「ちょ、ちょっと待って!そのマジシャンは今どこに…」

だがミレアの言葉は聞き入れられず、仮面をつけた者はその場から消えてしまった。

「き、消えちゃった…」

「な、何てことなの…!こんなことになるなんて…!」

「お姉ちゃん一体どういうことなの…?」

「後で説明するわショコラ…。今は取り合えずここから離れましょう」

「…ミレア。その子を連れて本館の地下室に向かえ…。そこに多分お前の家から盗られた物がいくつかあるはずだ。出来るだけ早く見つけてきてくれ」

「え?でもそんな時間ないんじゃ…」

「…いいから。今がラストチャンスかもしれないんだぞ?取り返してこい。あと、魔導具を俺によこしてくれ」

「………分かったわ。出来る限り取り戻すわ!行きましょショコラ!」

「う、うん!」

「…ミサキ。手筈通り警察の奴らはこの屋敷に向かっているな?」

「うん!多分もう少しで屋敷につく頃だよ」

「…なら良い。警察が居るなら多分、ゴミ山の処理とさっき助けた捕まってた奴らの保護で人員が足りないはずだ。ミレア達と一緒に行って、適当なタイミングで逃げてくれ。最悪爆薬もあるからそれで逃げ道を確保してな」

「ムスビちゃんは…?」

「俺はまだそこで寝ているグリドに用がある。それが終わったら王国の外に待たせてる馬達のところで待ち合わせだ」

「そ、そんな…、一緒に行こうよ…。もし何かあったら…」

「…これが割と重要だ。グリドへのとどめにな。ミサキ、必ず戻ってくるから心配するな」

「………分かったよムスビちゃん。信じてるからね…」

そして地下室に残ったのはムスビとグリドだけとなった。


そして気絶していたグリドが起きると…

「……ん?な、何だこれは!?なんで俺が縛られて…」

「…暴れられても嫌だからな。それよりも聞きたいことがある」

「き、貴様!自分がしていることが分かっているのか!この俺を!セブンス家を敵に回すことがどういうことか…!」

「…おいおい。他の殆どの兄弟はお前のくだらん商売に付き合ってないだろ。こんなことに付き合うメリット他の兄弟からしたらまるでないだろうしな」

「な、なんだと!お前らバカが分かっていないだけだろ!?グラットはバカだが俺の商売が分かるだけましだ!だがお前やブライト兄さん達みたいなそれすら分からないバカ共が…!」

「…お前、奴隷売買の件。こんなことになったんのに反省してないのか?」

「反省?反省だと…?ふざけるな!俺には許されるんだよ!人の命を売ろうと買おうと!俺達には許されるんだよ!」

「…許される?」

「そうだ!庶民とは違うんだ!上だ!圧倒的に!俺達は天なんだよ!天に逆らうな底辺が!」

「…そうか、もう用済みだ」

『ドスッ!』

「あがっ…!?」

そしてグリドは気絶した。


そして再びグリドの目が覚めると…

「おい!こっちに地下室があるぞ!」

「……ん?はっ!あの小僧めよくもこの俺を!」

「誰かの声が…!?大丈夫ですか!」

「おお警察騎士団か!よく来てくれた!縛られていて動けないんだ!早く俺を助けてくれ!」

「あ、あなたはセブンス・グリド殿ですね!何があったんです!?屋敷がゴミで埋もれて王国支部の騎士達もそこらで倒れていて…」

「は、話は後でする!今はそれよりも早く縄を解いて…」

「残念ながらそれは出来ません」

「あ?なっ!お前は…!?」

グリドと警察本部の騎士が話しているところで、ある人物が地下室に入りグリドの拘束を解くのを止めた。

「ミ、ミカヅキ騎士団長!そ、それは一体どういう…」

「君が屋敷の本館に救出作業へ向かった後、別館から外に避難してきた人達が居たんだ。もっともその人達はこの屋敷の従業員でも外に居た王国支部の騎士とかでもなく出てきたのはグリド殿に奴隷として売られるために閉じ込められていたって証言していてね。グリド殿…、お話を詳しくお聞かせ頂きたいのでご同行願いましょうか?」

「ふ、ふざけるな!俺が逮捕だと!?」

「グリド殿暴れないでください」

「噓だ!そんな外に居る奴らの言ってることなんて全部嘘だ!でまかせで俺を陥れようとしているだけだ!」

「それはこれから調べていけば分かることです。さあその男を連行するぞ」

「は!承知いたしました!」

「ふ、ふざけ…」

『き、貴様!自分がしていることが分かっているのか!この俺を!セブンス家を敵に回すことがどういうことか…!』

『…おいおい。他の殆どの兄弟はお前のくだらん商売に付き合ってないだろ。こんなことに付き合うメリット他の兄弟からしたらまるでないだろうしな』

『な、なんだと!お前らバカが分かっていないだけだろ!?グラットはバカだが俺の商売が分かるだけましだ!だがお前やブライト兄さん達みたいなそれすら分からないバカ共が…!』

『…お前、奴隷売買の件。こんなことになったんのに反省してないのか?』

『反省?反省だと…?ふざけるな!俺には許されるんだよ!人の命を売ろうと買おうと!俺達には許されるんだよ!』

『…許される?』

『そうだ!庶民とは違うんだ!上だ!圧倒的に!俺達は天なんだよ!天に逆らうな底辺が!』

(さ、さっきのガキとの会話が何で!?)

「町の緊急放送から流れているようだな…」

「ミカヅキ団長!この会話グリド殿の声が…!」

「残念ながら町中に流れているみたいですので、言い逃れは無理そうですね」

「そ、そんな…!何故こんな!?」

(それにしても…、このグリドと会話している者の声…。あの時に会った少年の声に似ている…。もしあの少年だったらまだ近くに居るのか?)

そして、グリド達は警察騎士団に逮捕された。

大商人グリドとその護衛グラットの二人、その二人は栄光ある名門セブンス家に泥を塗る最悪の者達としてクリーム・パンケーキ王国の負の歴史に名を刻まれることとなった…


一方そのグリドを打ち倒した者達は…

「…ただいま」

ミレア・ミサキ「ムスビ(ちゃん)!」

「よ、良かった無事に帰ってきてくれて…」

「ホッとしたわ…。それにしても放送局に乗り込んで魔導具でグリドの声を流すなんてね…。あれじゃグリドも奴隷売買を隠ぺいは出来ないわね」

「きっと聞いてた町の中の人達は大騒ぎだよ」

「…まあ、これぐらいはしないとな」

「それに見てちょうだい!こんなに持ってこれたわ!」

ミレアはグリドの屋敷からいくつかの自分達の物を取り返して持ってきていた。

「…おおこんなに、高そうな物がいくつもあるな」

「ええ、ミサキちゃんやこの子も頑張ってくれたのよ?」

「…そうか」

「あ、あの…」

「…ん?どうした?えっと、ショコラちゃん」

「ご、ごめんなさい。私がお兄ちゃんの顔を燃やして火傷させちゃって…」

「…ん?ああ、これ?これは別に昔からあるものだから気にしなくていいよ」

「え…?そ、そうなんだ………。で、でも痛かっただろうし…、私が顔隠してるそれ壊しちゃったから…」

「…ん?いや、隠してるって言うよりこの仮面はただの趣味というか好みなだけだ」

「え…?」

「しゅ、趣味?好み…?それだけで…?」

「…だって人に素顔見られながら話すの恥ずかしいし」

「あ、あなたそんな理由でずっとつけてたの…?」

「…そんなとはなんだ、こっちは大真面目につけてるんだぞ」

「………あの、ミサキちゃんは知ってたの?なんでずっとムスビが仮面つけてたのか…」

「え?うん、知ってたよ。ムスビちゃんってば昔っから恥ずかしがり屋さんだから、私にも全然素顔見せてくれないんだよ」

(えぇ……、私ずっと何か深いわけあってその仮面してたと思ってたからあえて何も言ってこなかったのに………。いや、深そうな理由は普通にありそうだけど…。でも全然そのことを気にしている感じもしないし…)

ミレアは言葉を一瞬失っていた。

「…別に見せなくてもいいだろ。あとミサキ…、今更になるがちゃんをつけるのは止めてくれ…」

「え、えっと…」

「…まっ、そういうわけだから気にするな。今回は俺でラッキーだったってことで」

「で、でも…」

「ショコラ…、まあ色々あると思うけどこの人の場合はこれ以上気にしないでおいた方が喜ぶわよ」

「そうだよ、ムスビちゃんはこっちが大丈夫って言わないと誰よりも気にしちゃう感じの人なんだから」

「…いやそういうわけでも」

「あっ、でもまだ言わなきゃならないことがあったわね」

「…?」

「ムスビ…。あなたのおかげでこうしてショコラと一緒に居られるわ…。本当にありがとう!」

「うん、私からも言うね!ありがとう!」

「…どういたしまして」

「えへへ、二人共助かって良かったなぁ。せめてミレアちゃん達の方だけでも良い結果になってくれて…」

「…安心しろ」

「え?」

「お前の家族は俺が助ける。何年かかるか分からないが、生きているなら必ずお前のとこに連れて帰る。約束する」

「う、うん…、でもムスビちゃんも無茶しちゃダメなんだよ?」

「…まあ、出来るだけそうする」

「………絶対そうしないよねムスビちゃん?」

「…」

「お姉さんも大切な人がどこかに連れ去られてるの?」

「うん…、お父さんにお母さん、そして妹のルーナ。どこに居るかは分かんないけど…」

「じゃあ、私達がその人達助けるの手伝うよ!私達に出来るお礼なんてそれくらいしかないし…、ねっ、お姉ちゃん!!」

「勿論そのつもりよ、私達ばかり助けて貰ってるのにここではいサヨナラなんてする訳ないでしょ?」

「…その前にお前ら二人は新しく住む場所を見つけろ。助けるにしてもお互いに色々落ち着いてからだ」

「あれ?ミレアちゃん達と別れるの?」

「…ああ、俺はこれからある町を目指す。そこにちょっと稽古をつけてくれる宛があるんだ。ミサキの家族を助けるのはそこで強くなってからにしたい」

「そう言うことなら…。私達がついて行くとあなた達に面倒かけちゃいそうね」

「…すまない、旅と違ってそこに居る人達にそこまでお世話になるっていうのもちょっとな」

「大丈夫よ。強くして貰うことに加えて吸血鬼を匿いながら生活なんていう厄介ごとを引き受けろなんて図々しいこと頼むつもりないし」

「じゃあ、もう少ししたらお別れなんだね…」

「そうなっちゃうわね。寂しさはあるけれどまた再会するまでの辛抱よ。ショコラ、そう言うわけでしばらくはお姉ちゃんと二人で生活になるけど大丈夫?」

「大丈夫だよお姉ちゃん!二人なら怖くないんだから!」

「…これを持っていけ」

「これは…」

ムスビが差し出したのは以前ミレアに見せた魔導書であった。

「…この本はお前に渡す。お前達なら有効に使えるはずだ」

「分かったわ…、次会う時にはグリドなんかよりもヤバイ奴ら相手にしたって平気なくらい強くなってみせるわ!それで今度はミサキちゃんの家族を…!」

「…ああ、その時はよろしく頼むよ。あのマジシャンにはお前達の力が必要になる」

「任せてよ!」

「ええ!やってやるわよ!」

「…一旦ここを離れよう。そしたら皆一緒にご飯を食べよう」

ワンッ!

「ご飯!嬉しいなぁ!私お腹ペコペコだよ」

「ムスビ、疲れてるでしょ?出来るだけ手伝うわよ」

「わーい!楽しみ!(………手伝うって、お姉ちゃんは作らないよね?)」

そして四人は森を進み王国を離れた。そして野原に出て四人で食卓を囲んだ。

綺麗な星空の下で一緒に今回の勝利を喜び合っていた。


そして食事が終わりしばらくして…

「ショコラったらもう眠っちゃった」

「…ミサキも眠ってしまったな」

「さっきまであんなに騒がしかったのに…。逆に今は大分物静かね………、でも星が綺麗ね…あんなに星が沢山…」

「…そうだな」

さっきは皆で、今二人で見てる星空。今回の勝利を天が祝ってくれているのだろう。そう思わせてくれる程、今二人が見ている光景は美しかった。

「ねえムスビ、一つ聞いて良い?」

「…なんだ?」

「何で貴方は私達を助けてくれたの?」

「…?」

「私達なんて放っておいた方がずっと楽だったのに」

「…」

「ごめんなさい、変なこと聞いちゃったわね」

「…………。まあ強いて理由を言うなら、…俺の夢のため…かな。それにはお前に笑っていてほしかった」

「笑って…?」

「…お前に初めて会った時、お前はうなされてた。ずっと妹の名前を呼んで…、謝ってた…、そして…泣いていた…」

「…!」

「…それを見たら俺はお前を、お前達を放っておけなかった。お前をこのまま行かせてしまったらきっと良くない…そう思った…」

「………ふふ、そういう感じが貴方っぽい理由かしら。ホントに…変な人…そして…優しい人…」

ミレアは少し笑いながらそう言っていた。

「…優しいっていうのはお前の勘違いだ」

「フフッ、そんなこと無いわよ。それにそれを言うなら私だって…。一度はこの子だって…」

ミレアは疲れて寝ているショコラを撫でながらそう言っていた。

「…でも、助けに戻ってきた」

「ムスビ…」

「…俺はお前が今までどんなことがあって俺達と出会ったのか詳しくは知らない。だが、ミレア。お前が勇気を振り絞ってグリド達に立ち向かっていったことは充分に分かっている。紆余曲折あったかもしれないが最後の最後、正念場でお前は退かなかった」

「そうね…ありがとう」

「…それに優しい奴の隣は居心地が良い。ミレアの隣もそうだったよ」

「………………」

「…?ミレア?…おい、どうした?」

ミレアは話しを中断し、顔を背けてもう寝ましょと言い、それっきりムスビに朝まで顔を向けることも言葉を発することもなかった。

「…、もしかして相当変なセリフ言っちゃったか?………どうしよう。……………おいミレア、さっきの無しに」

「…」

「…もう寝てるか。アズキ、俺達も寝るか」

ワンッ!

その後になって、自分で言葉に対して少し後悔するムスビであった。

翌日、ミレアの顔にはうっすらと隈が出来ていたのだった。


第二十話 勝利を祝う星空 終

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アドベンチャー ポンやさい @hgdaomke74

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